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27 建国祭の清楚なドレス
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「腹が減ったと言ってるだろう!」
「そんな事よりもとりあえず着替えて、会場へ行ってください!もう皆様お着きなのですよ!!」
「ネリーニはどうした!」
「お部屋に迎えに行きましても、「まだ湯あみも済んでいません」とネリーニ様の侍女達に金切り声を上げられます!一向に出てくる気配がありませんっ」
エルファードを探し出した侍従もヨレヨレの服のままだ。目の下には濃いクマがあり、彼も一睡もしていない。
「他に誰か向かわせろ」
「他とは!誰かとは!誰ですかっ正妃様がいらっしゃらないのですよ!」
「正妃はネリーニだ!そうだ、宰相のローランド……」
彼ももういない。ない頭を振り絞って頼れそうな人物を捜すがエルファードの脳裏に浮かぶ有能な人材は誰もかれも城を出ていた。
「そうだ……ネリーニの父親のダルク公爵はどうした!彼ならば……」
「ダルク公爵はまだ登城しておりません!かの公爵は毎年午後遅くからやってくるではありませんか!」
建国祭の午前中は曲がりなりにも王であるエルファードと王妃のアイリーンは並んで各国の賓客に挨拶をする。その仲良くもないが並んで歩く二人を見くないとネリーニは駄々を捏ねるのでダルク公爵も遅くに来るようになっていたのだ。
「今年はネリーニが王妃なのだから、早く来るだろう?」
「お姿は見ておりません!それに建国祭の幕開けに王が居ないなどと前代未聞の事です!お急ぎお支度を!!」
「う、うむむ……」
急かされ、やっとの事でエルファードは重い腰を上げ、部屋に用意されている新品の建国祭用の白の礼服に着替える。勿論、用意したのはアイリーンで、周りの人達に準備してある事も伝えたし、場所も指示してあったのでエルファードの服はなんの問題もない。
「ネリーニは?隣に妃がおらんのでは笑われてしまうぞ?」
「ですからまだ準備だと……」
「一体どうなっているんだ。行ってみるか」
侍従が止めるのも聞かず、エルファードはネリーニが準備に使っているという部屋の前までやって来た。
「ネリーニ様は準備中でございます」
慇懃に頭を下げるネリーニが家から連れて来たと言うメイド達が頭を下げて、壁を作っていた。
「今すぐに各国の賓客に挨拶をせねばならん。ネリーニにすぐ出てきて、挨拶をするよう伝えてくれ」
「お伝えして参ります」
メイドの1人が部屋の中へ入っていくもすぐに出てきて
「お伝え致しました」
そう告げる。
「今すぐ出てくるんだ」
「お伝えして参ります」
また中へ入り
「お伝え致しました」
と、繰り返すだけだった。
「いつになるのだ!!今すぐと言った私の言葉が聞こえないのか!!」
「お伝えして参ります」
ネリーニのメイドにとっては王であるエルファードよりネリーニの方が大切にすべき主なのだった。
侍従があまりのストレスで倒れて暫くしてからネリーニは真っ赤なドレスで現れる。
「お待たせしましたわ、エルファード様」
派手すぎる化粧に高く結い上げた髪はどれも時間のかかる手の込んだものであるが、流石にエルファードもネリーニを連れて行く事は出来なかった。
「駄目だ、ネリーニ。建国祭の王と王妃の服は白地に金糸の縫い取りで国の象徴を入れねばならない。これは建国からの規則だ、赤いドレスを王妃が纏う事は出来ん」
「え……そんなこと聞いたこともございませんけれど、本当でございますか?」
「王宮規則で定められているぞ。ネリーニも暗記したであろう?王妃教育の一番最初に覚えるものだと聞いているが?」
「え?あ、ええ、そ、そうでございますわね……ほ、ほほ、ほほほ……だ、誰かしら!?こんな色のドレスを選んだのは!私に恥をかかせて喜ぶつもり??アイリーンの腰巾着がまだいるようね!?貴女かしらっ!?」
完全に苦し紛れに、ネリーニは自分の連れて来たメイドの一人を指差した。
「え?わ、私はネリーニ様のご指示通りにこのドレスを……」
「うるさい!犯人は貴女ねっ!ばあや、この女を捨てておいてくれるかしらっ!?」
「畏まりましてございます、お姫様」
恭しく頭を下げるネリーニのメイド長と「わ、私は知りませんっ!」と濡れ衣を着せられ泣くメイド。しかしその他のメイド達はネリーニの言葉が全てなのか、誰一人として今まで同僚として仲良くやってきたメイドを庇う者はいない。ネリーニが犯人だと言えば何の罪を犯していなくても犯人になるのだから。
「わ、私の建国祭用のドレスはどこかしら……?あ、そうだわ、きっとアイリーンが隠してしまったのね?あいつの部屋に行って捜してきて頂戴」
「畏まりました」
くたびれた数枚のドレスの中に、一着だけ新品の白と金のドレスを見つけ、メイド達はそれをネリーニに着付け直した。
「……」「……」
誰も何も言わない。しかし全員が気が付いていた。胸の部分がかなり隙間がある事に。仕方がなく、綿やら何やらを詰めてボリュームを出した事。ウェストがきつくて無理やり締め上げて詰め込んだことを。きっと何も食べることは出来ないだろうし、気を抜くと何かがパン!と弾けてしまいそうな事。ドレスが長くて、不格好なほど床を引きずる事。
アイリーンの体型に合わせて作られたこのドレスから察するところ。ネリーニはアイリーンよりバストのサイズは小さく、ウェストのサイズは大きく、足は短い……この場にいる者は誰一人として口にはしないが、その事実に一番衝撃を受けたのはネリーニだった。
「……っ!」
バキリッ!と手に持っていた華奢な造りの扇を折ってしまっても仕方がない事だろう。下だ、下だと言っていた女性が実は自分より素晴らしい体型を維持していたなど。
「急ぐぞ、ネリーニ!皆もう揃っているらしい!」
「え?あ、はい!」
足早に行ってしまうエルファードは手を取ってエスコートすらしてくれない。女性をエスコートするというマナーすらあの軽い頭には入っていないのだ。ドレスと合わせて作られたかかとの高いハイヒール。サイズも合っていない物に無理やり足を詰め込んだから走るなんて出来るはずもなく、立っているのがやっとなのに。
「お姫様のお靴をお持ちしましょうか……?」
「いえ!大丈夫よ!!」
白に金糸の清楚なドレスに合わせるような地味な靴をネリーニは持っていないし、ここまでヒールの高い靴もない。上手に歩くことが出来なくてヒールの高さを下げたなど。アイリーンに負けたような気持になる事をネリーニは出来るはずもなかったのである。
「そんな事よりもとりあえず着替えて、会場へ行ってください!もう皆様お着きなのですよ!!」
「ネリーニはどうした!」
「お部屋に迎えに行きましても、「まだ湯あみも済んでいません」とネリーニ様の侍女達に金切り声を上げられます!一向に出てくる気配がありませんっ」
エルファードを探し出した侍従もヨレヨレの服のままだ。目の下には濃いクマがあり、彼も一睡もしていない。
「他に誰か向かわせろ」
「他とは!誰かとは!誰ですかっ正妃様がいらっしゃらないのですよ!」
「正妃はネリーニだ!そうだ、宰相のローランド……」
彼ももういない。ない頭を振り絞って頼れそうな人物を捜すがエルファードの脳裏に浮かぶ有能な人材は誰もかれも城を出ていた。
「そうだ……ネリーニの父親のダルク公爵はどうした!彼ならば……」
「ダルク公爵はまだ登城しておりません!かの公爵は毎年午後遅くからやってくるではありませんか!」
建国祭の午前中は曲がりなりにも王であるエルファードと王妃のアイリーンは並んで各国の賓客に挨拶をする。その仲良くもないが並んで歩く二人を見くないとネリーニは駄々を捏ねるのでダルク公爵も遅くに来るようになっていたのだ。
「今年はネリーニが王妃なのだから、早く来るだろう?」
「お姿は見ておりません!それに建国祭の幕開けに王が居ないなどと前代未聞の事です!お急ぎお支度を!!」
「う、うむむ……」
急かされ、やっとの事でエルファードは重い腰を上げ、部屋に用意されている新品の建国祭用の白の礼服に着替える。勿論、用意したのはアイリーンで、周りの人達に準備してある事も伝えたし、場所も指示してあったのでエルファードの服はなんの問題もない。
「ネリーニは?隣に妃がおらんのでは笑われてしまうぞ?」
「ですからまだ準備だと……」
「一体どうなっているんだ。行ってみるか」
侍従が止めるのも聞かず、エルファードはネリーニが準備に使っているという部屋の前までやって来た。
「ネリーニ様は準備中でございます」
慇懃に頭を下げるネリーニが家から連れて来たと言うメイド達が頭を下げて、壁を作っていた。
「今すぐに各国の賓客に挨拶をせねばならん。ネリーニにすぐ出てきて、挨拶をするよう伝えてくれ」
「お伝えして参ります」
メイドの1人が部屋の中へ入っていくもすぐに出てきて
「お伝え致しました」
そう告げる。
「今すぐ出てくるんだ」
「お伝えして参ります」
また中へ入り
「お伝え致しました」
と、繰り返すだけだった。
「いつになるのだ!!今すぐと言った私の言葉が聞こえないのか!!」
「お伝えして参ります」
ネリーニのメイドにとっては王であるエルファードよりネリーニの方が大切にすべき主なのだった。
侍従があまりのストレスで倒れて暫くしてからネリーニは真っ赤なドレスで現れる。
「お待たせしましたわ、エルファード様」
派手すぎる化粧に高く結い上げた髪はどれも時間のかかる手の込んだものであるが、流石にエルファードもネリーニを連れて行く事は出来なかった。
「駄目だ、ネリーニ。建国祭の王と王妃の服は白地に金糸の縫い取りで国の象徴を入れねばならない。これは建国からの規則だ、赤いドレスを王妃が纏う事は出来ん」
「え……そんなこと聞いたこともございませんけれど、本当でございますか?」
「王宮規則で定められているぞ。ネリーニも暗記したであろう?王妃教育の一番最初に覚えるものだと聞いているが?」
「え?あ、ええ、そ、そうでございますわね……ほ、ほほ、ほほほ……だ、誰かしら!?こんな色のドレスを選んだのは!私に恥をかかせて喜ぶつもり??アイリーンの腰巾着がまだいるようね!?貴女かしらっ!?」
完全に苦し紛れに、ネリーニは自分の連れて来たメイドの一人を指差した。
「え?わ、私はネリーニ様のご指示通りにこのドレスを……」
「うるさい!犯人は貴女ねっ!ばあや、この女を捨てておいてくれるかしらっ!?」
「畏まりましてございます、お姫様」
恭しく頭を下げるネリーニのメイド長と「わ、私は知りませんっ!」と濡れ衣を着せられ泣くメイド。しかしその他のメイド達はネリーニの言葉が全てなのか、誰一人として今まで同僚として仲良くやってきたメイドを庇う者はいない。ネリーニが犯人だと言えば何の罪を犯していなくても犯人になるのだから。
「わ、私の建国祭用のドレスはどこかしら……?あ、そうだわ、きっとアイリーンが隠してしまったのね?あいつの部屋に行って捜してきて頂戴」
「畏まりました」
くたびれた数枚のドレスの中に、一着だけ新品の白と金のドレスを見つけ、メイド達はそれをネリーニに着付け直した。
「……」「……」
誰も何も言わない。しかし全員が気が付いていた。胸の部分がかなり隙間がある事に。仕方がなく、綿やら何やらを詰めてボリュームを出した事。ウェストがきつくて無理やり締め上げて詰め込んだことを。きっと何も食べることは出来ないだろうし、気を抜くと何かがパン!と弾けてしまいそうな事。ドレスが長くて、不格好なほど床を引きずる事。
アイリーンの体型に合わせて作られたこのドレスから察するところ。ネリーニはアイリーンよりバストのサイズは小さく、ウェストのサイズは大きく、足は短い……この場にいる者は誰一人として口にはしないが、その事実に一番衝撃を受けたのはネリーニだった。
「……っ!」
バキリッ!と手に持っていた華奢な造りの扇を折ってしまっても仕方がない事だろう。下だ、下だと言っていた女性が実は自分より素晴らしい体型を維持していたなど。
「急ぐぞ、ネリーニ!皆もう揃っているらしい!」
「え?あ、はい!」
足早に行ってしまうエルファードは手を取ってエスコートすらしてくれない。女性をエスコートするというマナーすらあの軽い頭には入っていないのだ。ドレスと合わせて作られたかかとの高いハイヒール。サイズも合っていない物に無理やり足を詰め込んだから走るなんて出来るはずもなく、立っているのがやっとなのに。
「お姫様のお靴をお持ちしましょうか……?」
「いえ!大丈夫よ!!」
白に金糸の清楚なドレスに合わせるような地味な靴をネリーニは持っていないし、ここまでヒールの高い靴もない。上手に歩くことが出来なくてヒールの高さを下げたなど。アイリーンに負けたような気持になる事をネリーニは出来るはずもなかったのである。
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