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8 お腹、空いたなあ
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「お腹、空いたなあ……」
水は外の井戸にいっても、誰もいない時間帯の厨房へ行っても飲めることが分かった。それでも2.3日食料が手に入らないと腹は減る。
私を虐げてもいい存在だとメイド達は決めたようで、誰一人私の部屋に近づかなくなった。起こしに来ることもない、食事を運んでくることもないし、洗濯や掃除も勿論ない。
「うーむ……」
立派なクローゼットの中には何もない。勿論立派な鏡台の中身も、立派な机の中にも何も入っていない。この部屋にある物は全て見た目は立派だが使える何もなかった。
「流石に困った……」
着替える服もないから同じ服を着ている。元々着替えはあったのだが、洗濯をすると持っていかれたっきり持って帰って来てくれないので今着ているブラウスとズボンしかないのだ。誰かに聞こうにも凄い勢いでどこかへいなくなってしまってどうしようもない。
一度厨房へ顔を出したら、物凄い顔で睨まれて退散してきた。
「まだ耐えられるけど……もうすぐ限界が来る……」
反省室に閉じ込められ、水しか出されない事は何度もあったがそれでも数日後には引き出された。
「お兄様を許してやってください……お願いします」
そうやってアメシスが公爵様に泣きついたんだろう。きっと私にさせる新しい悪事でも思いついたんだろうね。それかやめさせたいメイドがいたか、単に暇だったのか。まあ今となってはどうでもいいかな。
でも、この状況はきっと永遠に続くだろう。流石に永遠に耐え続けることは出来ない。
「そうか……結婚した事実と名前さえあれば、私は死んでいた方が便利なのか」
なるほど、と思いつつも「死にたくない」と思う。ふと、窓の外を見ると少し奥に誰かの菜園が見える。8歳まで平民として暮らしていたから、畑の事は分かるから、そこに食べ物が植えてあることに気が付いた。
「……行ってみよう。何か分けてくれるかも……」
きっとこんな大きなお屋敷で働いているんだ。余裕くらいあるだろう。軟禁する気はなかったのかベランダの手すりをまたいで外に出ることが出来た。戻ってくるのも簡単そうだったから助かる。
「おっとっと……」
空腹で足元がふらついたけれど、何とか歩くことは出来る。優しい人の畑だといいなあと思いながら、ふらふらとそちらへ向かった。
「どちらさんで?」
「えっと……数日前にこちらのお屋敷に来たのですが……すいません、お腹が空いて。何か食べる物を分けていただけたらと……」
論より証拠という訳ではないけれど、私のお腹がぐーーーーーーーきゅるる、となんとも情けない音を派手にならしたので、この畑の主に全て真実だと伝わった。
「……確かふかし芋があったはず」
「い、芋っ……!」
平民時代の私の大好物だ。貴族になってからはそんなモノと言われて食べさせてもらえたことはなかった。ああ、お芋、ほこほこのお芋……。空腹で眩暈がする。
「ほら、食え」
「あああああああ、いただきますううううう」
お芋は冷めていてあまりほこほこしていなかったけれど、美味すぎる。どうして貴族はこんなに美味しいお芋に訳の分からないソースをたっぷり塗って良く分からない味にして喜ぶんだろう。不思議だった。ちょっと行儀が悪いな、とは思ったけれど、もう貴族じゃないんだと手で掴んで……相当必死に食べていたらしい。
「お前さん、よっぽど腹が減っていたんだなあ」
「ご飯が……もぐもぐ……貰えなくて……美味しい!」
「ふむ……。服もなんだか酷いなあ」
「これしか、もぐもぐ、なくて」
「ふーむ……」
この畑の主はおじさんとおじいさんの中間みたいな人でとても優しかった。庭師みたいなもんだと言っていてとても優しい人だった。
「ほれ、芋とトマト。そしてワシの着ていない服じゃ。着の身着のままよりマシじゃろう」
「あ、ありがとうございます!このお礼は一体どうしたら……?」
おじいさんはちょっと考えてから
「そうだのう、考えておくからまた来なさい」
「また来て良いんですか!?」
「勿論じゃよ」
「死ななくて済んだー!」
私は何度もお礼を言って部屋に戻る事にした。誰も見に来ないとはいえ、あちこちウロウロするなと言われている。何も用事がなければ部屋にいるべきだろう。
「ふかしたお芋に、トマト。キュウリもある。ああーなつかしいなあ。きゅうりそのままだー……いや、いっぺんに食べちゃ駄目だ。この先どういう状況になるか分からないから……まだ腐らないだろうしちょっとづつ食べよう」
部屋の中のなるべく日が当たらない涼しそうな場所に食料を置いて眠りに落ちる。最近空腹で良く寝られなかったから、やっと熟睡できるようになった。
水は外の井戸にいっても、誰もいない時間帯の厨房へ行っても飲めることが分かった。それでも2.3日食料が手に入らないと腹は減る。
私を虐げてもいい存在だとメイド達は決めたようで、誰一人私の部屋に近づかなくなった。起こしに来ることもない、食事を運んでくることもないし、洗濯や掃除も勿論ない。
「うーむ……」
立派なクローゼットの中には何もない。勿論立派な鏡台の中身も、立派な机の中にも何も入っていない。この部屋にある物は全て見た目は立派だが使える何もなかった。
「流石に困った……」
着替える服もないから同じ服を着ている。元々着替えはあったのだが、洗濯をすると持っていかれたっきり持って帰って来てくれないので今着ているブラウスとズボンしかないのだ。誰かに聞こうにも凄い勢いでどこかへいなくなってしまってどうしようもない。
一度厨房へ顔を出したら、物凄い顔で睨まれて退散してきた。
「まだ耐えられるけど……もうすぐ限界が来る……」
反省室に閉じ込められ、水しか出されない事は何度もあったがそれでも数日後には引き出された。
「お兄様を許してやってください……お願いします」
そうやってアメシスが公爵様に泣きついたんだろう。きっと私にさせる新しい悪事でも思いついたんだろうね。それかやめさせたいメイドがいたか、単に暇だったのか。まあ今となってはどうでもいいかな。
でも、この状況はきっと永遠に続くだろう。流石に永遠に耐え続けることは出来ない。
「そうか……結婚した事実と名前さえあれば、私は死んでいた方が便利なのか」
なるほど、と思いつつも「死にたくない」と思う。ふと、窓の外を見ると少し奥に誰かの菜園が見える。8歳まで平民として暮らしていたから、畑の事は分かるから、そこに食べ物が植えてあることに気が付いた。
「……行ってみよう。何か分けてくれるかも……」
きっとこんな大きなお屋敷で働いているんだ。余裕くらいあるだろう。軟禁する気はなかったのかベランダの手すりをまたいで外に出ることが出来た。戻ってくるのも簡単そうだったから助かる。
「おっとっと……」
空腹で足元がふらついたけれど、何とか歩くことは出来る。優しい人の畑だといいなあと思いながら、ふらふらとそちらへ向かった。
「どちらさんで?」
「えっと……数日前にこちらのお屋敷に来たのですが……すいません、お腹が空いて。何か食べる物を分けていただけたらと……」
論より証拠という訳ではないけれど、私のお腹がぐーーーーーーーきゅるる、となんとも情けない音を派手にならしたので、この畑の主に全て真実だと伝わった。
「……確かふかし芋があったはず」
「い、芋っ……!」
平民時代の私の大好物だ。貴族になってからはそんなモノと言われて食べさせてもらえたことはなかった。ああ、お芋、ほこほこのお芋……。空腹で眩暈がする。
「ほら、食え」
「あああああああ、いただきますううううう」
お芋は冷めていてあまりほこほこしていなかったけれど、美味すぎる。どうして貴族はこんなに美味しいお芋に訳の分からないソースをたっぷり塗って良く分からない味にして喜ぶんだろう。不思議だった。ちょっと行儀が悪いな、とは思ったけれど、もう貴族じゃないんだと手で掴んで……相当必死に食べていたらしい。
「お前さん、よっぽど腹が減っていたんだなあ」
「ご飯が……もぐもぐ……貰えなくて……美味しい!」
「ふむ……。服もなんだか酷いなあ」
「これしか、もぐもぐ、なくて」
「ふーむ……」
この畑の主はおじさんとおじいさんの中間みたいな人でとても優しかった。庭師みたいなもんだと言っていてとても優しい人だった。
「ほれ、芋とトマト。そしてワシの着ていない服じゃ。着の身着のままよりマシじゃろう」
「あ、ありがとうございます!このお礼は一体どうしたら……?」
おじいさんはちょっと考えてから
「そうだのう、考えておくからまた来なさい」
「また来て良いんですか!?」
「勿論じゃよ」
「死ななくて済んだー!」
私は何度もお礼を言って部屋に戻る事にした。誰も見に来ないとはいえ、あちこちウロウロするなと言われている。何も用事がなければ部屋にいるべきだろう。
「ふかしたお芋に、トマト。キュウリもある。ああーなつかしいなあ。きゅうりそのままだー……いや、いっぺんに食べちゃ駄目だ。この先どういう状況になるか分からないから……まだ腐らないだろうしちょっとづつ食べよう」
部屋の中のなるべく日が当たらない涼しそうな場所に食料を置いて眠りに落ちる。最近空腹で良く寝られなかったから、やっと熟睡できるようになった。
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