10 / 54
10 お芋ときゅうりが飛んで行った。
しおりを挟む
「ふえっ!」
変な声も出るよ!?誰も近寄って来ないはずの扉がノックされたんだから!しかもベッドの上でもらって来たきゅうりをポリポリ齧っていた最中だったんだもの。
「ど、どうしよう……!」
部屋は汚れ放題だし、貰って来た食べ物もある。そしてベランダから畑に出入りしているから、土汚れもある。
「そ、そうだ。寝てるフリをしよう!」
ふかし芋やきゅうりと一緒に布団をかぶった。
「ぐ、ぐうぐう……」
寝息の真似なんてしなくて良いのに、余計な事をしつつ息をひそめる。私は睡眠中です、扉は開けないで下さい、と祈りつつ。
しかし、私の願いは叶わず扉は開いたようで、私は更に息をひそめた。
「お疲れのようです、出直しては如何でしょう?」
執事さんの声が聞こえる。是非、そうしてください、と心の中で同意しながら規則正しい寝息を作る。すーはー、すーはー。
「そんな事はない」
聞いたことがない声が聞こえた。何で分かるのか、なんて思ったけれど、誰の声なのか少し興味が湧いたのがいけなかったようだ。扉が少し乱暴に空いたと思うと早足で近づいてくる音が聞こえ、身構える間もなかった。
「あっ」
ぱっと布団を捲られ、つい目を開けてしまった。そこには綺麗な男の人がいた。
「……」
綺麗な人。それが第一印象だった。真っ黒い髪は少しだけ長めで、髪の毛の色に負けないほど、煌めく赤の瞳は宝石みたいだな、と思う。
それでいて弱いとか儚いとかそう言う印象を全く受けない力強さと、アルファ特有の威圧感がさわりと空気を揺らす。
ど、どうしよう、一体誰なんだろう。初めて会う人だ。私は混乱したが、執事さんが横に控えている事、この屋敷に住んでいるアルファである事、目の輝きが強い事……ああ、理解出来た。この人が私の「旦那様」なんだ。
「旦那様」は私の事は名前と存在だけあれば良いはずだったのに、なぜここに現れたんだろう?よく分からない。
お芋ときゅうりが飛んで行った。とても美味しいのに。食べ物を守るように丸くなっていた私の背中にいきなり乗られたから、ベッドから食べ物が飛んだんだ。恐怖で身がすくむが全く動けない。
「やっ!」
「お前がアクアで間違いないな」
背中に馬乗り状態で顎だけ少し上を向かされる。なんとか旦那様の顔は見えるが、有無を言わせない断定のような質問に答えるしかない。
「そ、そう……です」
嘘をついてはいけない、何をされるか分からない恐怖に近い何かを全身で感じ取っていた。
「私の「妻」はお前で間違いないな?」
「あ、あなたがこのお屋敷の主人であるなら、間違いないと、思います。私は「旦那様」の顔も名前も、知りません
……」
その人は少しだけ目を閉じ、開いてから
「私の名前はノエレージュ・タングストンと言う。アクアと言うオメガを妻を得たこの屋敷の主人だ。お前の夫で間違いないな?」
「そ、それならば間違いないと思います……」
無理な格好に、私よりかなり体重のある旦那様が上に乗っている状態は息が苦しいし、不穏な空気も感じてざわざわと全身に寒気が走っていた。
旦那様は執事さんをチラリと見る。なんの異論も挟まず、執事さんは深く礼をして静かに部屋を出て行ってしまった。
ぱたん、と閉まる扉の音に私の混乱は加速した。
変な声も出るよ!?誰も近寄って来ないはずの扉がノックされたんだから!しかもベッドの上でもらって来たきゅうりをポリポリ齧っていた最中だったんだもの。
「ど、どうしよう……!」
部屋は汚れ放題だし、貰って来た食べ物もある。そしてベランダから畑に出入りしているから、土汚れもある。
「そ、そうだ。寝てるフリをしよう!」
ふかし芋やきゅうりと一緒に布団をかぶった。
「ぐ、ぐうぐう……」
寝息の真似なんてしなくて良いのに、余計な事をしつつ息をひそめる。私は睡眠中です、扉は開けないで下さい、と祈りつつ。
しかし、私の願いは叶わず扉は開いたようで、私は更に息をひそめた。
「お疲れのようです、出直しては如何でしょう?」
執事さんの声が聞こえる。是非、そうしてください、と心の中で同意しながら規則正しい寝息を作る。すーはー、すーはー。
「そんな事はない」
聞いたことがない声が聞こえた。何で分かるのか、なんて思ったけれど、誰の声なのか少し興味が湧いたのがいけなかったようだ。扉が少し乱暴に空いたと思うと早足で近づいてくる音が聞こえ、身構える間もなかった。
「あっ」
ぱっと布団を捲られ、つい目を開けてしまった。そこには綺麗な男の人がいた。
「……」
綺麗な人。それが第一印象だった。真っ黒い髪は少しだけ長めで、髪の毛の色に負けないほど、煌めく赤の瞳は宝石みたいだな、と思う。
それでいて弱いとか儚いとかそう言う印象を全く受けない力強さと、アルファ特有の威圧感がさわりと空気を揺らす。
ど、どうしよう、一体誰なんだろう。初めて会う人だ。私は混乱したが、執事さんが横に控えている事、この屋敷に住んでいるアルファである事、目の輝きが強い事……ああ、理解出来た。この人が私の「旦那様」なんだ。
「旦那様」は私の事は名前と存在だけあれば良いはずだったのに、なぜここに現れたんだろう?よく分からない。
お芋ときゅうりが飛んで行った。とても美味しいのに。食べ物を守るように丸くなっていた私の背中にいきなり乗られたから、ベッドから食べ物が飛んだんだ。恐怖で身がすくむが全く動けない。
「やっ!」
「お前がアクアで間違いないな」
背中に馬乗り状態で顎だけ少し上を向かされる。なんとか旦那様の顔は見えるが、有無を言わせない断定のような質問に答えるしかない。
「そ、そう……です」
嘘をついてはいけない、何をされるか分からない恐怖に近い何かを全身で感じ取っていた。
「私の「妻」はお前で間違いないな?」
「あ、あなたがこのお屋敷の主人であるなら、間違いないと、思います。私は「旦那様」の顔も名前も、知りません
……」
その人は少しだけ目を閉じ、開いてから
「私の名前はノエレージュ・タングストンと言う。アクアと言うオメガを妻を得たこの屋敷の主人だ。お前の夫で間違いないな?」
「そ、それならば間違いないと思います……」
無理な格好に、私よりかなり体重のある旦那様が上に乗っている状態は息が苦しいし、不穏な空気も感じてざわざわと全身に寒気が走っていた。
旦那様は執事さんをチラリと見る。なんの異論も挟まず、執事さんは深く礼をして静かに部屋を出て行ってしまった。
ぱたん、と閉まる扉の音に私の混乱は加速した。
228
お気に入りに追加
4,461
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。


愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる