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50 その為の旅
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エルファードの旅はとてもとても楽しかった。行く先行く先で華々しい歓迎を受け、美味しい食べ物豪華な宿と素晴らしいサービスを受けた。
サービスを受けすぎて、何の為に旅をしているのかさえ忘れかけた日もあった。マルグ国へ着くのがだいぶ遅れたがエルファードに焦りはない。それくらいアイリーンの事を軽視していたし、理解もしていなかった。
「……なんだ?マルグ国は祭か?もしや、私の到着の歓迎の式典か??」
王都の門をくぐった時にエルファードは驚いた。街の中が華やかな空気に包まれ、あちこちに花が飾られ明るい雰囲気で埋め尽くされていた。
人通りも多く、馬車でもゆっくりしか進めなかったが、自分を歓迎している人々の声にニヤニヤと唇を歪ませていた。
「さぁて、この国でもどうせ持て余されているアイリーンを拾ってやるか。これからはナザールの為にもっとキリキリ働かせよう!側妃にしておいてやるか。正妃は新しく誰を迎えようか……このマルグ国で誰か見繕ってやってもいいな……フフフ」
エルファードの気持ち悪い笑い声に、監視を兼ねて付き従ってきた騎士はうんざりした。もう少しでこの胸糞悪い任務から解放される、それだけを希望に。
わあわあと国民が詰めかけている。マルグ王城へ向かうエルファードの馬車は止められる事になった。歓迎されているはずの自分が前に進めないなどとおかしい。やっとエルファードは疑問を持ち始める。
「……おかしいぞ?私の歓迎の為の人出ではないのか……?」
そっと馬車の窓を開け、民衆の声を聞くととんでもない言葉が聞こえてきた。
「アイリーン様!アイリーン様!」
「やっと王様の婚約者が決まった!アイリーン様だ!」
「やっとなのねぇ~あの聡明なアイリーン様がやっとね!」
「なぁにが権威の為の期間だっつーの。さっさと結婚して欲しいなあ!」
「アイリーン様が来てから国は明るいし犯罪は減ったし、ご飯は美味しいし子供は元気だしで最高よね!」
「これからマルグはもっと良くなる!」
「は?ど、どういう事だ……」
エルファードは驚くが辺りは熱気に包まれている。そして魔道具で声を拡声しているのか、シュマイゼル王の堂々とした宣言が響いた。
「皆の者、今日という日を無事に迎えられたことを嬉しく思う。今日、今この時より、アイリーン・レイクリフ公爵令嬢が我が婚約者となる。婚儀は半年後を予定しているが、今日まで我慢したので早くしたい!許せよ」
祝福のヤジ塗れだが喜びの声が湧きあがる。誰もが賛同する婚約だった。
「だよなあ!我慢したよなあ!」
「あと半年我慢とか王様は辛いなあ!」
「仕方がないのかもなあ、あはは!」
「い、いやですわ、ゼル様……」
拡声器を切り忘れているのか、照れた様子のアイリーンの声が聞こえ
「なあに、良いですよね?皆さん?」
「はは、勿論ですとも」
そんな周囲の声まで聞こえ、国民達をどっと笑いに包んだ。
「ど、どういう事だ!?」
一人状況がつかめずに馬車の窓から身を乗り出せば、マルグ城の国民に向けて開かれたバルコニーにシュマイゼル王とアイリーン、そしてレンブラントがお揃いの仕立てのいい服を着てにこやかに手を振っている。
その3人の後ろには招かれたであろう煌びやかな人々……あの建国祭の日に速やかに帰って行った近隣各国の賓客の姿が見える。
「え?は?い、意味が分からない……」
そしてエルファードの目はにこやかに、そして晴れやかに輝くアイリーンの顔に釘付けになった。
「う、美しい……」
地味だと思った茶色の髪は手入れが行き届き艶やかで、陽の光を浴びて煌めいていた。髪に細かく飾った小粒ダイヤの反射もあっただろうが、アイリーンは輝いている。
肌も抜けるように白いが寝不足からくる顔色の悪さ、疲れも感じられないし、重責による疲労が減った瞳も希望に溢れてていた。
なにより表情が全く違う。真面目で堅物。何かにつけて金の事しか言わないような奴なのに、心の底から楽しそうにしている。時には少女のように隣に立つシュマイゼル王の袖を引っ張ったり、母としてレンブラントの頭を撫でたり……。
そんな顔をエルファードは一度も見た事もなかった。
いつも濃い緑の服を着るように指示していた。その方がエルファードを引き立てるのに相応しいからだ。
しかし、空色のふんわりと軽いドレスはとても似合っていて、長身のシュマイゼル王の隣で遜色もなかった。
「いや?は?あれがアイリーン?いやいや、別人だろう?……この目で確かめてやる!」
このまま引き返せば良かったのに、エルファードは御者に横柄に命令を出す。
「王城へ行け!」
「……分かりました……」
なるべくゆっくり帰国するように、とオルフェウスに言い含められている御者はゆっくりと馬首を王城へと向けた。
サービスを受けすぎて、何の為に旅をしているのかさえ忘れかけた日もあった。マルグ国へ着くのがだいぶ遅れたがエルファードに焦りはない。それくらいアイリーンの事を軽視していたし、理解もしていなかった。
「……なんだ?マルグ国は祭か?もしや、私の到着の歓迎の式典か??」
王都の門をくぐった時にエルファードは驚いた。街の中が華やかな空気に包まれ、あちこちに花が飾られ明るい雰囲気で埋め尽くされていた。
人通りも多く、馬車でもゆっくりしか進めなかったが、自分を歓迎している人々の声にニヤニヤと唇を歪ませていた。
「さぁて、この国でもどうせ持て余されているアイリーンを拾ってやるか。これからはナザールの為にもっとキリキリ働かせよう!側妃にしておいてやるか。正妃は新しく誰を迎えようか……このマルグ国で誰か見繕ってやってもいいな……フフフ」
エルファードの気持ち悪い笑い声に、監視を兼ねて付き従ってきた騎士はうんざりした。もう少しでこの胸糞悪い任務から解放される、それだけを希望に。
わあわあと国民が詰めかけている。マルグ王城へ向かうエルファードの馬車は止められる事になった。歓迎されているはずの自分が前に進めないなどとおかしい。やっとエルファードは疑問を持ち始める。
「……おかしいぞ?私の歓迎の為の人出ではないのか……?」
そっと馬車の窓を開け、民衆の声を聞くととんでもない言葉が聞こえてきた。
「アイリーン様!アイリーン様!」
「やっと王様の婚約者が決まった!アイリーン様だ!」
「やっとなのねぇ~あの聡明なアイリーン様がやっとね!」
「なぁにが権威の為の期間だっつーの。さっさと結婚して欲しいなあ!」
「アイリーン様が来てから国は明るいし犯罪は減ったし、ご飯は美味しいし子供は元気だしで最高よね!」
「これからマルグはもっと良くなる!」
「は?ど、どういう事だ……」
エルファードは驚くが辺りは熱気に包まれている。そして魔道具で声を拡声しているのか、シュマイゼル王の堂々とした宣言が響いた。
「皆の者、今日という日を無事に迎えられたことを嬉しく思う。今日、今この時より、アイリーン・レイクリフ公爵令嬢が我が婚約者となる。婚儀は半年後を予定しているが、今日まで我慢したので早くしたい!許せよ」
祝福のヤジ塗れだが喜びの声が湧きあがる。誰もが賛同する婚約だった。
「だよなあ!我慢したよなあ!」
「あと半年我慢とか王様は辛いなあ!」
「仕方がないのかもなあ、あはは!」
「い、いやですわ、ゼル様……」
拡声器を切り忘れているのか、照れた様子のアイリーンの声が聞こえ
「なあに、良いですよね?皆さん?」
「はは、勿論ですとも」
そんな周囲の声まで聞こえ、国民達をどっと笑いに包んだ。
「ど、どういう事だ!?」
一人状況がつかめずに馬車の窓から身を乗り出せば、マルグ城の国民に向けて開かれたバルコニーにシュマイゼル王とアイリーン、そしてレンブラントがお揃いの仕立てのいい服を着てにこやかに手を振っている。
その3人の後ろには招かれたであろう煌びやかな人々……あの建国祭の日に速やかに帰って行った近隣各国の賓客の姿が見える。
「え?は?い、意味が分からない……」
そしてエルファードの目はにこやかに、そして晴れやかに輝くアイリーンの顔に釘付けになった。
「う、美しい……」
地味だと思った茶色の髪は手入れが行き届き艶やかで、陽の光を浴びて煌めいていた。髪に細かく飾った小粒ダイヤの反射もあっただろうが、アイリーンは輝いている。
肌も抜けるように白いが寝不足からくる顔色の悪さ、疲れも感じられないし、重責による疲労が減った瞳も希望に溢れてていた。
なにより表情が全く違う。真面目で堅物。何かにつけて金の事しか言わないような奴なのに、心の底から楽しそうにしている。時には少女のように隣に立つシュマイゼル王の袖を引っ張ったり、母としてレンブラントの頭を撫でたり……。
そんな顔をエルファードは一度も見た事もなかった。
いつも濃い緑の服を着るように指示していた。その方がエルファードを引き立てるのに相応しいからだ。
しかし、空色のふんわりと軽いドレスはとても似合っていて、長身のシュマイゼル王の隣で遜色もなかった。
「いや?は?あれがアイリーン?いやいや、別人だろう?……この目で確かめてやる!」
このまま引き返せば良かったのに、エルファードは御者に横柄に命令を出す。
「王城へ行け!」
「……分かりました……」
なるべくゆっくり帰国するように、とオルフェウスに言い含められている御者はゆっくりと馬首を王城へと向けた。
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