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23 それは強さでもあるが弱さでもあった。
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タングストン家にやってきた使いの者を執事は追い返した。何度も何度も懲りずにやってくるのを何度も何度も追い返す。そしてとうとう国王陛下から手紙が届き、タングストン当主として出向かねばならなくなってしまった。
「アクア、私を信じて欲しい」
突然ノエレージュにそう言われたが、疑問を一欠片も抱かずにアクアは
「はい、信じております。旦那様」
と、笑顔で答える。そう言ってくれるだろうと信じていたノエレージュも笑顔を作ってから、真顔になる。これから話す事は避けて通れない事なのだからと。
「クレスト公爵がお前と面会したいと陛下に直訴した。流石の私も国王陛下の招集を蹴る訳にはいかん」
アクアの顔色が一瞬で青くなり、こわばる。きゅっと唇を引き結びながらもこくりと頷いた。
「はい、わかりました」
そしていつものように笑顔を作ろうとして、失敗する。どうしても口角が上がらないのだ。笑みの形を必死で作ろうとしているが頬がそれ以上上がる事を拒んでいる。握り締めて真っ白になるアクアの手をノエレージュは優しく包み込む。
「手を繋ごう。そして絶対に離さない……何があっても、絶対にだ」
「……はい……」
「明日、向かう」
「……はい……」
準備を整え、翌日ノエレージュとアクアは公爵家の馬車へ乗り込む。寄り添っても抱き締めてもアクアはずっと震えていた。
「アクア、私には弱音をはいて良いんだよ。怖いって。助けてって」
震え続ける可愛いつがいの髪の毛を優しく撫でながらノエレージュは囁く。その長年植え付けられた恐怖を少しでも慰めるように。
「こわいです……だんなさま……」
「私を守ってと言ってごらん?」
「おねがいです……だんなさま……わたしは、だんなさまとはなれたくない、まもってください、だんなさま……」
貴族ならば涙を見せぬようにと厳しく教育をされている。感情もあまり表に出さないようにと。その厳しい教育の賜物を破ってしまうほど、アクアはノエレージュと引き離されることを恐れて泣いた。
今までは知らなかった。一人で耐えなければならないと心を硬くして守った……それなのに今は守って幸せにしてくれる人がいる事を知ってしまった。本当の幸せを、自分が自分でいるのを一緒に見守って笑って愛してくれる人がいる事を知ってしまった。
「もう、だんなさまがいないなんて……かんがえられない……だんなさまがいなかったらわたしは、いきていけない」
「私もだよ、アクア。私の可愛いアクア、私の愛しいつがい。頑張って一度だけ面会を耐えてくれ。一度だけで良い」
「そばに、いてくださいますか……?」
「絶対に離さないから安心しなさい」
「……はい」
アクアの震えが止まり、涙が消える。それでも二人は馬車の中でずっと抱き合っていた。時折目を合わせて笑い、そして押し黙る。どうやってお互いにお互いを守ろうか、二人の仲を引き裂かれないようにするためにはどうしたらいいか。王城へ着く時間の許す限り、考え続けていた。
「アクア、私を信じて欲しい」
突然ノエレージュにそう言われたが、疑問を一欠片も抱かずにアクアは
「はい、信じております。旦那様」
と、笑顔で答える。そう言ってくれるだろうと信じていたノエレージュも笑顔を作ってから、真顔になる。これから話す事は避けて通れない事なのだからと。
「クレスト公爵がお前と面会したいと陛下に直訴した。流石の私も国王陛下の招集を蹴る訳にはいかん」
アクアの顔色が一瞬で青くなり、こわばる。きゅっと唇を引き結びながらもこくりと頷いた。
「はい、わかりました」
そしていつものように笑顔を作ろうとして、失敗する。どうしても口角が上がらないのだ。笑みの形を必死で作ろうとしているが頬がそれ以上上がる事を拒んでいる。握り締めて真っ白になるアクアの手をノエレージュは優しく包み込む。
「手を繋ごう。そして絶対に離さない……何があっても、絶対にだ」
「……はい……」
「明日、向かう」
「……はい……」
準備を整え、翌日ノエレージュとアクアは公爵家の馬車へ乗り込む。寄り添っても抱き締めてもアクアはずっと震えていた。
「アクア、私には弱音をはいて良いんだよ。怖いって。助けてって」
震え続ける可愛いつがいの髪の毛を優しく撫でながらノエレージュは囁く。その長年植え付けられた恐怖を少しでも慰めるように。
「こわいです……だんなさま……」
「私を守ってと言ってごらん?」
「おねがいです……だんなさま……わたしは、だんなさまとはなれたくない、まもってください、だんなさま……」
貴族ならば涙を見せぬようにと厳しく教育をされている。感情もあまり表に出さないようにと。その厳しい教育の賜物を破ってしまうほど、アクアはノエレージュと引き離されることを恐れて泣いた。
今までは知らなかった。一人で耐えなければならないと心を硬くして守った……それなのに今は守って幸せにしてくれる人がいる事を知ってしまった。本当の幸せを、自分が自分でいるのを一緒に見守って笑って愛してくれる人がいる事を知ってしまった。
「もう、だんなさまがいないなんて……かんがえられない……だんなさまがいなかったらわたしは、いきていけない」
「私もだよ、アクア。私の可愛いアクア、私の愛しいつがい。頑張って一度だけ面会を耐えてくれ。一度だけで良い」
「そばに、いてくださいますか……?」
「絶対に離さないから安心しなさい」
「……はい」
アクアの震えが止まり、涙が消える。それでも二人は馬車の中でずっと抱き合っていた。時折目を合わせて笑い、そして押し黙る。どうやってお互いにお互いを守ろうか、二人の仲を引き裂かれないようにするためにはどうしたらいいか。王城へ着く時間の許す限り、考え続けていた。
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