【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
47 / 64

47 熊を令嬢に変えるテクニック

しおりを挟む
 何もかも信じられない、と自分の殻に閉じ籠りかけたキャロラインだったが、引き篭もりかけた殻から引っ張り出された。

「さあ、お嬢様未満の存在のキャロラインさん。お風呂ですわよ」

「見た目くらいお嬢様に近づけませんと」

「無駄飯食いを飼っておくなんてとんでもない事ですわ」

「えっ?!いや、離してーーー!」

 アイーダの連れて来たメイド達が寄ってたかってキャロラインを連れて行ってしまう。多分アイーダが「やっておしまい」と言ったに違いない。

「嫌だわぁ!きれいな髪色なのに、手入れがヘッタクソ」

「肌のきめが最低ね。何食べてたのかしら?夜更かしもしてたみたいだわ」

「脂っぽい!え、ニキビだらけ?!お肉ばっかりでお野菜や果物とか食べてないの?!」

 散々な言われようにキャロラインは泣き出したが

「はい、洗いますよー」

 メイド達はどこ吹く風で仕事を続ける。

「うう……、う?」 

 キャロラインはお風呂が大っ嫌いだった。まず寒くて寒くて仕方がないし、メイド達は力任せに擦るから肌は真っ赤になった。
 髪の毛も乱暴に洗われてブチブチと毛が抜ける。滴るほど水分を含んだ髪はそのまま放置され、キシキシと軋んだしそのまま風邪をひく事も多かった。

「あ、あれ?」

 お風呂のお湯がとても暖かい。こんな事は無かった。

「やだっ!ブラシの歯が折れそう!どれだけ梳ってないのかしら?!」

 丁寧に、丁寧に髪の毛を整えてから

「柑橘系にしましょう。花の匂いは駄目ね」

 とても良い匂いのシャンプーでモコモコに泡だった。

「痛くないわ……」

「当たり前じゃないですか。どんだけ下手くそに洗われてたんです?」

「……」

 2回シャンプーされ、コンディショナーオイルを塗り込まれる。

「これ、知らない」

「はあ??だから髪に艶がなかったのです。御令嬢なら皆使ってます。と言うかかなり傷んでますから次からもっと良いのを使いますよ」

 そして柔らかいスポンジで体を隈なく磨かれる。

「やだ!汚れが酷いわ」

「細かい所が酷いわね」

「気持ち良い……」

 優しく洗われて、温かいお湯の中に嫌な気持ちが溶けて流れて行くようだ。

「さあ、おしまいです」

 もっと浸かっていたいと思ってもメイド達に出されてしまう。

「さっさと拭いて!」

「ボディオイルを塗りますよ?」

「こっちで寝てください。マッサージです」

「ふええ……」

 キャロラインは知らない手入れの連続に目を回していた。

「こ、こんなの知らないーーー!」

「はあ?年頃の御令嬢なら当たり前です」

「皆様、頑張って美しさを作り上げているのですよ!美は1日にしてならず!ビシバシ行きますよ!」

「こんなビシバシなら一日中受けたいーーー!」

「ほほほ!言いましたね?!お覚悟を!」

「ちにゃぁーーーー?!」

 キャロラインは知った。マッサージされ過ぎると体が怠くなる事を。そして自分の体がバッキバキに硬かった事を。
 そして……きちんとしていたと思っていたレイクリフ家のメイド達は怠慢で技術が古く、自分のことを主人だと思ってはいなかった事を。

「これで見た目だけはお嬢様に近づきましたよ」

「ベッドも汚れていたので変えました」

「夜着はシルクにしてください。肌荒れが減ります」

「……くまちゃんは触らず置いて置きましたよ」

「っ!!」

 硬くなっていたベッドはふかふかになり、良い匂いがしてきた。汚くないと思っていたシーツや枕も新品に変えて貰うとやはり洗濯が甘いものだったと気付かされた。

「……」

 小さな頃、父親から唯一手渡されたクマのぬいぐるみ。薄汚れてボロボロなそれを新しいメイド達は丁寧に取り扱ってくれた。

「こんな汚いぬいぐるみ、捨てましょ」

 昔からいたメイドに捨てられそうになってから必死で隠して置いたぬいぐるみがきちんと飾られていた。

「お洋服を着せても良いかもしれませんね」

 そう笑顔を見せる新しいメイド達に困惑と感謝を感じるのだった。



しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

処理中です...