【本編完結】作られた悪役令息は断罪後の溺愛に微睡む。

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
30 / 54

28 知らない所で起こっていた事

しおりを挟む
「アランーーー!」

「父さん!母さん!みんなーーー!」

 ソワソワしながらタングストン家に戻り、私はやっと懐かしい家族と抱き合った。

「アランが連れて行かれた後、怪しい奴らがうろつくようになって……恐ろしくて逃げたんだ」

「良かった……きっと公爵の手の者だろうね」

 情けない顔をする父さんだけど、平民がどうこう出来ることじゃないからね。平民の父さんたちが取った行動は最良だったと思う。

「アランに知らせたくても私達は字も書けないし、会いになんて到底無理で……」

「分かってる……無事に逃げてくれて本当に良かった……!」

「アラン……お前と引き換えに置いてかれた金は丸々取ってあるんだ。何度も返してくれと行ったんだが門前払いされて」

 なんて危ない事を!そのまま殺されちゃうかもしれないのに!

「そんな危ないことしないで!もう大丈夫だからね?」

 良かった……家族全員無事で良かった。

「兄ちゃん、随分きれいになったねぇ」

「凄い、兄ちゃん!」

 弟や妹はキラキラした目で私を見上げてくるから笑ってしまう。新しい弟妹も出来てたし、仲良しで何よりだよ。

「そりゃ兄ちゃんは公爵様と結婚したんだから、きれいになるよ?皆、兄ちゃんの旦那様に挨拶してくれた?」

「勿論だよ!それにしてもびっくりしたー。ここのお家の人達が突然こっちに来ませんかって言って」

「アラン兄ちゃんが結婚した旦那様の家だよって。無理矢理連れてったあの家じゃないから安心してって!」

 旦那様と側に立つ執事さんを見ると、にこりと笑ってくれた。クレスト家の事を考えると先手を打ってくれたんだろう。家族を人質に取られたら、私はクレスト家へ戻らなければならなかったかもしれない。後で沢山お礼を言わなくちゃ!
 でもいまは10年ぶりにあった家族と色々話したい……!旦那様は気を使って私を自由にしてくださっているし、メイド達もお茶やお菓子を持って来てくれた。

「今日は泊って行ってゆっくりお話をされると良いでしょうと旦那様が仰っておられましたよ」

 私の家族とは言え全員平民だから、メイド達より身分は下なのに大切に扱ってくれる。今だけは甘えてしまおう、そう思った。


「しかし平民で良いと仰っておりましたが、アクア……いえ、アラン様と婚姻なさる際にアラン様には爵位を一つつけましたので、アラン様のお父様となりますと、そのままレイリントン伯爵と言う事になっているのですが」

「後から伝えればよかろう。教会に妻の名前変更は済ませてあるな?」

「ええ、勿論でございます」

 そんな会話を旦那様と執事さんがしていたらしいけれど、私には後で教えてもらう事になるし、父さんは腰を抜かしてひっくり返るしで大変だった。

 それと……。

「ア、アクア様……やっぱりアクア様じゃなかったんですね!」

「え……?クレスト家にいたメイドだよね……?」

「ええ!まさか瞳の色を変えることが出来る薬があったなんて!それを知ってずっとわだかまっていた疑問が晴れました!」

 タングストン家に使用人が増えていた。全員見知った顔でものすごく驚いたけれど、全員アクア……いや、アメシスが難癖をつけて解雇した人達だった。

「あの意地悪そうなのに理不尽な事を言わないアクア様が突然人が変わったように私達をクビにするなんて。ずっとずっとおかしいなと思っていたんです」

「本を読んで大人しくしているのが好きなアクア様が突然暴れるのはおかしいなと思っていたんです。瞳の色を替えたと聞いて納得しました。実際アメシス様の方が使用人を見下していましたからね……」

「私達に気づかれたから、私達はアメシス様にクビにされたんですね……」

 この人達も執事さんが探し出してきてくれたそうだ。

「ご、ごめんなさい……あの時はどうしてもアメシスにもクレスト公爵にも逆らえなかったんです」

 突然解雇されて皆、困っただろうし苦労したと思う。私がもっとちゃんとやれていればそんな苦労はかけなかったのに。

「分かってます、大丈夫ですよ」

 全然大丈夫な事なんてなかっただろうに、皆は笑顔で私を許そうとしてくれる。

「それより今日からまたよろしくお願いしますね。アクア様……いえ、アラン様のお陰でこちらに高給で雇われたんですから」

 そ、そうなの?全員の顔を見渡すと、皆笑っていた。誰も無理なんてしていない、納得して働いてくれようとしている。

「お小さい頃のアラン様の思い出話を聞きたいとおっしゃる方がいましてね?さて、何を話しましょうか、10歳の頃でしたかね?おねしょを……」

「あ、あれは!アメシスがやったのに私に押し付けて……!!」

 前日にアメシスが皆に隠れて火遊びをして、それで!しかもアメシスが自分のベッドでやらかしたのに、何故か私のせいにされた事じゃないか!
 慌てて否定すると、この部屋にいた全員にくすくすと笑われてしまった。でも嫌な笑い方じゃなくて、子供の頃の失敗を思い出して懐かしむ、そんな感じの笑い方。


「だからわたしじゃないって言ったのにー!」

「ふふふ、そうでしたね。アクア様はそんな事なさらないですもんね」

「うん!」

 10歳だった頃の私が頭ごなしに否定され、決めつけられ、躾と称して殴られてた。その痛みの記憶が認められ、信じられて一つづつ溶けて行くようだった。




 
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

処理中です...