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5 作られてゆく悪役令息

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 私の貴族教育は厳しかった。何せ生まれも育ちも生粋の平民だ。それを突然貴族にしろと言われた家庭教師も困惑しただろう。そして……教師も酷かった。体罰は当然で気に入らなければ喚き散らすヒステリックなご婦人だった。

「ボクあの人嫌い。そうだ、いい物を手に入れたんだぁ」

 鞭を打たれて痛む手の甲をさすっているとある日アメシスがウキウキと声をかけてきた。

「見てーこの目薬!」

「えっ……なに?」

 無理矢理目玉に落とされた薬液はジンジンとしみてとても痛かった。痛みが落ち着いた頃、目を開けると私の水色の瞳が紫色に変色していたのだ。

「あはっ!すごーい!これで見分けがつかないね!今日からあのおばさんの授業、ボクの代わりにアクアが出てね」

「ええっ?!」

「なぁに?ボクに逆らうの?!」

「……うう……」

 私はその日から二倍殴られるようになった。家庭教師のご婦人は私の傷が多かろうが少なかろうが気にせず鞭を振り下ろしたし、アメシスの家族は

「流石我が息子。もう理解したのだな」

「えへっ。でもあの人ちょっと怖いから嫌だなぁ」

 なんてアメシスに鞭の跡がないのは、アメシスが優秀で叱られる事がないと思っていた。家庭教師と公爵の間で密なやりとりはなかったんだろう。

「平民ですもね!」

 公爵家のメイドは身分の高い人が多く、私の扱いはぞんざいだった。それでも

「跡が残るなんてとんでもないからね!ボクと見分けで来ちゃうようになるし」

 アメシスにきつく言われ、救急箱は貸してもらえた。私が必死で貴族のあれこれについて学ぶまで体罰は続く。

「見えない場所……足の裏や脛などにはその時の跡が残っています」

「よくある貴族の間違った家庭教師らしいやり方だな」

 私達の年齢が上がってくると、アメシスが私を「立派な悪役令息」にする為の教育が始まる。

「使用人にはきつく当たって。優しくしたらボクがアクアを叩くからね?」

 嫌な家庭教師の体罰の方法をアメシスは覚えていた。そこから私はわがままで使用人を困らせる令息として作り込まれて行く。マナーも勉強もわざと従わない。

「全くアクア様と来たら……アメシス様を見習って欲しいわ!」

 誰からもそう言われるようになるのはすぐだった。

「アメシス、私は人を虐めるなんて出来ないよ」

「何で?ボクの命令を聞けないの??……あ!そうだ。この色変えの目薬で……うわっ!しみる!」

「アメシス?!それ、凄く痛いよ??」

 アメシスは自分の目にあの痛い目薬を差した。

「ううーー!くそっ……でも成功だ。ふふふ」

「あっ……目が紫に……」

「これでボクがアメシスだなんて気がつく奴はいないね!さぁてどいつを首にしてやろうかなぁ~!あのいつも美味しくない人参を食事の時、ボクのお皿に沢山の入れてくる料理長にしよっと!」

「や、やめて!アメシス……」

「うるさいなぁ、アクアはボクの部屋に居てよね。一歩でも出たらお仕置きだよ!!」

「ひっ!」

 そうやってアメシスが私のフリをして傍若無人に何度も振る舞う。アメシスが解雇して行った使用人は私に少しだけ同情的な人達ばかりだった。

「お前はクビだ!!」

「な、何故ですか?!アクア様!私はアクア様の為を思って……あれ?アクア様じゃない……?もしかして、アメシス様……ですか?」

「うるさい!ボクはアクアだ!!こいつを摘み出せ!!」

「おやめ下さい!アクア様、助けて、助けて!アクア様ーー!」

 そんなメイドの声が何度も何度も聞こえて来た。私はその度に涙を流しながら、アメシスの部屋のクローゼットで小さく震えているしか出来なかった。

「ふふ、お兄様。今日も中々の悪役っぷりでしたよ。お父様もカンカンに怒っていらっしゃいますが、ちゃんとボクが庇って差し上げますから。なぁに、3.4日反省室に入れられるだけです」

「う、ううう……」

「泣くな!悪役が泣いて良いなんて誰が言った!!」

「う、う……」

 そうしてお父様に殴られ、地下の反省室に閉じ込められる。真っ暗で心細いはずの反省室だったけれど、いつしかそこは私が心から落ち着ける場所になった。
 
 だってここに入っていればアメシスが無茶な要求をしてくる事は絶対にないのだから。







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