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3 もう駄目かもしれない

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 覚悟は決めていたが、人気のない山道を歩くのはとても恐ろしかった。目印は辛うじて残っている近くの町へ繋がっているはずの細い道。両横からうっそうと背の高い草が伸び、私の頭上すら覆い隠しそうだ。緩い風が吹き、木の葉がかさりと揺れるだけで急いでそちらを振り返る。

こわい

 声に出せば足が更に震えそうだ。ここに蹲っても何も良い事はない。とにかく足を前へ前へと動かし続ける。履きなれない、平らな床を歩くための装飾された靴が摺れてとても痛い。きっと皮がむけて血が出ているだろう。だからと言って今どうする事も出来ないし、替えの靴なんて持っている訳もないのでこれで歩き続けるしかない。
 なんとか、一歩でも前へ。なんとか町まで無事につきたい。

「こんな……こんな所で、死にたくない。せっかく自由になれたのに」

 やっと、やっと契約が切れたんだ。こんな所で終わりたくない。その一心で足を前に出す。

 どれくらい歩いただろうか。朝陽がやっと上った頃から歩き始めて太陽はもう中天を過ぎている。途中で小川を見つけて水を飲み、汚れた足を洗って持っていたハンカチを割いて足に巻く。山道が少しづつ広くなり、人里に近づいてきた気配がしてくる。ここまで森が薄くなってきたら、腹をすかせた獣に襲われることもないだろう。痛む足を引きずりながらも少しだけ安堵の息を漏らした瞬間だった。

「ご苦労なこったな」

「あ……」

 いかにも悪そうな、山賊と言った男5人に声をかけられ、その場にへたり込んで気を失ってしまった。疲れと痛みと緊張が限界を突破したのだった。


 目を覚ますと据えた臭いのする洞窟のような部屋の中だった。きょろきょろと見回すと小さな松明が一つだけあるがその他は暗くて良く見えない。そして手足は縄で縛られている。

「うう……ううう……う……」

 捕まったんだ、きっと殺されてしまう。せっかくアメシスから逃げられたのに、折角自由に生きられると思ったのに、どうして?なるべく静かに、声を押し殺して泣き続けた。私の人生は一体何だったのかと。


「おー、坊ちゃん起きたかい?」

 泣きつかれて転がっていると、出入り口らしいところから男がやってきた。あの時に見た事がある顔だからきっと山賊の類なんだろう。

「……もう、坊ちゃんではありません」

「へえ!あんないい身なりで高そうな服を着てて坊ちゃんじゃないと?」

 あれはアメシスが断罪シーンは確かこんな服だった、と言って用意した物だ。そんな服はもう要らない。

「その私を養っていた家から追放されました。だからもう坊ちゃんじゃないんです」

「へえ!訳ありか」

「はい」

 もう、真実を喋ったっていいだろう。もう嘘をついて生きなくて良いんだ。あと少ししか生きられないかもしれないけれど、もういい……。

「なんかめんどくせえ事になってるな、ちょっと待ってろ。お頭を呼んでくる」

 山賊はちょっと嫌そうな顔をしてまたいなくなった。一体私はどうなるんだろう?クレスト家に連絡したところで身代金みたいのを払う訳もない。でも私はオメガだから、運が良ければ殺されず誰かの所に売られるかもしれない。出来れば優しい人の所に、少しでも自由があれば……いや、甘い考えは捨てよう。


 
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