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43 公爵の誤算2
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「ネリーニ!お前はどうしてそう何も出来んのだ!」
「何よ!エルファードだってなにも出来ていないじゃない!」
会場につく前に罵り合い声が聞こえてきて、公爵は文字通り頭を抱えた。その声はこの国の国王とその妃の物であって、人前で怒鳴り合うなどあり得ない。通り越して最早喜劇のようだった。
「お二人とも、おやめください。ここは記念すべきわが国の建国祭の会場ではありませんか」
そう言ってみたものの、会場に残っているのはこのナザール国の貴族が数人、青い顔で立っているだけで、あれだけいた近隣諸国からの賓客は一人もいなかった。目を閉じれば去年までのあの華々しい会場が瞼の裏に浮かぶが、ダルク公爵は目を開けなければならない。
「しかし、公爵!ネリーニが客の前で無様を晒し、全員呆れて帰って行ったのだ」
そんな訳ないだろう。いくら転んで無様な所を見せたからと言ってわざわざ祝いにきた客が帰るはずがない。
「違うわ!あれはエルファードが私を引っ張ったからよ!あれはエルファードのせいよ!どうしてエスコートしてくれないのよ!伴侶をエスコートするのが普通でしょう!?それなのに一人でスタスタ行っちゃって、どうして私の事を考えてくれないの!?」
「はあ?なんで私が王妃の事を考えねばならんのだ、アレは勝手にやらせておけば……」
「王妃は私よ!アイリーンは昨日国外追放したじゃないっ!!」
「そうだった……しかし、私が悪いわけがない。それに一人で普通歩けるだろう!?」
あまりの醜い罵り合いにダルク公爵ですら倒れそうになる。しかし彼まで倒れるわけにはいかない。この状況を打破しなければならないのだから。
「とにかく、言い争いはやめるんだ!国王夫妻が不仲などあっていいはずがない。言いたいことは後程部屋にさがってからに!誰か、来客が残っていないか見てくるんだ。もしいるなら準備が整ったから会場へ来るように伝えろ。メイドは誰かいるか!テーブルを並びなおせ、グラスや酒はどうした!早く持ってこい」
「は、はい」
まだ数人残っていたメイド達はバタバタと動き出し、侍従もダルク公爵の指示に従い始める。
「簡単な料理を先にお持ちしました!」
料理人自らワゴンを引いて現れたので、近くのテーブルに置くように指示をだし、メイドがテーブルを整えカトラリーを出し、グラスやワインなどの飲み物を運んでくる。
「公爵、楽隊が待っておりますが」
「定位置に入れさせろ。何か緩やかな曲でもやらせておけ」
「城にはお客様はおられません」
「馬車止め辺りに誰かいるかもしれん、見てこい」
次々の指示を出すダルク公爵。城の使用人はエルファードとネリーニを無視して、ダルク公爵に伺いを立てる。二人はただその様子をぼんやりとみているだけだった。
「……ネリーニ。本来ならお前が指示する所だぞ。お前が取り仕切らずに誰がやるのだ……?」
「お、お父様がやって下さればいいじゃないですか」
この時やっと公爵は自分の娘が無能なのではないかと思い始めた。
「ネリーニ……王家の行事に、公爵である私が関わる事はしない……分かっているとは思うが、王家の行事には重んじなければならぬしきたりが多い。その為の王妃教育であるのだから……お前も履修したであろう……?それにあの女はずっときちんと回していたぞ。お前が出来ぬはずは、ない……よな?ネリーニ」
「え?も、勿論ですとも!私だってきちんと王妃教育を受けましたもの!と、当然ですわ。当然アイリーンがやっていた仕事だってあれ以上に完璧にこなせますわよ!」
そうだ、そうだとも。我が娘、我が血を引く高貴な娘が無能であるはずがない、とダルク公爵は笑顔を見せる。
ただ、ダルく公爵は知らない。ネリーニが癇癪を起こし、王妃教育を3日しか受けていない事実に。しかしネリーニを正妃に上げる予定は全く無かったので放置されたと言う事を。
「うむ。ここからはお前が取り仕切るんだ。さあエルファード王よ、立ち上がって二人でこの窮地を何とかするのです。私はまだ国内にいるかもしれない近隣諸国の賓客に声をかけに行ってきましょう」
「な、何とか、とは……何をすればよいのだ……?」
自信なく視線を上に上げる事も出来ないカエル王に舌打ちするのをなんとか押しとどめ、ダルク公爵は娘の能力を信じる事にした。
「ネリーニ、二人で何とかするんだ、いいね。お前なら出来る」
「も、勿論ですわ、お父様!」
その返事に安心し、公爵は会場を離れ、客を引き留めに行ったがそれは間違いだった。まだ彼がこの場に残り、何とかしようと奮闘したならば話は変わっただろうが、誰かに責任を押し付ける事と見栄を張る事しかできない二人ではどうしようもなかったのである。
「何よ!エルファードだってなにも出来ていないじゃない!」
会場につく前に罵り合い声が聞こえてきて、公爵は文字通り頭を抱えた。その声はこの国の国王とその妃の物であって、人前で怒鳴り合うなどあり得ない。通り越して最早喜劇のようだった。
「お二人とも、おやめください。ここは記念すべきわが国の建国祭の会場ではありませんか」
そう言ってみたものの、会場に残っているのはこのナザール国の貴族が数人、青い顔で立っているだけで、あれだけいた近隣諸国からの賓客は一人もいなかった。目を閉じれば去年までのあの華々しい会場が瞼の裏に浮かぶが、ダルク公爵は目を開けなければならない。
「しかし、公爵!ネリーニが客の前で無様を晒し、全員呆れて帰って行ったのだ」
そんな訳ないだろう。いくら転んで無様な所を見せたからと言ってわざわざ祝いにきた客が帰るはずがない。
「違うわ!あれはエルファードが私を引っ張ったからよ!あれはエルファードのせいよ!どうしてエスコートしてくれないのよ!伴侶をエスコートするのが普通でしょう!?それなのに一人でスタスタ行っちゃって、どうして私の事を考えてくれないの!?」
「はあ?なんで私が王妃の事を考えねばならんのだ、アレは勝手にやらせておけば……」
「王妃は私よ!アイリーンは昨日国外追放したじゃないっ!!」
「そうだった……しかし、私が悪いわけがない。それに一人で普通歩けるだろう!?」
あまりの醜い罵り合いにダルク公爵ですら倒れそうになる。しかし彼まで倒れるわけにはいかない。この状況を打破しなければならないのだから。
「とにかく、言い争いはやめるんだ!国王夫妻が不仲などあっていいはずがない。言いたいことは後程部屋にさがってからに!誰か、来客が残っていないか見てくるんだ。もしいるなら準備が整ったから会場へ来るように伝えろ。メイドは誰かいるか!テーブルを並びなおせ、グラスや酒はどうした!早く持ってこい」
「は、はい」
まだ数人残っていたメイド達はバタバタと動き出し、侍従もダルク公爵の指示に従い始める。
「簡単な料理を先にお持ちしました!」
料理人自らワゴンを引いて現れたので、近くのテーブルに置くように指示をだし、メイドがテーブルを整えカトラリーを出し、グラスやワインなどの飲み物を運んでくる。
「公爵、楽隊が待っておりますが」
「定位置に入れさせろ。何か緩やかな曲でもやらせておけ」
「城にはお客様はおられません」
「馬車止め辺りに誰かいるかもしれん、見てこい」
次々の指示を出すダルク公爵。城の使用人はエルファードとネリーニを無視して、ダルク公爵に伺いを立てる。二人はただその様子をぼんやりとみているだけだった。
「……ネリーニ。本来ならお前が指示する所だぞ。お前が取り仕切らずに誰がやるのだ……?」
「お、お父様がやって下さればいいじゃないですか」
この時やっと公爵は自分の娘が無能なのではないかと思い始めた。
「ネリーニ……王家の行事に、公爵である私が関わる事はしない……分かっているとは思うが、王家の行事には重んじなければならぬしきたりが多い。その為の王妃教育であるのだから……お前も履修したであろう……?それにあの女はずっときちんと回していたぞ。お前が出来ぬはずは、ない……よな?ネリーニ」
「え?も、勿論ですとも!私だってきちんと王妃教育を受けましたもの!と、当然ですわ。当然アイリーンがやっていた仕事だってあれ以上に完璧にこなせますわよ!」
そうだ、そうだとも。我が娘、我が血を引く高貴な娘が無能であるはずがない、とダルク公爵は笑顔を見せる。
ただ、ダルく公爵は知らない。ネリーニが癇癪を起こし、王妃教育を3日しか受けていない事実に。しかしネリーニを正妃に上げる予定は全く無かったので放置されたと言う事を。
「うむ。ここからはお前が取り仕切るんだ。さあエルファード王よ、立ち上がって二人でこの窮地を何とかするのです。私はまだ国内にいるかもしれない近隣諸国の賓客に声をかけに行ってきましょう」
「な、何とか、とは……何をすればよいのだ……?」
自信なく視線を上に上げる事も出来ないカエル王に舌打ちするのをなんとか押しとどめ、ダルク公爵は娘の能力を信じる事にした。
「ネリーニ、二人で何とかするんだ、いいね。お前なら出来る」
「も、勿論ですわ、お父様!」
その返事に安心し、公爵は会場を離れ、客を引き留めに行ったがそれは間違いだった。まだ彼がこの場に残り、何とかしようと奮闘したならば話は変わっただろうが、誰かに責任を押し付ける事と見栄を張る事しかできない二人ではどうしようもなかったのである。
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