【本編完結】作られた悪役令息は断罪後の溺愛に微睡む。

鏑木 うりこ

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「アクア……」

「あ、あ、あ……!」

 フェロモンだ、アルファのフェロモン。駄目だ、駄目!おかしくなる。

「アクア、発情期ヒートはいつだ」

「ひ……っ、ま、まだ、まだ、来た事、ない、です」


 アメシスは発情期が来たと言っていた。

「一緒じゃないと困るんだから、早く発情期になってよね!!」

 と、何度も言われたし、医者にも何度も見てもらったが

「個人差がありますよで、いくら双子でも同じとはまいりませんよ」

 そう言われ続けて少しだけホッとした。子供の時の栄養事情なのか、毎日アメシスに無理を言い付けられる心労なのか……同じになる事を無意識に拒否したのかは分からないけれど、自分ではどうする事もできない事だった。


「そうか、まあ良い」

「あ、あ……」 

 空気が甘く濃くなる。何度か当てられた事があるから知っているけれど、これは間違いなくフェロモン。耳の奥がどくどくと音を立てて血の流れが速くなる。あまりの加速についていけなくて目が回る。

「や、やめ……止めて」

 何故か知らないけれど、旦那様は私を発情させようとしている!何の為に?私は、名前と存在だけ有れば良いはずなのに!

「何故、止める必要が?私達は結婚した伴侶なのだから、伴侶としての営みは何もおかしいことはあるまい?」

 あ……そうだ。私達は初めて顔と名前を知ったけれど、結婚した伴侶なんだ……なら、気まぐれに欲を晴らす為に行為に及ぶ事もあるのか……?でも、でも……!止めて下さい!

「おね、待って……だんなさま、わ、私……わたしぃ……とても、よごれて……ゆるして……」

 風呂なんてここに連れて来られた初日以降入っていない。初日は連れて来られた時の垢を落とすとかなり乱暴に擦られて痛くて涙が出そうになった。そしてすぐに無視され始めたのでそれ以降はない。水も貴重だったし、タオルや布巾の類も手に入らなかったから朝に水で顔を洗う程度だけ。綺麗なわけがない。
 もしかしたらさっきまで一生懸命きゅうりをかじっていたから、顔はきゅうりのカスだらけだろうし、足は土埃がいっぱいだと思う。涙目の私をじっと見下ろしてから

「……風呂へ行く」

「うう……」

 こうして至近距離に張り付かれるのも本当は嫌だ。だって絶対におかしな臭いがしているはずだもの。それなのに旦那様は私を突き放す事はせず、そのまま抱え上げて歩き出す。お風呂の場所がどこなのかは知らないけれど、私は旦那様の腕の中であまりの恥ずかしさに顔を隠して赤くなるしかなかった。


 どこかの部屋に備え付けられているバスタブにはもう温かいお湯が満たされていて、その中にそっと降ろされた。

「あ、あの……あの……」

 服を着たままは良くないと思うがもうくらくらするフェロモンをたっぷり吸いこんだ体は言う事を聞かなかった。服を乱雑に脱ぎ捨てた旦那様があまり広くないバスタブに乗り込んできても、もう何の抵抗もできない。

「あ、あ……」
 
 私の手より大きな旦那様の手が体全体を撫でて行く。優しいのか乱暴なのかもうわからないけれど、どこを触られても気持ちが良くてはしたなく懇願するしかなかった。

「お、おね……おねがい、だいてぇ……」

「……ああ」

 どこもかしこもとろとろに溶けた私は初めてなのにあっさり旦那様を受け入れた。




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