【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ

文字の大きさ
上 下
36 / 64

36 初デートは突然に

しおりを挟む
「色々考えましたが、もしこのままわたくしがマルグ国へ留まる事をお許しいただけるのなら……」

「すぐに婚約発表をしましょう!」
「それがいいわ!」
「めでたい」

「……お話を少し聞いていただいてもよろしいでしょうか……」

 シュマイゼル様と前王であるシュマイゼル様のお父様とお母様はとても仲が良く、そっくりな方々だとしみじみ感じます。

「あ、すまない。話してください」

「この様子では間違いなく明日もナザールの建国祭を終えた方々がこの国へ訪れます。わたくしのような者にでも分かりやすいようにこの国の方針や特産、力を入れている産業など教えて頂ければ……」

「ア、アイリーン……そんなに働かなくていいのよ?ナザールではあなたが国王の仕事も全て行っていたらしいからとても忙しかったでしょうが、これからは半分で良いの。少しおしゃれや茶会など王妃らしいことをのんびりとしてくれるだけでいいのよ?」

 皇后様が労るようにやんわり言ってくださいますが、それではわたくしの気が収まりません。

「いいえ、路頭に迷うしかなかったわたくしとレンブラント。そして我がハイランド家、使用人の全てをこちらで良くして頂いている恩を返さねば……」

「恩など感じなくてよろしいのですよ。私が貴女を逃さないため、気を引きたい為に私が望んで来ていただいている事なんですから」

 何でもないとおっしゃいますが、あれだけの人数を増やすというのはとても大変な事だと、人を使う立場であったわたくしも知っている事です。わたくしが一歩も引かぬつもりで身構えますと……。

「分かりました、では今からデートに参りましょう」

「はっ?!デ、デート?!」

 待ってください、デートとは、あの男女で出歩くお話のアレのことですか?!

「ええ、お忍びで行きましょう!さ、すぐに着替えて。父上、母上、ちょっと出かけて来ます」

「あら、良いわね。ディア・アプリコットが新作ケーキ出してたわよ。食べてらっしゃい」

「美味かったぞ!レンはプリンが良かったようだ」
 
 待ってください、わたくし小さな頃からエルファード様と婚約をしていましたので、デートという物は話でしか知らないのです!

「えっ、あの、こ、困ります。突然言われても……っ」

「大丈夫ですよ、侍女達に任せておけば完璧な変装を施してくれますから!さあ、支度をしましょう」

「えっ!あのっ!」

 わたくしはあれよあれよと言う間に少し丈が短く歩き易い街娘がよく着るワンピースに控えめの化粧を施した姿になって街角に立っていました。

「そのスカートも可愛いですよ!私の事はゼルと、あなたの事はアイリとお呼びしてもよろしいですか?」

「え?ええ……それでお願いします」

 隣にはシュマイゼル様が立っていていつものように笑っていらっしゃいます。

「手を……手を繋ぎましょう。逸れるといけないので」

「あ……はい……」

 男性と街を歩くなんて、初めての経験です。図らずも少女の頃に憧れて止まなかったデートと言う物をする事になるとは。

 思ったよりドキドキと胸が高鳴って、上手く返事ができませんでした。

しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結保証】領地運営は私抜きでどうぞ~もう勝手におやりください~

ネコ
恋愛
伯爵領を切り盛りするロザリンは、優秀すぎるがゆえに夫から嫉妬され、冷たい仕打ちばかり受けていた。ついに“才能は認めるが愛してはいない”と告げられ離縁を迫られたロザリンは、意外なほどあっさり了承する。すべての管理記録と書類は完璧に自分の下へ置いたまま。この領地を回していたのは誰か、あなたたちが思い知る時が来るでしょう。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

あなたの破滅のはじまり

nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。 え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか? あなたを待っているのは破滅ですよ。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...