【本編完結】作られた悪役令息は断罪後の溺愛に微睡む。

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
32 / 54

32 ボクは幸せになりたい(アメシス視点

しおりを挟む
「駄目だ、出来ない。駄目だ、覚えられない……うわあああんっ!」

「アメシス!早く用意をするんだ。今日は王妃様とのお茶会であろう!」

「無理ぃ……ボク、今日行かない」

「行かなければ問答無用で婚約解消されてしまうぞ!良いのか!!」

「ふぇ~ん……!お父様、代わりに出てください」

「馬鹿なこと言うな!メイド共、アメシスを支度させよ!」

「は、はい!」

 こうしてボクはあわただしく身支度され、王宮へと向かわされる。勉強しても勉強しても全然覚えられない。だって歴代国王なんて何人いると思ってるの!?しかも似たような名前でさ、ナントカ3世、ナントカ5世。知るかそんなの!!自慢じゃないけど暗記系は不得意なんだよぉ!何が得意だって……?勉強は全部嫌いだ!


「アメシス、今日は……」

「ふええぇ……」

 王太子のサフィール様が出迎えてくれた。今日の洋服はサフィール様が送って下さった、とても素敵な拵えなんだけれど、徹夜続きのボクは体調も最悪、肌のコンディションも悪い。化粧でなんとかカバーしているけれど、サフィール様が

「……大丈夫そうではないね……」

 と、口ごもるくらい最悪な感じだった。それでもサフィール様は手を取ってエスコートしてくれる。

「……アクアに会ったのかい?」

「……はい……。ボクの事もお父様の事もアクアは冷たく見下してきました。たまたまタングストン公爵に見初められたからって……家族の事をあんな風に横柄に捨てるなんてあんまりです」

 哀れっぽく殿下に訴える。もう最悪の噂を流している最中だ。タングストン家も最悪だし、そこで横暴に振る舞うアクアって事にしてね。ボク達はせっかく迎えに行ったのに、酷い裏切りを受けて悲しみに暮れているって感じ。アクアもタングストン家も社交界からつまはじきにされちゃえばいいんだ!
 でも、ダングストン公爵はかっこよかったなあ……怖い感じだけど、それが逆にゾクゾクしちゃう!

「アメシス?聞いてる……?」

「え?あ、ハイ!」

 ヤバ、なんにも聞いてなかった。殿下は何と仰ったんだろう?ま、いいか。今日こそは王妃様を怒らせて退出させないようにしないと。全然何にも覚えられなかったボクは良い事を考えたんだ……途中で具合が悪くなって帰ればいいって!そう、王妃様がいなくなる前にボクが倒れてしまえばボロを出さなくて済むでしょう?だからその為にもメイドにコルセットを思いっきり締め上げて貰ったの。
 殿下から贈られた服は締め上げは必要ない形だったけれど、多少でもスタイルが良い方が良いし……。

「アメシス?良いね、必ずだよ」

「ひゃ?……は、はい!」

 また聞いてなかった。ま、大丈夫だろう。ボクは長年コレで済ませて来たからその癖が抜けてなかったんだ。痕からアクアに聞けば完璧な答えを用意してあるし、聞きそびれた事も全部アクアが覚えている。そのアクアがいない生活にボクはまだ慣れていなくて……殿下の話をもう一度聞き返していれば良かったのに……。

「私も隣でフォローしよう。頑張ろうね、アメシス」

「はいっ!!殿下」

 殿下は優しくてキラキラしている。でもあのタングストン公爵を見た後だとちょっと見劣りしちゃうんだよね。ボクは一番の美形は絶対殿下だって思ってたのに、あんなに整った顔の人がいたなんて。それに背も高くて体つきもしっかりしてて……抱きしめられるアクアが凄く華奢で可愛く見えるんだ。ボクとアクアはほとんど背も体つきも変わらない。ボクがタングストン公爵に抱きしめられてもあんな風に可愛らしく見えるんだろうな。
 それに比べて殿下はちょっと頼りない。優しいけれど、背もそこそこだし体も細い。たまに僕の方がしっかりしなきゃって思うくらいな時もあるし……アクアの方が幸せそうなんだもん!!

 殿下の事は好きだけど、魂のつがいかって聞かれたらなんか違う気がするんだよね。
 アクアをしっかり守ってるタングストン公爵みたいにボクもしっかり守って欲しいんだよなぁ……。

 サフィール殿下にエスコートされながら僕はアクアを見つめる優しくてとろけそうな真っ赤なイチゴジャムみたいなタングストン公爵の赤い瞳を思い出していた。



しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

処理中です...