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25 私の旦那様
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「さて、クレスト公。其方の息子が我が国の貴族タングストン家に売られて来て監禁されておると言う話であったが、どうも違うように余には見えるのだが?」
「し、しかしそこにいるのは私の息子のアクアです!き、きっと脅されて……そ、そうだよな?アクア、私達が助けに来たんだ!サフィール殿下にも私達から口利きをするから、戻って来て良いのだ!」
必死で私に声をかけるクレスト公爵。なんだろう、昔はあんなに怖かったのに今は全然怖くない。殴られたり蹴られたり絶対に逆らえないと思っていたのに、よく見るとただの頭髪の侘しいおじさんに見える。
だって旦那様と比べたら、大した事ないんだもの。
「アクア、他国の公爵がお前を息子だと言っているよ」
旦那様は微笑む、それに私も微笑み返す。
「ふふ、そんなはずないですよ。だって私は旦那様もご存知の通り平民の生まれですもの」
「その通りだ。そう言う事だ、やはり私の妻はクレスト公の息子である筈がないのだよ」
旦那様は陛下にも聞こえるように言い、私を引き寄せる。旦那様に寄り添うと何だかとても温かく感じる……私は冷たくなっていたのかな?やっぱり、長年染み込んだあの人達の呪縛からまだ逃れていないんだ。
大丈夫、私の隣に。
はい、旦那様の隣に居れば私は大丈夫です。そっと旦那様の服の端を掴んでみる。旦那様の笑みが深くなるから、私もとても嬉しい。
「そう言う事は帰ってからな?タングストン公?」
しまった、まだ陛下の前だった!アメシスやクレスト公爵の存在もすっかり頭の中から消えていた……まだ居たんだった。
「ア、アクアぁ……っ!!」
アメシスの可愛らしい顔が歪んで、怖い声が漏れて来る。私に命令する時の、あの冷たくて高圧的な声。やめなよ、アメシス。君のファンになりかけたネージュ国の衛兵さんが眉を顰めてるよ?
「人妻だけど、アクア様の方が可愛いな……」
旦那様、睨むのはやめてあげて下さいませ。
「アクア!お前と言う奴は……そうだ、帰って来たらお前の両親に合わせてやろう……我が公爵家の力を持ってすれば簡単に探し出せるからな?さあ帰るぞ、アクア」
両親!平民だった私の家族!ど、どうしよう……私も両親に会いたい。生きているかどうかさえわからない人達。旦那様、私は会いたいです、平民の両親に。
「その必要はない」
冷たい旦那様の宣言。
旦那様……旦那様が言うなら……そうなのですよね?旦那様は服を握る私の手を静かに外し……、
温かい手で握り直してくれた。
「陛下。人を呼ぶ事をお許し下さい」
「構わぬ」
旦那様のとても温かい手。私を見つめる優しい赤い目。疑うなんてしなくて良い。
この謁見の間に繋がる扉がゆっくり開いて、入ってきたのは懐かしい顔ぶれだった。
「と、父さん……母さん……!」
「アラン……まあ、立派になって……!」
駆け寄りはしなかったけれど、涙は溢れてしまった。父さんと母さんだ!弟や妹も全員いる!
「今朝到着しました。彼らがアクア……アランの両親と兄弟です。色々あり行方不明になっておりましたが、ネージュへ来ないかと誘った所、快く応じてくれまして」
もしかして、旦那様は探して下さっていたの?!もう近くにいるから探す必要はないって事だったんですね?
「爵位の一つもと思いましたが、そちらは拒否されてしまいましてね。自分達は平民で良いと。ただアクア……元の名前はアランと言うそうですが……一目会いたいと」
旦那様はまず陛下に説明をしてからクレスト公爵に冷たく笑いかけた。
「私の妻の身内は私が保護した。ますます貴殿の長男であるというアクアと私の妻が別人であると分かっただろう?安心して国へ帰ると良い」
家族を人質のように扱おうとしたクレスト公爵を分かりやすく侮蔑の目で見て旦那様は強く言い放つ。
「ひっ……」
皆から恐れられていたと言う威圧感満載の視線は直撃したら心臓が止まりかねない。クレスト公爵は寿命が7.8年ほど奪われたような土気色の顔になってしまった。
「し、しかしそこにいるのは私の息子のアクアです!き、きっと脅されて……そ、そうだよな?アクア、私達が助けに来たんだ!サフィール殿下にも私達から口利きをするから、戻って来て良いのだ!」
必死で私に声をかけるクレスト公爵。なんだろう、昔はあんなに怖かったのに今は全然怖くない。殴られたり蹴られたり絶対に逆らえないと思っていたのに、よく見るとただの頭髪の侘しいおじさんに見える。
だって旦那様と比べたら、大した事ないんだもの。
「アクア、他国の公爵がお前を息子だと言っているよ」
旦那様は微笑む、それに私も微笑み返す。
「ふふ、そんなはずないですよ。だって私は旦那様もご存知の通り平民の生まれですもの」
「その通りだ。そう言う事だ、やはり私の妻はクレスト公の息子である筈がないのだよ」
旦那様は陛下にも聞こえるように言い、私を引き寄せる。旦那様に寄り添うと何だかとても温かく感じる……私は冷たくなっていたのかな?やっぱり、長年染み込んだあの人達の呪縛からまだ逃れていないんだ。
大丈夫、私の隣に。
はい、旦那様の隣に居れば私は大丈夫です。そっと旦那様の服の端を掴んでみる。旦那様の笑みが深くなるから、私もとても嬉しい。
「そう言う事は帰ってからな?タングストン公?」
しまった、まだ陛下の前だった!アメシスやクレスト公爵の存在もすっかり頭の中から消えていた……まだ居たんだった。
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アメシスの可愛らしい顔が歪んで、怖い声が漏れて来る。私に命令する時の、あの冷たくて高圧的な声。やめなよ、アメシス。君のファンになりかけたネージュ国の衛兵さんが眉を顰めてるよ?
「人妻だけど、アクア様の方が可愛いな……」
旦那様、睨むのはやめてあげて下さいませ。
「アクア!お前と言う奴は……そうだ、帰って来たらお前の両親に合わせてやろう……我が公爵家の力を持ってすれば簡単に探し出せるからな?さあ帰るぞ、アクア」
両親!平民だった私の家族!ど、どうしよう……私も両親に会いたい。生きているかどうかさえわからない人達。旦那様、私は会いたいです、平民の両親に。
「その必要はない」
冷たい旦那様の宣言。
旦那様……旦那様が言うなら……そうなのですよね?旦那様は服を握る私の手を静かに外し……、
温かい手で握り直してくれた。
「陛下。人を呼ぶ事をお許し下さい」
「構わぬ」
旦那様のとても温かい手。私を見つめる優しい赤い目。疑うなんてしなくて良い。
この謁見の間に繋がる扉がゆっくり開いて、入ってきたのは懐かしい顔ぶれだった。
「と、父さん……母さん……!」
「アラン……まあ、立派になって……!」
駆け寄りはしなかったけれど、涙は溢れてしまった。父さんと母さんだ!弟や妹も全員いる!
「今朝到着しました。彼らがアクア……アランの両親と兄弟です。色々あり行方不明になっておりましたが、ネージュへ来ないかと誘った所、快く応じてくれまして」
もしかして、旦那様は探して下さっていたの?!もう近くにいるから探す必要はないって事だったんですね?
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家族を人質のように扱おうとしたクレスト公爵を分かりやすく侮蔑の目で見て旦那様は強く言い放つ。
「ひっ……」
皆から恐れられていたと言う威圧感満載の視線は直撃したら心臓が止まりかねない。クレスト公爵は寿命が7.8年ほど奪われたような土気色の顔になってしまった。
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