上 下
17 / 54

17 その日初めて神に感謝をした(旦那様・ノエレージュ視点)

しおりを挟む
「ひ……」

 この世に、こんな人間が存在していたなんて。

 私は自分の事を理性的な人間だと認識していた。それは物心ついてからずっとそうであったはずで、母親の顔も温もりも知らないが特に問題はないと思った。
 父親はいたが、特に話をする事も無かった。それで問題はなかった。私は公爵になる為に学び、経営をし、要らない物は切り捨てた。

 綺麗な水色の瞳は驚きの後恐怖の色に変わったけれど、これは誰なのかまず知らなければならない。誰であろうが絶対に手放すなと眠っていた本能が全身から炎を噴き上げ訴えかけている。

「お、お前が……」

 名前、名前……確か

「アクア、で間違いないか?」

 この屋敷にいる若いオメガはたった一人しか思い浮かばない。私がクソ国王以下を騙さらせる為だけに手配する様に執事に命じた私の「妻」だ。名前は誓約書で見た「アクア」と言う文字のみ。

「そ、そうです」

 くらり、眩暈がした。何て心地よく響くんだろう。あの小さな唇が動いた、それだけで心が震える。噛みつきたい、撫で回したい。それでもきちんと学南しなければ

「わ、私の……私の!私の妻で間違いないなっ!!」

 声が上ずっている。感情の制御など容易い事、子供の頃から無表情と言われて来た私がこんなになるとは!
 しかし確かめねば、もし違ったらどんな手を使ってもここに居てもらわねばならない!

「あ、あなたがこのお屋敷の主人であるなら、間違いないと、思います。私は「旦那様」の顔も名前も、知りません
……」

 少しだけ目を閉じ、開いた。震える声、頼りなく揺れる瞳……。

 神はいた!!人生で初めて神に感謝を捧げていた。ああ!アクアをこの世に送り出して下さってありがとうございます!出会わせてくれてありがとうございます!
 アクアは怯えている。早く、早く謝らねば。そ、そうだ!アクアは私の名前も知らないのか!私は最低な夫だな……夫?ああ!私はもうこの子の夫なのか!本当に??そんな美味い話があるのか??いや、ないはず。何か夢を見ているの?そうだ、夢かどうかアクアに確認しなければ。

「私の名前はノエレージュ・タングストンと言う」

 人と初めて会ったなら自己紹介をしなければならない!

「アクアと言うオメガを妻を得たこの屋敷の主人だ。お前の夫で間違いないな?な?」

 そうだよな?違わないよな?アクアは最早涙目になりながら一生懸命答えてくれた。

「そ、それならば間違いないと思います……」

 私のアクアだ!!
 
 執事の目がとても冷たい。分かっている、分かっている。どうせ今の私は大好きな主人にまとわりつく犬みたいみたいだと言いたいんだろう?!ふん、なんとでも言え!誰が何と言おうとどう見られようと私は、私はアクアが大好きだ!

 二度と離れないぞ!!思わず腕に力が入ったらアクアが「ぴぇっ」と泣いた。し、しまった……わ、私は人とのかかわり方に疎いのではないだろうか!?これが人付き合いをサボってきたツケか……辛い。




しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

愛しいアルファが擬態をやめたら。

フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」 「その言い方ヤメロ」  黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。 ◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。 ◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。

婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。 そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。 それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。 しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。 ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。 前半は受け君がだいぶ不憫です。 他との絡みが少しだけあります。 あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。 ただの素人の小説です。 ご容赦ください。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様

冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~ 二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。 ■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。 ■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...