【本編完結】作られた悪役令息は断罪後の溺愛に微睡む。

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
34 / 54

34 ボクは幸せになりたい3(アメシス視点

しおりを挟む
「はぁ?私の相手はアクアではなくアメシス?ちっ……しょうがないですね」

「な、どういう事だ!?」

「悪ぶってるけれど、素直で可愛いアクアなら私の妻に相応しいし、アクアは頭がいい。きっと良く働いてくれると思っていたんですよ。でもアメシスは私の事をずっと見下していたし、頭悪いでしょ?アメシスって。でも仕方がないから結婚してあげますよ。顔はまあアクアに似て可愛いですからね」

 クレスト家を継ぐためにやってきた親戚のルーカスはため息と共にそんなことを言った。元々アクアの伴侶としてこのクレスト家を継ぐために勉強してきた男だけれど、アメシスと王太子サフィールの婚約が無くなり、アクアもクレスト家に戻らない。なのでこのルーカスとアメシスが結婚してクレスト家を継ぐという形になったのだ。

「お、お前はアクアと結婚は嫌だと……!」

「そりゃガキの頃は嫌でしたよ。でも歳を追うごとにアクアの良さに気づいたんです。あいつは優しいし、良く人を見ている。悪そうにしている割に落ち込んでいる奴がいれば助けたり。庭で迷子になった妹を宥めて連れてきたりね。公爵やアメシスに隠れてやってたから報告はしなかった」

 アクアを褒めるルーカスを見て、アメシスは拳を握り締めて震えるしかなかった。自分の知らない所でそんな人気取りをしていたアクアが憎くてしょうがないという風に。

 そして王宮から流れてくる噂にも苛立ちを隠しきれない。

「王妃様がアクア様の行方を探すよう命じたらしいわ」

「以前から王妃様のお茶会に出ていたのはアクア様で、何を聞いても答える聡明なアクア様は王妃様のお気に入りだったらしいわ……」

「そう言えば治水についての意見や農業についての気づきは役に立ったと褒めていらしたとか」

 噂話の全てがアクアを褒めたたえている。そして

「アメシス様に命じられて、アメシス様のフリをして出ていたんでしょう?」

「そうなの。アメシス様に無理やり命じられて、「悪役令息」にされてたんですって!」

 噂は口をそろえてアメシスを非難する。

「それなら王太子殿下に婚約解消を言い渡されても仕方がないわよねえ」

「破棄でなかっただけ、感謝しないとダメよねえ」

「殿下の新しい婚約者にアクア様をって望まれているらしいわ」

 どんなに耳を塞いでも噂話はアメシスの耳に飛び込んでくる。

「ううっ……ボクが……ボクが何をしたっていうのさあああ!ボクは、ボクは幸せになりたかっただけなのにーーー!」

 部屋に閉じこもって泣き出してしまう。

「ルーカスも酷い!ボクよりアクアが良かったなんて!ボクが頭が悪いなんて……酷い酷い!しかも殿下の新しい婚約者がアクア!?なんだよ、皆、アクア!アクア!アクア!あんな平民の悪役令息のどこが良いんだよ!」

 アクア……今はアランと呼ばれているアメシスの義兄にどんな仕打ちをしたか全て忘れ去ってアメシスは自分の身の上を悲しむ。

「アクア……狡い、アクア、狡いよ……。ボクだって幸せになりたいのに、狡い!……そうだ。ボクとアクアはそっくりなんだ……入れ替わっちゃえばどうせわかんない。そうだよ、アクア。君のその幸せをボクに頂戴!」

 そう決めるとアメシスは昔からアクアに換金させ続けていたお金を握り締め、荷物を持って家を飛び出した。向かう場所は前も浸かった事がある高速馬車の停留所だ。

「ネージュ国までぶっ飛ばして!お金はあるから!ボクは絶対幸せになるんだ!」



 
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

処理中です...