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1 追放される「悪役令息」
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「アクア!貴様のクレスト家の傘を着た悪逆非道な行い!もはや看過ならん!即刻処刑を……」
「お許しください!殿下、彼はアレでも私の兄なのです!命だけは、命だけはお助け下さい!」
「シス……君はあんな男にも慈悲をかけるのか……なんと心の優しい……やはり私の婚約者は君だけだ。ああ、シス、可愛い私のシス……もっと側に」
「はい……サフィール様……」
私は何とか表情を噛み殺す。まるでシナリオがあるかのような王太子殿下と美しい公爵令息。とても似合いのアルファとオメガだろう。
公爵令息のシスことアメシスは正真正銘のオメガだ。オメガであれば男でも女でもアルファの子供を産む事が出来る。だから、アメシスは麗しのアルファ、碧眼王太子サフィール様の小さな頃からの婚約者だ。
「シスの願いだ、叶えてやろう。良いだろうか。クレスト公」
「ええ、アメシスの願いならば。誰か、この不埒者を引っ立てよ!国外追放だ、それならば良いですかな」
「ああ、妥当な所だろう。シスもそれで良いね?」
「はい、サフィール様」
悲しげにサフィール様の胸に顔を埋める。目が合うと責めるような視線が絡む。ああ、まだか。
「は、離せ!嫌だ追放なんて!冗談じゃない!!」
私は衛兵に腕を掴まれまいとむやみやたらと手を振り回しバタバタと暴れる。
「アクア!この後に及んで情けない!捕まえて国境に捨ててこい!」
「い、嫌だ!父上、助けて下さい。捨てるなんて嫌です!」
父であるクレスト公爵の足に縋るも蹴飛ばされた。
「お前などもう息子でも何でもない!育ててやった恩も忘れて私の足ばかり引っ張る!クレスト家からも追放だ!」
「そんな……そんな酷い!」
私は蹴られた腕を押さえてながら涙を零す。痛い、折れてはいないだろうか腫れはするだろう。
「酷い?!それはお前の事だろう!アクア!お前はシスを筆頭に、一体どれだけの人間を痛めつけ嫌がらせをしたんだ?その罰を今、まとめて受けるが良い」
「私は……私は……!」
「ええい!連れて行け!」
王太子の判決の声が響き私は夜会から引きづり出された。私をよく知る私の家族だった者達の前から、彼らの人生のストーリーから私は排除される、このまま永遠に。
これで、良い、良いのだ。
騒がしい広間から追い出され、背中で扉が締められると突然暴れるのをやめて静かになった私を衛兵達は不思議そうに見下ろしていた。そして、ほぼ着の身着のまままで馬車に押し込まれる。
私は自分の行いを振り返る。
私の名前はアクア・クレスト。クレスト公爵家の長男として育てられた男のオメガだ。クレスト家の人間に相応しい白銀の髪の毛に透明度の高い湖のような澄んだ水色の瞳をしている。容姿は整っており、背はそこそこだろう。黙っていれば見栄えがするのに悪態ばかりつく嫌味で悪名高い公爵令息だ。
そして私の双子の弟のアメシス。アメシスは目の色が紫でそれ以外、私たちは外見はそっくりな双子と言われていた。問題ばかり起こす兄のアクアと違い、聡明でいつも微笑んでいて、誰にでも優しい完璧な公爵令息。
しかも王太子殿下の婚約者。どこからどう見ても非の打ち所がない弟。それが私達の評価。
「アメシス?良い物持ってるね?」
「ア、アクア……これはだめだよ、これは殿下が僕の為に!」
「良いだろ!?一つくらい!!」
私はそうやってアメシスの指輪を取り上げて持ち去ってしまう。
「酷い……アクア、返して……?」
「あんなもん売っちゃったよ?結構いい金額になったぞ」
「ひっ、酷い!!」
泣き崩れるアメシスを鼻で笑って自室に戻ってしまう。
「アメシス様、お可哀想に……」
「同じ坊っちゃまですのに、アクア様とアメシス様は……」
使用人の評価もそうだった。
学園に行けば下から数えた方が早い私。常に上位をキープしているアメシス。
「なんで双子なのに……」
「アクア様って苦手だわ……すぐ怒るし、怖い」
学園1の嫌われ者と言っても過言では無かった。そのアクアが卒業パーティーで王太子に断罪されたのだ。
卒業生、在校生合わせて皆の拍手喝采が聞こえる。これで安心出来ると。あの乱暴者が消えたと安堵の息を吐いたのだ。
「お許しください!殿下、彼はアレでも私の兄なのです!命だけは、命だけはお助け下さい!」
「シス……君はあんな男にも慈悲をかけるのか……なんと心の優しい……やはり私の婚約者は君だけだ。ああ、シス、可愛い私のシス……もっと側に」
「はい……サフィール様……」
私は何とか表情を噛み殺す。まるでシナリオがあるかのような王太子殿下と美しい公爵令息。とても似合いのアルファとオメガだろう。
公爵令息のシスことアメシスは正真正銘のオメガだ。オメガであれば男でも女でもアルファの子供を産む事が出来る。だから、アメシスは麗しのアルファ、碧眼王太子サフィール様の小さな頃からの婚約者だ。
「シスの願いだ、叶えてやろう。良いだろうか。クレスト公」
「ええ、アメシスの願いならば。誰か、この不埒者を引っ立てよ!国外追放だ、それならば良いですかな」
「ああ、妥当な所だろう。シスもそれで良いね?」
「はい、サフィール様」
悲しげにサフィール様の胸に顔を埋める。目が合うと責めるような視線が絡む。ああ、まだか。
「は、離せ!嫌だ追放なんて!冗談じゃない!!」
私は衛兵に腕を掴まれまいとむやみやたらと手を振り回しバタバタと暴れる。
「アクア!この後に及んで情けない!捕まえて国境に捨ててこい!」
「い、嫌だ!父上、助けて下さい。捨てるなんて嫌です!」
父であるクレスト公爵の足に縋るも蹴飛ばされた。
「お前などもう息子でも何でもない!育ててやった恩も忘れて私の足ばかり引っ張る!クレスト家からも追放だ!」
「そんな……そんな酷い!」
私は蹴られた腕を押さえてながら涙を零す。痛い、折れてはいないだろうか腫れはするだろう。
「酷い?!それはお前の事だろう!アクア!お前はシスを筆頭に、一体どれだけの人間を痛めつけ嫌がらせをしたんだ?その罰を今、まとめて受けるが良い」
「私は……私は……!」
「ええい!連れて行け!」
王太子の判決の声が響き私は夜会から引きづり出された。私をよく知る私の家族だった者達の前から、彼らの人生のストーリーから私は排除される、このまま永遠に。
これで、良い、良いのだ。
騒がしい広間から追い出され、背中で扉が締められると突然暴れるのをやめて静かになった私を衛兵達は不思議そうに見下ろしていた。そして、ほぼ着の身着のまままで馬車に押し込まれる。
私は自分の行いを振り返る。
私の名前はアクア・クレスト。クレスト公爵家の長男として育てられた男のオメガだ。クレスト家の人間に相応しい白銀の髪の毛に透明度の高い湖のような澄んだ水色の瞳をしている。容姿は整っており、背はそこそこだろう。黙っていれば見栄えがするのに悪態ばかりつく嫌味で悪名高い公爵令息だ。
そして私の双子の弟のアメシス。アメシスは目の色が紫でそれ以外、私たちは外見はそっくりな双子と言われていた。問題ばかり起こす兄のアクアと違い、聡明でいつも微笑んでいて、誰にでも優しい完璧な公爵令息。
しかも王太子殿下の婚約者。どこからどう見ても非の打ち所がない弟。それが私達の評価。
「アメシス?良い物持ってるね?」
「ア、アクア……これはだめだよ、これは殿下が僕の為に!」
「良いだろ!?一つくらい!!」
私はそうやってアメシスの指輪を取り上げて持ち去ってしまう。
「酷い……アクア、返して……?」
「あんなもん売っちゃったよ?結構いい金額になったぞ」
「ひっ、酷い!!」
泣き崩れるアメシスを鼻で笑って自室に戻ってしまう。
「アメシス様、お可哀想に……」
「同じ坊っちゃまですのに、アクア様とアメシス様は……」
使用人の評価もそうだった。
学園に行けば下から数えた方が早い私。常に上位をキープしているアメシス。
「なんで双子なのに……」
「アクア様って苦手だわ……すぐ怒るし、怖い」
学園1の嫌われ者と言っても過言では無かった。そのアクアが卒業パーティーで王太子に断罪されたのだ。
卒業生、在校生合わせて皆の拍手喝采が聞こえる。これで安心出来ると。あの乱暴者が消えたと安堵の息を吐いたのだ。
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