【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
43 / 64

43 公爵の誤算2

しおりを挟む
「ネリーニ!お前はどうしてそう何も出来んのだ!」

「何よ!エルファードだってなにも出来ていないじゃない!」

 会場につく前に罵り合い声が聞こえてきて、公爵は文字通り頭を抱えた。その声はこの国の国王とその妃の物であって、人前で怒鳴り合うなどあり得ない。通り越して最早喜劇のようだった。

「お二人とも、おやめください。ここは記念すべきわが国の建国祭の会場ではありませんか」

 そう言ってみたものの、会場に残っているのはこのナザール国の貴族が数人、青い顔で立っているだけで、あれだけいた近隣諸国からの賓客は一人もいなかった。目を閉じれば去年までのあの華々しい会場が瞼の裏に浮かぶが、ダルク公爵は目を開けなければならない。

「しかし、公爵!ネリーニが客の前で無様を晒し、全員呆れて帰って行ったのだ」

 そんな訳ないだろう。いくら転んで無様な所を見せたからと言ってわざわざ祝いにきた客が帰るはずがない。

「違うわ!あれはエルファードが私を引っ張ったからよ!あれはエルファードのせいよ!どうしてエスコートしてくれないのよ!伴侶をエスコートするのが普通でしょう!?それなのに一人でスタスタ行っちゃって、どうして私の事を考えてくれないの!?」

「はあ?なんで私が王妃の事を考えねばならんのだ、アレは勝手にやらせておけば……」

「王妃は私よ!アイリーンは昨日国外追放したじゃないっ!!」

「そうだった……しかし、私が悪いわけがない。それに一人で普通歩けるだろう!?」

 あまりの醜い罵り合いにダルク公爵ですら倒れそうになる。しかし彼まで倒れるわけにはいかない。この状況を打破しなければならないのだから。

「とにかく、言い争いはやめるんだ!国王夫妻が不仲などあっていいはずがない。言いたいことは後程部屋にさがってからに!誰か、来客が残っていないか見てくるんだ。もしいるなら準備が整ったから会場へ来るように伝えろ。メイドは誰かいるか!テーブルを並びなおせ、グラスや酒はどうした!早く持ってこい」

「は、はい」

 まだ数人残っていたメイド達はバタバタと動き出し、侍従もダルク公爵の指示に従い始める。

「簡単な料理を先にお持ちしました!」

 料理人自らワゴンを引いて現れたので、近くのテーブルに置くように指示をだし、メイドがテーブルを整えカトラリーを出し、グラスやワインなどの飲み物を運んでくる。

「公爵、楽隊が待っておりますが」

「定位置に入れさせろ。何か緩やかな曲でもやらせておけ」

「城にはお客様はおられません」

「馬車止め辺りに誰かいるかもしれん、見てこい」

 次々の指示を出すダルク公爵。城の使用人はエルファードとネリーニを無視して、ダルク公爵に伺いを立てる。二人はただその様子をぼんやりとみているだけだった。

「……ネリーニ。本来ならお前が指示する所だぞ。お前が取り仕切らずに誰がやるのだ……?」

「お、お父様がやって下さればいいじゃないですか」

 この時やっと公爵は自分の娘が無能なのではないかと思い始めた。

「ネリーニ……王家の行事に、公爵である私が関わる事はしない……分かっているとは思うが、王家の行事には重んじなければならぬしきたりが多い。その為の王妃教育であるのだから……お前も履修したであろう……?それにあの女はずっときちんと回していたぞ。お前が出来ぬはずは、ない……よな?ネリーニ」

「え?も、勿論ですとも!私だってきちんと王妃教育を受けましたもの!と、当然ですわ。当然アイリーンがやっていた仕事だってあれ以上に完璧にこなせますわよ!」

 そうだ、そうだとも。我が娘、我が血を引く高貴な娘が無能であるはずがない、とダルク公爵は笑顔を見せる。
 ただ、ダルく公爵は知らない。ネリーニが癇癪を起こし、王妃教育を3日しか受けていない事実に。しかしネリーニを正妃に上げる予定は全く無かったので放置されたと言う事を。

「うむ。ここからはお前が取り仕切るんだ。さあエルファード王よ、立ち上がって二人でこの窮地を何とかするのです。私はまだ国内にいるかもしれない近隣諸国の賓客に声をかけに行ってきましょう」

「な、何とか、とは……何をすればよいのだ……?」

 自信なく視線を上に上げる事も出来ないに舌打ちするのをなんとか押しとどめ、ダルク公爵は娘の能力を信じる事にした。

「ネリーニ、二人で何とかするんだ、いいね。お前なら出来る」

「も、勿論ですわ、お父様!」

 その返事に安心し、公爵は会場を離れ、客を引き留めに行ったがそれは間違いだった。まだ彼がこの場に残り、何とかしようと奮闘したならば話は変わっただろうが、誰かに責任を押し付ける事と見栄を張る事しかできない二人ではどうしようもなかったのである。

 
 
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結保証】領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~

ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

あなたの破滅のはじまり

nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。 え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか? あなたを待っているのは破滅ですよ。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?

処理中です...