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27 私は!
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「だ、旦那様。あの方達は他国の公爵家の方でございますよ」
やめて下さい、笑いそうです。
「そうだったか?私には玉ねぎに見えたのだが、アランがそう言うならそうなのだろう」
旦那様は全力で私を笑わせに来るから困ったものです。
「た、たま、玉ねぎ……っ」
顔を真っ赤にしてぷるぷるアメシスは震えているけれど、もう赤い玉ねぎにしか見えなくなってしまった。
「タ、タングストン公……ぷ、ぷぷ、た、玉ねぎはない……っせめて、人間として、認識して、さ、差し上げてくだ……ぷっ」
「こ、こら、止めろ。わ、私達は勤務中……ぷ、ぷぷ」
ほら、衛兵さん達が耐えきれずに吹き出してしまいましたよ、悪い旦那様です!
「あっはっは!玉ねぎか!せめてジャガイモならアランの好物であったのにな!まあ良い。クレスト公よ、そう言う事だ。この国に公の息子アクアはおらぬし、アクアらしきと言われた者はタングストン家で幸せに夫人として暮らしておる。別人だ!」
心底愉快そうに声を上げ、そう宣言される陛下にクレスト公爵は頭を下げるしかない。それよりどうして陛下まで私の好物がお芋だと知っているのかが気になり過ぎる。
「……わ、わかり、ました」
「父上っ?!あいつはアクアです!アクアを連れて帰らなければ私はどうなるんですかっ!!」
陛下が断言してクレスト公爵が了承したのに、まだアメシスは諦めていないみたいだ。一体何故そこまで……だって悪役令息は卒業パーティーで断罪されるまでだったのに。
「お前を替え玉に使っていた事がバレたらしいぞ」
「えっ」
旦那様がそれはそれは楽しそうに小声で耳打ちしてくれた。
「マナーの授業も実践も全てアクアに任せていたんだろう?王妃のお茶会で大失態をおかし、その後も一つとして上手く行かなかった。更にテストの答案に鑑定までかけられたらしい」
「そ、それじゃあ……全部……」
心底愉快そうに旦那様は唇の端を持ち上げる。ちょっと悪魔っぽいですね……大人の色気を感じます、素敵です!
「そっくり過ぎるのも考え物だな、途中でバレればここまで酷い事にならなかっただろう。しかし全く違うのに何故皆気づかなかったか私には理解出来ん」
「勉強しなくても出来るってアメシスは自信満々でしたのに」
「根拠のない自信とは恐ろしいものだな」
ヒソヒソと話し合う私達をアメシスは睨んでいる。
「何なの!何なの!アクアの癖にイチャイチャして!ボクの方が絶対可愛いのに!!」
もう少し落ち着いたらどうだろうか……本当にマナーを何も知らないんだ、アメシスは。あんな態度本来ならつまみ出されてもおかしくないのに。
赤い玉ねぎとして厨房に連れられて行かれちゃうぞ……。
「アランも折角再会した家族と早く話したいであろう。これで解散とする!アランはアクア・クレストではない、分かったな?」
「……はい……」
これ以上の抗議は陛下への反逆と捉えられる。クレスト公爵は納得するしかなかった。
「帰ろう、アラン」
「はい、旦那様」
促す様に回された手が優しくて顔がにやけてしまいそう。変な表情にならない様にしっかりしなくちゃ。
「ア、アクアーーーっ!」
アメシスの声。事もあろうに退出しかけた私達に走り寄ってくる。あの顔はいつも私を叱り飛ばし、殴ろうと手を振り上げる、あの顔だ。
8歳の頃からアメシスに叩かれ続けた私。気に入らない、もっと悪い事をしろとなじってきたアメシス。
(悪役令息が使用人に優しくする訳ないじゃん!もっと横暴にお皿とか割れよ!こんな風にさ!)
(やめて、アメシスっ!あっ!!)
ガシャーンと響き渡る破砕音、飛んでくるメイド。
「大丈夫ですか!アクア様、アメシス様っ!」
グズグズと急に泣き出すアメシス。
「ア、アクアがこんなスープ飲めないって……床に……こわいよぉ……」
食事の最中に、皆から見えない様に私の皿を叩き落とすアメシス。そんな楽しくない思い出がパラパラと蘇り脳裏を掠めて行く。
走って来るアメシスに旦那様はすぐに気づき、私を後ろへ隠そうとするが、それを止めた。私は、私は!
「アラン・タングストン公爵夫人ですから」
体は震えていたと思う。声も上ずったかもしれないでも、私は出来る。
袖の隠しポケットの中から小ぶりの扇を取り出して、振り上げたアメシスの腕をピシャリと打つ。
「いたっ!」
そのままスパン!と下へ叩き落とした。
「陛下の御前ですよ」
そのまま扇を開いて口元を隠し、呆然とするアメシスを冷たく見下ろす。
「参りましょう、旦那様」
「そうだな」
何事もなかったと滑らかに退場する。
「さ、流石……タングストン夫人」
「我々の出る幕がないじゃないか」
衛兵さん達はそんな事を言っていたようだけれど、実際は上手にできてホッとしていたんですよ!
やめて下さい、笑いそうです。
「そうだったか?私には玉ねぎに見えたのだが、アランがそう言うならそうなのだろう」
旦那様は全力で私を笑わせに来るから困ったものです。
「た、たま、玉ねぎ……っ」
顔を真っ赤にしてぷるぷるアメシスは震えているけれど、もう赤い玉ねぎにしか見えなくなってしまった。
「タ、タングストン公……ぷ、ぷぷ、た、玉ねぎはない……っせめて、人間として、認識して、さ、差し上げてくだ……ぷっ」
「こ、こら、止めろ。わ、私達は勤務中……ぷ、ぷぷ」
ほら、衛兵さん達が耐えきれずに吹き出してしまいましたよ、悪い旦那様です!
「あっはっは!玉ねぎか!せめてジャガイモならアランの好物であったのにな!まあ良い。クレスト公よ、そう言う事だ。この国に公の息子アクアはおらぬし、アクアらしきと言われた者はタングストン家で幸せに夫人として暮らしておる。別人だ!」
心底愉快そうに声を上げ、そう宣言される陛下にクレスト公爵は頭を下げるしかない。それよりどうして陛下まで私の好物がお芋だと知っているのかが気になり過ぎる。
「……わ、わかり、ました」
「父上っ?!あいつはアクアです!アクアを連れて帰らなければ私はどうなるんですかっ!!」
陛下が断言してクレスト公爵が了承したのに、まだアメシスは諦めていないみたいだ。一体何故そこまで……だって悪役令息は卒業パーティーで断罪されるまでだったのに。
「お前を替え玉に使っていた事がバレたらしいぞ」
「えっ」
旦那様がそれはそれは楽しそうに小声で耳打ちしてくれた。
「マナーの授業も実践も全てアクアに任せていたんだろう?王妃のお茶会で大失態をおかし、その後も一つとして上手く行かなかった。更にテストの答案に鑑定までかけられたらしい」
「そ、それじゃあ……全部……」
心底愉快そうに旦那様は唇の端を持ち上げる。ちょっと悪魔っぽいですね……大人の色気を感じます、素敵です!
「そっくり過ぎるのも考え物だな、途中でバレればここまで酷い事にならなかっただろう。しかし全く違うのに何故皆気づかなかったか私には理解出来ん」
「勉強しなくても出来るってアメシスは自信満々でしたのに」
「根拠のない自信とは恐ろしいものだな」
ヒソヒソと話し合う私達をアメシスは睨んでいる。
「何なの!何なの!アクアの癖にイチャイチャして!ボクの方が絶対可愛いのに!!」
もう少し落ち着いたらどうだろうか……本当にマナーを何も知らないんだ、アメシスは。あんな態度本来ならつまみ出されてもおかしくないのに。
赤い玉ねぎとして厨房に連れられて行かれちゃうぞ……。
「アランも折角再会した家族と早く話したいであろう。これで解散とする!アランはアクア・クレストではない、分かったな?」
「……はい……」
これ以上の抗議は陛下への反逆と捉えられる。クレスト公爵は納得するしかなかった。
「帰ろう、アラン」
「はい、旦那様」
促す様に回された手が優しくて顔がにやけてしまいそう。変な表情にならない様にしっかりしなくちゃ。
「ア、アクアーーーっ!」
アメシスの声。事もあろうに退出しかけた私達に走り寄ってくる。あの顔はいつも私を叱り飛ばし、殴ろうと手を振り上げる、あの顔だ。
8歳の頃からアメシスに叩かれ続けた私。気に入らない、もっと悪い事をしろとなじってきたアメシス。
(悪役令息が使用人に優しくする訳ないじゃん!もっと横暴にお皿とか割れよ!こんな風にさ!)
(やめて、アメシスっ!あっ!!)
ガシャーンと響き渡る破砕音、飛んでくるメイド。
「大丈夫ですか!アクア様、アメシス様っ!」
グズグズと急に泣き出すアメシス。
「ア、アクアがこんなスープ飲めないって……床に……こわいよぉ……」
食事の最中に、皆から見えない様に私の皿を叩き落とすアメシス。そんな楽しくない思い出がパラパラと蘇り脳裏を掠めて行く。
走って来るアメシスに旦那様はすぐに気づき、私を後ろへ隠そうとするが、それを止めた。私は、私は!
「アラン・タングストン公爵夫人ですから」
体は震えていたと思う。声も上ずったかもしれないでも、私は出来る。
袖の隠しポケットの中から小ぶりの扇を取り出して、振り上げたアメシスの腕をピシャリと打つ。
「いたっ!」
そのままスパン!と下へ叩き落とした。
「陛下の御前ですよ」
そのまま扇を開いて口元を隠し、呆然とするアメシスを冷たく見下ろす。
「参りましょう、旦那様」
「そうだな」
何事もなかったと滑らかに退場する。
「さ、流石……タングストン夫人」
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