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16 狸は一匹とは限らない
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「さて、レイクリフ公爵。貴方の望む物が手に入りましたよ」
「ほっほ、流石我が君。その欲する物の為ならば可愛い息子もダシに使う薄汚さ、この老いぼれ感心しましたぞ」
「はははは、私など公爵の足元にも及びませんよ。私の腹黒さなど、レイクリフ公爵に比べたら卵の殻を付けたひよっこ以下ですからね」
ハハハハハ、シュマイゼル様と……かなり高齢の、レイクリフ公爵と呼ばれた男性がいつの間にか立っておられました。マルグ国のレイクリフ公爵は4年ほど前に代替わりし、このお方は先代のレイフリフ公爵であったように記憶しておりますが、一体どうしたのでしょうか?
「さて、ご挨拶が遅れて申し訳ありません、アイリーン嬢。私はジン・レイクリフ。現在のレイクリフ公爵家の当主ですがこれからは私の事はお祖父様と呼んでいただきたいですな」
「え?」
わたくしはレイクリフ公爵の言っている意味が分からず流石に戸惑ってしまいます。そっとシュマイゼル様を見上げれば……目を反らされましたわ……一体?ま、まさか。
「あ、あのもしかしてなのですが、先ほど我が父がサインしたというその書類は……」
「その通り、ワシとそなたの父上の養子縁組書でありますぞ。故にアイリーン嬢はたった今からワシの孫娘となり申した」
「シュ、シュマイゼル様!?父を騙しましたね!?」
「……アイリーン、書類はいくら急いでも隅から隅まで確認してサインすること。これはとても大切な事だと習いましたよね?」
習いましたが、これは些か卑怯ではありませんか!?
「我が孫アイリーンよ、「騙される方も悪い」のだよ?特に貴族であれば自分が騙される事で一族郎党に影響を及ぼすことくらい百も承知であろう?」
わたくしも流石に反論は出来ませんでした。そうです、確認をしない父上が一番悪い……のでしょうか……?
わたくしも油断しておりました。そうでした、この方はエルファード様とは違って立派に国を治め、国民を導いていらっしゃる方。駆け引きも、時にはハッタリも国の為ならばお使いになる方なのでした。
「……孫とは……可愛いものですな、我が君よ。嫁にやるのがもったいないのでやめようかな?」
「レイクリフ殿!!」
ふ、と皺がたくさん寄った目じりを和ませてレイクリフ公爵が微笑まれます。策略や発言より柔らかい笑顔にわたくしの警戒心が緩んで行くのが分かります……このお方、流石です。
「アイリーン嬢……もうこの書類が効力を持っているので、貴方には我が家の恥じについてお聞かせしなければなりませぬ。全てはワシの至らなさが起こした事件、そうしてハイランド伯爵を欲しがった事について」
そう前置きをしてからレイクリフ公爵は話を聞かせてくれました。少し長話になるという事で、場所を移し、シュマイゼル様は侍女にお茶を持ってくるように命じられます。
その心遣いを大変嬉しく感じてしまいます。人を思いやるという言葉はエルファード様には存在しなかった物です。
「我が息子、ヘンリー・レイクリフが4年前に当主を継いだことはアイリーン嬢の耳にも入っている事でしょう」
私は静かに頷きます。隣国の貴族名鑑を更新したことを覚えております。
「そのヘンリーが……妻と娘がいるにも関わらず、平民の女性に入れあげ更に騙され、多額の借金を背負い家を傾かせたのです。厳しく躾けたつもりだったのに……その節は王にも多大なるご迷惑をおかけしました」
「まあ……」
平民に騙され、公爵家を傾かせるほどの借金。これほどの醜聞、確かに他国には漏らすわけにはいきませんね。
「ヘンリーは家から追い出し、地方の知己へ預けました。そこで死ぬまで監視させる予定です。そしてワシがもう一度当主としてレイクリフ家を支えねばならぬことになったのですが……ヘンリーの妻のアマンダも……外に男を作っておりまして……」
「まあ……」
「一人娘のキャロラインは……多分ヘンリーの娘なのでしょうが……そんな両親の間で過ごしていたが故に、淑女とは言い難い娘に育っており……恥ずかしすぎて外に出せないのです」
「……なんと、まあ……」
流石のわたくしもそれしか言葉を紡げませんでした。
「そこに我が君が噂に名高いハイランド伯爵をアイリーン嬢という大きなエサで釣って連れてくると言うではありませんか。かの御仁ならば我が家を立て直しに尽力くださる。ついでにレイクリフの家名も元の栄光を取り戻してくださるに違いない。この養子縁組を成立させてしまえば、レイクリフから次期正妃が出ることが確定しておるのですからね」
にやり、といたずら気味に笑うレイクリフ公爵。今度は悪戯好きの子供の様な笑顔で、わたくしはおどろいてしまいました。このお方は色々な顔を持っていらっしゃるのですね。
流石「マルグの古狸」の通り名が我が国まで響いているお方です。
「ついでに言えば、キャロラインも……弟君が貰ってくだされば……」
「……そ、その事ですが、わたくしの弟も……あの、その……」
弟の方にも問題がありまして……。
「申し訳ないのですが、その辺りは調査させていただきました」
「あ、それならば……それでもよろしいのであれば……」
わたくしの弟のフレジットも頼りない子ですので……。
「ほっほ、流石我が君。その欲する物の為ならば可愛い息子もダシに使う薄汚さ、この老いぼれ感心しましたぞ」
「はははは、私など公爵の足元にも及びませんよ。私の腹黒さなど、レイクリフ公爵に比べたら卵の殻を付けたひよっこ以下ですからね」
ハハハハハ、シュマイゼル様と……かなり高齢の、レイクリフ公爵と呼ばれた男性がいつの間にか立っておられました。マルグ国のレイクリフ公爵は4年ほど前に代替わりし、このお方は先代のレイフリフ公爵であったように記憶しておりますが、一体どうしたのでしょうか?
「さて、ご挨拶が遅れて申し訳ありません、アイリーン嬢。私はジン・レイクリフ。現在のレイクリフ公爵家の当主ですがこれからは私の事はお祖父様と呼んでいただきたいですな」
「え?」
わたくしはレイクリフ公爵の言っている意味が分からず流石に戸惑ってしまいます。そっとシュマイゼル様を見上げれば……目を反らされましたわ……一体?ま、まさか。
「あ、あのもしかしてなのですが、先ほど我が父がサインしたというその書類は……」
「その通り、ワシとそなたの父上の養子縁組書でありますぞ。故にアイリーン嬢はたった今からワシの孫娘となり申した」
「シュ、シュマイゼル様!?父を騙しましたね!?」
「……アイリーン、書類はいくら急いでも隅から隅まで確認してサインすること。これはとても大切な事だと習いましたよね?」
習いましたが、これは些か卑怯ではありませんか!?
「我が孫アイリーンよ、「騙される方も悪い」のだよ?特に貴族であれば自分が騙される事で一族郎党に影響を及ぼすことくらい百も承知であろう?」
わたくしも流石に反論は出来ませんでした。そうです、確認をしない父上が一番悪い……のでしょうか……?
わたくしも油断しておりました。そうでした、この方はエルファード様とは違って立派に国を治め、国民を導いていらっしゃる方。駆け引きも、時にはハッタリも国の為ならばお使いになる方なのでした。
「……孫とは……可愛いものですな、我が君よ。嫁にやるのがもったいないのでやめようかな?」
「レイクリフ殿!!」
ふ、と皺がたくさん寄った目じりを和ませてレイクリフ公爵が微笑まれます。策略や発言より柔らかい笑顔にわたくしの警戒心が緩んで行くのが分かります……このお方、流石です。
「アイリーン嬢……もうこの書類が効力を持っているので、貴方には我が家の恥じについてお聞かせしなければなりませぬ。全てはワシの至らなさが起こした事件、そうしてハイランド伯爵を欲しがった事について」
そう前置きをしてからレイクリフ公爵は話を聞かせてくれました。少し長話になるという事で、場所を移し、シュマイゼル様は侍女にお茶を持ってくるように命じられます。
その心遣いを大変嬉しく感じてしまいます。人を思いやるという言葉はエルファード様には存在しなかった物です。
「我が息子、ヘンリー・レイクリフが4年前に当主を継いだことはアイリーン嬢の耳にも入っている事でしょう」
私は静かに頷きます。隣国の貴族名鑑を更新したことを覚えております。
「そのヘンリーが……妻と娘がいるにも関わらず、平民の女性に入れあげ更に騙され、多額の借金を背負い家を傾かせたのです。厳しく躾けたつもりだったのに……その節は王にも多大なるご迷惑をおかけしました」
「まあ……」
平民に騙され、公爵家を傾かせるほどの借金。これほどの醜聞、確かに他国には漏らすわけにはいきませんね。
「ヘンリーは家から追い出し、地方の知己へ預けました。そこで死ぬまで監視させる予定です。そしてワシがもう一度当主としてレイクリフ家を支えねばならぬことになったのですが……ヘンリーの妻のアマンダも……外に男を作っておりまして……」
「まあ……」
「一人娘のキャロラインは……多分ヘンリーの娘なのでしょうが……そんな両親の間で過ごしていたが故に、淑女とは言い難い娘に育っており……恥ずかしすぎて外に出せないのです」
「……なんと、まあ……」
流石のわたくしもそれしか言葉を紡げませんでした。
「そこに我が君が噂に名高いハイランド伯爵をアイリーン嬢という大きなエサで釣って連れてくると言うではありませんか。かの御仁ならば我が家を立て直しに尽力くださる。ついでにレイクリフの家名も元の栄光を取り戻してくださるに違いない。この養子縁組を成立させてしまえば、レイクリフから次期正妃が出ることが確定しておるのですからね」
にやり、といたずら気味に笑うレイクリフ公爵。今度は悪戯好きの子供の様な笑顔で、わたくしはおどろいてしまいました。このお方は色々な顔を持っていらっしゃるのですね。
流石「マルグの古狸」の通り名が我が国まで響いているお方です。
「ついでに言えば、キャロラインも……弟君が貰ってくだされば……」
「……そ、その事ですが、わたくしの弟も……あの、その……」
弟の方にも問題がありまして……。
「申し訳ないのですが、その辺りは調査させていただきました」
「あ、それならば……それでもよろしいのであれば……」
わたくしの弟のフレジットも頼りない子ですので……。
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