【本編完結】作られた悪役令息は断罪後の溺愛に微睡む。

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
3 / 54

3 もう駄目かもしれない

しおりを挟む
 覚悟は決めていたが、人気のない山道を歩くのはとても恐ろしかった。目印は辛うじて残っている近くの町へ繋がっているはずの細い道。両横からうっそうと背の高い草が伸び、私の頭上すら覆い隠しそうだ。緩い風が吹き、木の葉がかさりと揺れるだけで急いでそちらを振り返る。

こわい

 声に出せば足が更に震えそうだ。ここに蹲っても何も良い事はない。とにかく足を前へ前へと動かし続ける。履きなれない、平らな床を歩くための装飾された靴が摺れてとても痛い。きっと皮がむけて血が出ているだろう。だからと言って今どうする事も出来ないし、替えの靴なんて持っている訳もないのでこれで歩き続けるしかない。
 なんとか、一歩でも前へ。なんとか町まで無事につきたい。

「こんな……こんな所で、死にたくない。せっかく自由になれたのに」

 やっと、やっと契約が切れたんだ。こんな所で終わりたくない。その一心で足を前に出す。

 どれくらい歩いただろうか。朝陽がやっと上った頃から歩き始めて太陽はもう中天を過ぎている。途中で小川を見つけて水を飲み、汚れた足を洗って持っていたハンカチを割いて足に巻く。山道が少しづつ広くなり、人里に近づいてきた気配がしてくる。ここまで森が薄くなってきたら、腹をすかせた獣に襲われることもないだろう。痛む足を引きずりながらも少しだけ安堵の息を漏らした瞬間だった。

「ご苦労なこったな」

「あ……」

 いかにも悪そうな、山賊と言った男5人に声をかけられ、その場にへたり込んで気を失ってしまった。疲れと痛みと緊張が限界を突破したのだった。


 目を覚ますと据えた臭いのする洞窟のような部屋の中だった。きょろきょろと見回すと小さな松明が一つだけあるがその他は暗くて良く見えない。そして手足は縄で縛られている。

「うう……ううう……う……」

 捕まったんだ、きっと殺されてしまう。せっかくアメシスから逃げられたのに、折角自由に生きられると思ったのに、どうして?なるべく静かに、声を押し殺して泣き続けた。私の人生は一体何だったのかと。


「おー、坊ちゃん起きたかい?」

 泣きつかれて転がっていると、出入り口らしいところから男がやってきた。あの時に見た事がある顔だからきっと山賊の類なんだろう。

「……もう、坊ちゃんではありません」

「へえ!あんないい身なりで高そうな服を着てて坊ちゃんじゃないと?」

 あれはアメシスが断罪シーンは確かこんな服だった、と言って用意した物だ。そんな服はもう要らない。

「その私を養っていた家から追放されました。だからもう坊ちゃんじゃないんです」

「へえ!訳ありか」

「はい」

 もう、真実を喋ったっていいだろう。もう嘘をついて生きなくて良いんだ。あと少ししか生きられないかもしれないけれど、もういい……。

「なんかめんどくせえ事になってるな、ちょっと待ってろ。お頭を呼んでくる」

 山賊はちょっと嫌そうな顔をしてまたいなくなった。一体私はどうなるんだろう?クレスト家に連絡したところで身代金みたいのを払う訳もない。でも私はオメガだから、運が良ければ殺されず誰かの所に売られるかもしれない。出来れば優しい人の所に、少しでも自由があれば……いや、甘い考えは捨てよう。


 
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

処理中です...