上 下
24 / 54

22 嵌らないピースと嵌ったピース

しおりを挟む
「い、居ない?!そんなはずないよね、絶対アクアだよ!」

「私もそう思うが……やはり我らが足を運ばねばならんのか」

 アメシスとクレスト公爵はむむ、と唸ったが結局はアクアがいると言うネージュ国への旅を決めた。
 結局アメシスはこの短期間でマナーや知識の遅れを取り戻す事は出来ない。次に大きな場で何かやらかす前に、代役のアクアを連れて来なければ王太子の婚約者の座を追われてしまう。
 そしてクレスト公爵はどんどん悪化して行く公爵家の収入を青い顔で見ていた。何をどうやって効率を上げていたかわからないが、アメシス……いや、アクアがやっていた頃はもっとお金が入ってきていたのだ。

「な、何が、何が違うのだ?!」

「分かりません……!」

 執事ですら原因が掴めない。とにかくアクアに確かめなければクレスト家はいずれ没落してしまう。そうでなくてもアメシスの王太子妃の座も雲行きが怪しくなっているのに。

「金はかかるが仕方がない。高速馬車を用意しろ!急いでネージュへ向かう!」

「は、はい!」

 こうして2人はアクアの住むタングストン家に向けて出発したのだった。



 そんな事をアクアは全く気が付かず、今日もノエレージュと笑いあったり、孤児院の視察に出かけたり、タングストン公爵夫人として皆に感謝されながら笑顔で過ごしていた。上から押さえつけられる事もなく、本来の自分の思うままに行動できる事にアクアは感謝を忘れない。

「私……旦那様のつがいになれてよかった……とても幸せです」

「私もだよアクア。君がいると私の中の欠けていた物が満ちてくるのが分かるんだ。いつも何か足りなくてイライラしていた自分が嘘のようだ」

「私もです……旦那様の暖かさが私を満たしてくれる……」

 いつも寄り添っている2人をみて人々は自然と笑顔になる。

「何というか、夜の空とお月様みたいだなぁ」

「そうだなぁもう悪魔公爵なんて呼べないなぁ」

 徐々にノエレージュのあだ名も悪魔公爵から月を抱く夜空の様だと変化して行く。苛烈で人を罰するのを何の躊躇いもなく行う冷血漢から、歳若い伴侶を大切にする優しい公爵へと。

「「やっぱりアクア様は凄い!」」

 そしてまだまだ増え続ける芋の贈り物にアクアの困惑は続いていた。

「孤児院でもこんなにお芋は食べないし、どうしたら良いでしょうか」

「別の物が好きだと噂を流してみようか?きゅうりとか」

 確かにアクアはきゅうりもトマトもよく食べる。

「きゅうりは日持ちしませんのでたくさんいただく事があればもっと困ってしまいます」

「そうだな、では何が良いのだ?」

 何がいいのかと問われると返答に困ってああでもないこうでもないと悩んでいる。それをみてノエレージュも使用人達も……街の人まで微笑ましく思っているのだった。

 

 
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。

亜沙美多郎
BL
 高校に入学して直ぐのバース性検査で『突然変異オメガ』と診断された時田伊央。  密かに想いを寄せている幼馴染の天海叶翔は特殊性アルファで、もう一緒には過ごせないと距離をとる。  そんな折、伊央に声をかけて来たのがクラスメイトの森島海星だった。海星も突然変異でバース性が変わったのだという。  アルファになった海星から「契約番にならないか」と話を持ちかけられ、叶翔とこれからも友達として側にいられるようにと、伊央は海星と番になることを決めた。  しかし避けられていると気付いた叶翔が伊央を図書室へ呼び出した。そこで伊央はヒートを起こしてしまい叶翔に襲われる。  駆けつけた海星に助けられ、その場は収まったが、獣化した叶翔は後遺症と闘う羽目になってしまった。  叶翔と会えない日々を過ごしているうちに、伊央に発情期が訪れる。約束通り、海星と番になった伊央のオメガの香りは叶翔には届かなくなった……はずだったのに……。  あるひ突然、叶翔が「伊央からオメガの匂いがする」を言い出して事態は急変する。 ⭐︎オメガバースの独自設定があります。

処理中です...