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18 私もその一人です(使用人代表・執事視点
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旦那様がおかしくなった。いや、元々私共の旦那様はおかしかった。人を人と思わぬ絵に描いたような公爵様。感情は殆ど感じない、完璧な青年。
お生まれと同時に母親を亡くし、父親とも殆ど触れ合わず成長なされた。乳母との触れ合いも最低限なのに、何も感じていらっしゃられないご様子で使用人一同心配で仕方がなかった。
旦那様は「人間」と言う物に全く興味を示さないお人だったのです。
歳を追うに従い、どうしても避けて通ることの出来ない人との触れ合いはこなされて来ました。仕事上関わらざるを得ない人とのやり取りはできるようになりました。
しかし、そこまででした。旦那様は公爵として完璧でしたが人間としては最低と言わざるを得ません。
人でないからこその公平性はあれども、人の心を解さない故の冷たさ、傲慢さはどうしようもないものでした。
お持ちの色も相まってついた通り名は「悪魔公爵」血も涙もない冷徹公爵だと。
「アクア」
「ひぃ」
その旦那様が溶けた。あの買ってきたオメガの青年を見た瞬間、分かりやすく溶けた。
私のする事はその場で決まった。ゆっくりお辞儀をして生まれて初めて緊張しながら喋る旦那様を観察している場合ではない。
ゆっくり静かに扉を閉め、近くに控えていたメイド長、料理長、庭師……全ての使用人に指令を下す。
「まずは風呂の用意だ。奥様は暫く湯浴みをしていらっしゃらない、最高級の石鹸を!」
「はいっ!」
風呂係のメイド達が走っていく。いつもなら走るなと言うべき所だが、私達はこれからクビになるまでの短い間だけでも奥様に最高級のおもてなしをしなければならない。
「この後旦那様は奥様と仲を深めなさるでしょう。一切の裏方は我々が。それと放置していた奥様の過去を全て調べるんだ」
「はっ!」
「奥様が快適に暮らせるよう、我々がいなくなった後、何の不自由もないように!」
「……はい」
私が使える「影」達を放つ。メイド長や料理長は後悔の顔で立っているが、もうしでかしてしまった私達の過去は取り消せない。
「執事長様……やはり私達はクビですよね」
「当たり前だろう……私達は奥様にここ1か月何をした?」
旦那様の意向に沿ったと言えば聞こえは良いが、全員であの少年から抜け出したばかりのアクア様を無視した。何もおっしゃられずとても静かな方なのをいいことに更に私達は増長していた。
「旦那様のあの変わり様……いや、喜ぶべき事だな。旦那様が人間らしくなった。奥様には旦那様を人間にする力がある……我々は消えなければならない」
全員で顔を見合わせて頷いた。
「私達は旦那様に恩と忠義がある。ならば最後まで旦那様の幸せを願うべきだ。旦那様の幸せは奥様と共にある、我々はそれに尽くすそうだろう?」
私達はもう一度頷き合う。短い間だけでも奥様に忠義を!許して貰おうなんておこがましい事は考えず、この先気持ち良く暮らしていかれる下準備を全て整えてよう。
「奥様、旦那様をよろしくお願いします」
扉に深々とその場にいた全員で頭を下げ、散ってゆく。
その後、許すと言う奥様の言葉に驚いて
「この様な見下げた使用人など首にすべきです!」
と、自分の事なのに叫びそうになるが、奥様の決定に逆らうのはとんでもない事だと思い直して口を閉じる。
「叱るに叱れませんよ」
そう苦笑する奥様だが、瞳は私達を映していない気がした。何か過去の過失を取り戻そうと言う色が見えるのだ。
私達は知らなければならない。この出来過ぎた奥様の痛みを。そして旦那様とずっと仲良く心穏やかにここで暮らして貰うために、全ての力を使わなければならない。
「お優しい奥様の為に!」
使用人一同の心は一つになった。むしろ旦那様より奥様に傾倒している者も多い。
そんな傾倒した使用人の一人である私は、与えられた権力の全てを使うのだった。
お生まれと同時に母親を亡くし、父親とも殆ど触れ合わず成長なされた。乳母との触れ合いも最低限なのに、何も感じていらっしゃられないご様子で使用人一同心配で仕方がなかった。
旦那様は「人間」と言う物に全く興味を示さないお人だったのです。
歳を追うに従い、どうしても避けて通ることの出来ない人との触れ合いはこなされて来ました。仕事上関わらざるを得ない人とのやり取りはできるようになりました。
しかし、そこまででした。旦那様は公爵として完璧でしたが人間としては最低と言わざるを得ません。
人でないからこその公平性はあれども、人の心を解さない故の冷たさ、傲慢さはどうしようもないものでした。
お持ちの色も相まってついた通り名は「悪魔公爵」血も涙もない冷徹公爵だと。
「アクア」
「ひぃ」
その旦那様が溶けた。あの買ってきたオメガの青年を見た瞬間、分かりやすく溶けた。
私のする事はその場で決まった。ゆっくりお辞儀をして生まれて初めて緊張しながら喋る旦那様を観察している場合ではない。
ゆっくり静かに扉を閉め、近くに控えていたメイド長、料理長、庭師……全ての使用人に指令を下す。
「まずは風呂の用意だ。奥様は暫く湯浴みをしていらっしゃらない、最高級の石鹸を!」
「はいっ!」
風呂係のメイド達が走っていく。いつもなら走るなと言うべき所だが、私達はこれからクビになるまでの短い間だけでも奥様に最高級のおもてなしをしなければならない。
「この後旦那様は奥様と仲を深めなさるでしょう。一切の裏方は我々が。それと放置していた奥様の過去を全て調べるんだ」
「はっ!」
「奥様が快適に暮らせるよう、我々がいなくなった後、何の不自由もないように!」
「……はい」
私が使える「影」達を放つ。メイド長や料理長は後悔の顔で立っているが、もうしでかしてしまった私達の過去は取り消せない。
「執事長様……やはり私達はクビですよね」
「当たり前だろう……私達は奥様にここ1か月何をした?」
旦那様の意向に沿ったと言えば聞こえは良いが、全員であの少年から抜け出したばかりのアクア様を無視した。何もおっしゃられずとても静かな方なのをいいことに更に私達は増長していた。
「旦那様のあの変わり様……いや、喜ぶべき事だな。旦那様が人間らしくなった。奥様には旦那様を人間にする力がある……我々は消えなければならない」
全員で顔を見合わせて頷いた。
「私達は旦那様に恩と忠義がある。ならば最後まで旦那様の幸せを願うべきだ。旦那様の幸せは奥様と共にある、我々はそれに尽くすそうだろう?」
私達はもう一度頷き合う。短い間だけでも奥様に忠義を!許して貰おうなんておこがましい事は考えず、この先気持ち良く暮らしていかれる下準備を全て整えてよう。
「奥様、旦那様をよろしくお願いします」
扉に深々とその場にいた全員で頭を下げ、散ってゆく。
その後、許すと言う奥様の言葉に驚いて
「この様な見下げた使用人など首にすべきです!」
と、自分の事なのに叫びそうになるが、奥様の決定に逆らうのはとんでもない事だと思い直して口を閉じる。
「叱るに叱れませんよ」
そう苦笑する奥様だが、瞳は私達を映していない気がした。何か過去の過失を取り戻そうと言う色が見えるのだ。
私達は知らなければならない。この出来過ぎた奥様の痛みを。そして旦那様とずっと仲良く心穏やかにここで暮らして貰うために、全ての力を使わなければならない。
「お優しい奥様の為に!」
使用人一同の心は一つになった。むしろ旦那様より奥様に傾倒している者も多い。
そんな傾倒した使用人の一人である私は、与えられた権力の全てを使うのだった。
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