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15 話を聞いてください旦那様
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「アクアはアクアであれば何の問題もない」
「お願いです、旦那様……話くらいさせてください!」
「……そ、そうか?」
外でする話ではないから、と室内の談話室へ戻ってきた。現当主である旦那様と前当主であるお義父様。それと
「執事さんにも同席して貰った方が良いです」
恐縮そうに辞退された執事さんに無理を言って一緒に聞いてもらう事にする。執事さんはこの家を取り仕切るのに必要な方だ。それくらい私にだってわかっている。
「私は元々貴族ではありません。両親は平民で平民として8歳まで町で暮らしておりました。それなのに突然クレスト家へ売られるように連れていかれ養子になったのです」
私は全て包み隠さずお伝えした。クレスト家にはアメシスという私とそっくりな目の色だけが違う男の子がいた事、その子に「悪役令息」になれと言われた事。そして無理やり色々な悪事を働くよう強制された事、時にはアメシスと入れ替わって色々な悪い事をしたこと……。
「そしてついに私は王太子殿下に断罪され、国から追放されたのです。その時にクレスト家からも捨てられ……隣国の国境に置いて行かれました。その後山賊らしき人に捕まり、ここへ売られてきました。だから私は平民で、貴族の旦那様へ嫁ぐには身分が違い過ぎるのです」
「そうであったか……アクアは可愛いな」
旦那様は相変らず人の話を聞いていない。困ってお義父様と執事さんを見ると二人は顔を見合わせてから
「成程。訳ありだが大人しく何でも言う事を聞きそうな若いオメガの見た目が良いモノ。という条件を提示して買い取らせていただきました。条件は何も外れていなかったので、私と致しましては何の問題もないと捉えております」
淡々と事務的に答える執事さん。とても冷たくて慇懃無礼にしか見えないけれど、この人はとてもまじめな忠義の人なんだと私は気が付くことが出来た。きっと過去に何度も何度も旦那様を諫めたけれど聞き入れてもらえなかった。旦那様は自分の意見を曲げないお人柄のようだし、執事さんはそんな旦那様でもついて行くと決めた人なんだろう……。その旦那様の「ご注文」通りにだったので問題ないのですか??
「旦那様は自分の伴侶となる人物の身分は何も指定されませんでしたので、アクア様は何の問題もないと愚考いたします」
「い、良いのでしょうか……?」
そして、完璧な執事の顔をほんの少し緩めて、ロバートさんは分かりにくく微笑んだ。
「良いも何も……あのようにひどい仕打ちをした使用人である私共を笑顔で許してくださる心優しい奥様をこれ以上どう嫌いになれと仰るのですか。我々、使用人一同身命を賭してこれから奥様にお仕えする所存でございます」
「そこまでしなくて大丈夫ですよ」
そう言っても執事さんは深々と頭を下げ、そのまま頭を上げようとしない。うーん、困ったなあ。お義父様助けてください。
「ワシも何も問題がないと感じる。元の国とそれほどまでに見事に縁が切れているのは逆に重畳。生まれが平民だろうがなんだろうが、アクアは礼儀作法は出来ておる。少しこの国について学んでくれればノエルの妻として立派にやっていけるだろうし……ワシとしては諦めていた孫の顔が拝めるかと思うと嬉しくてたまらんのじゃよ」
満面の笑みの後にため息を一つ、そして紅茶を一口飲んでから
「ノエルの他人への無関心ぶりは酷い物だ。それが原因で最初の妻にも逃げられておる……しかしどうだ、アクアへの執着はワシらとて引くほどだ。他人への関心を全てアクア一人に向けておるのではないか?この馬鹿息子は」
「何とでも。私はアクアがいてくれればどうでもいい」
旦那様はこんな時でも私を膝の上に乗せて抱きかかえている……あの、恥ずかしいです……。執事さんもお義父様も呆れ顔ですよ!
「というか、どうなのじゃ?アクア自身は。こやつはアクアの事をつがいだと主張しておる。お前はこやつの事をつがいだと感じるか?嫌であればワシが力を貸す。ワシの作った芋をあんなに美味そうに食う子はお前が初めてじゃ。ワシはアクアを気に入ったのでのう!」
お芋は本当に、本当に美味しかったんですが……私……私は。
「私は……旦那様の事が……嫌い……」
ひゅっと頭上から息をのむ音が聞こえてきた。旦那様?旦那様?もしかして呼吸が止まっていらっしゃる??
「ではありません。旦那様といるととても……嬉しい……落ち着きますし、とても良い匂いのする方だなって。これがつがいと言うものなのでしょうか?」
つがい……まだふわふわして良く分からないけれど、これがつがいと一緒にいるという事なんだろうか?
「でも始終ノエレージュ様がくっ付いていらして、負担になることはございませんか?」
ほんの少し顔を上げて執事さんが心配そうな声で尋ねてくる。
「……あまり感じませんが、少し……恥ずかしいです」
いつでもこれではちょっと照れてしまうけれども別に嫌だとかはない。ただ、誰がいてもこれなのは恥ずかしいんです!
「……これはつがいに間違いありませんな」
「息子の重い想いを受け止める事が出来るのはアクア位という事か」
私はここにいていいのでしょうかと聞き返すと
「頼むからいてくれ。アクアがいないとノエルがどうなるか分からん」
「アクア様をいなくなられると旦那様は発狂の末、国を滅ぼしかねませんから必ずお傍にいらしてください」
「ここ以外のどこへ行くつもりだ?私も付いて行くが構わんだろう?」
三人三様に大げさな事を言われた。そう言われると必要とされている事が嬉しくて笑顔ではい!と返事をしてしまった。私はここで虐げられずに暮らしていけそうだなと思った。
「お願いです、旦那様……話くらいさせてください!」
「……そ、そうか?」
外でする話ではないから、と室内の談話室へ戻ってきた。現当主である旦那様と前当主であるお義父様。それと
「執事さんにも同席して貰った方が良いです」
恐縮そうに辞退された執事さんに無理を言って一緒に聞いてもらう事にする。執事さんはこの家を取り仕切るのに必要な方だ。それくらい私にだってわかっている。
「私は元々貴族ではありません。両親は平民で平民として8歳まで町で暮らしておりました。それなのに突然クレスト家へ売られるように連れていかれ養子になったのです」
私は全て包み隠さずお伝えした。クレスト家にはアメシスという私とそっくりな目の色だけが違う男の子がいた事、その子に「悪役令息」になれと言われた事。そして無理やり色々な悪事を働くよう強制された事、時にはアメシスと入れ替わって色々な悪い事をしたこと……。
「そしてついに私は王太子殿下に断罪され、国から追放されたのです。その時にクレスト家からも捨てられ……隣国の国境に置いて行かれました。その後山賊らしき人に捕まり、ここへ売られてきました。だから私は平民で、貴族の旦那様へ嫁ぐには身分が違い過ぎるのです」
「そうであったか……アクアは可愛いな」
旦那様は相変らず人の話を聞いていない。困ってお義父様と執事さんを見ると二人は顔を見合わせてから
「成程。訳ありだが大人しく何でも言う事を聞きそうな若いオメガの見た目が良いモノ。という条件を提示して買い取らせていただきました。条件は何も外れていなかったので、私と致しましては何の問題もないと捉えております」
淡々と事務的に答える執事さん。とても冷たくて慇懃無礼にしか見えないけれど、この人はとてもまじめな忠義の人なんだと私は気が付くことが出来た。きっと過去に何度も何度も旦那様を諫めたけれど聞き入れてもらえなかった。旦那様は自分の意見を曲げないお人柄のようだし、執事さんはそんな旦那様でもついて行くと決めた人なんだろう……。その旦那様の「ご注文」通りにだったので問題ないのですか??
「旦那様は自分の伴侶となる人物の身分は何も指定されませんでしたので、アクア様は何の問題もないと愚考いたします」
「い、良いのでしょうか……?」
そして、完璧な執事の顔をほんの少し緩めて、ロバートさんは分かりにくく微笑んだ。
「良いも何も……あのようにひどい仕打ちをした使用人である私共を笑顔で許してくださる心優しい奥様をこれ以上どう嫌いになれと仰るのですか。我々、使用人一同身命を賭してこれから奥様にお仕えする所存でございます」
「そこまでしなくて大丈夫ですよ」
そう言っても執事さんは深々と頭を下げ、そのまま頭を上げようとしない。うーん、困ったなあ。お義父様助けてください。
「ワシも何も問題がないと感じる。元の国とそれほどまでに見事に縁が切れているのは逆に重畳。生まれが平民だろうがなんだろうが、アクアは礼儀作法は出来ておる。少しこの国について学んでくれればノエルの妻として立派にやっていけるだろうし……ワシとしては諦めていた孫の顔が拝めるかと思うと嬉しくてたまらんのじゃよ」
満面の笑みの後にため息を一つ、そして紅茶を一口飲んでから
「ノエルの他人への無関心ぶりは酷い物だ。それが原因で最初の妻にも逃げられておる……しかしどうだ、アクアへの執着はワシらとて引くほどだ。他人への関心を全てアクア一人に向けておるのではないか?この馬鹿息子は」
「何とでも。私はアクアがいてくれればどうでもいい」
旦那様はこんな時でも私を膝の上に乗せて抱きかかえている……あの、恥ずかしいです……。執事さんもお義父様も呆れ顔ですよ!
「というか、どうなのじゃ?アクア自身は。こやつはアクアの事をつがいだと主張しておる。お前はこやつの事をつがいだと感じるか?嫌であればワシが力を貸す。ワシの作った芋をあんなに美味そうに食う子はお前が初めてじゃ。ワシはアクアを気に入ったのでのう!」
お芋は本当に、本当に美味しかったんですが……私……私は。
「私は……旦那様の事が……嫌い……」
ひゅっと頭上から息をのむ音が聞こえてきた。旦那様?旦那様?もしかして呼吸が止まっていらっしゃる??
「ではありません。旦那様といるととても……嬉しい……落ち着きますし、とても良い匂いのする方だなって。これがつがいと言うものなのでしょうか?」
つがい……まだふわふわして良く分からないけれど、これがつがいと一緒にいるという事なんだろうか?
「でも始終ノエレージュ様がくっ付いていらして、負担になることはございませんか?」
ほんの少し顔を上げて執事さんが心配そうな声で尋ねてくる。
「……あまり感じませんが、少し……恥ずかしいです」
いつでもこれではちょっと照れてしまうけれども別に嫌だとかはない。ただ、誰がいてもこれなのは恥ずかしいんです!
「……これはつがいに間違いありませんな」
「息子の重い想いを受け止める事が出来るのはアクア位という事か」
私はここにいていいのでしょうかと聞き返すと
「頼むからいてくれ。アクアがいないとノエルがどうなるか分からん」
「アクア様をいなくなられると旦那様は発狂の末、国を滅ぼしかねませんから必ずお傍にいらしてください」
「ここ以外のどこへ行くつもりだ?私も付いて行くが構わんだろう?」
三人三様に大げさな事を言われた。そう言われると必要とされている事が嬉しくて笑顔ではい!と返事をしてしまった。私はここで虐げられずに暮らしていけそうだなと思った。
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