【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ

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11 地獄は太陽が昇る前から

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 地獄は太陽が昇る前から始まっていた。城の裏門には新鮮な食材をいっぱいに積み込んだ馬車が大行列を作っていた。

「おい!まだか?!」

「急いで持ってきたのに、氷が溶けちまうぞ!」

「鮮度が命の特上肉だぞ!」

 建国祭に来る各国国賓の為に国の威信をかけて集めた食材が朝一番に着くように事前に手配されていたのに。

「はあ?今日の申し送りに何も無かったぞ?」

「……おかしいとは思っていた!毎年朝から食材の馬車が着くのになんの準備もされていないから!」

 裏門を守る門番達も困惑したが、検査なしに通す事は出来ない。毎年、検査官が20人ほど臨時で待っていて、総掛かりで通すのに、今日は1人もいない。

「早く、早く通してくれ!」

「無茶言うな!何かあったら罰せられるのはこっちなんだから!」

 門番達は可能な限り急いで検査をしていくし、この混乱に助けも求めた。しかし毎年の検査官達も

「おかしいとは思いましたが、何の指示も無かったから……」

 と、登城していない者が殆どだ。いない人材を呼び寄せることも出来ない。食材の馬車の列はどんどん長くなるばかりだった。

 勿論、厨房も大混乱だ。

「な、何故料理長がいない?!」

「ソリオ料理長はハイランド伯爵家の料理長でしたから、アイリーン様がお国を離れた時点で辞められてしまって……」

「今日のメニューは?!」

「指示書は残っておりますから……」

「指示書で料理ができるのか?!」

「た、多分……」

 厨房の前で配膳係が揉めている。厨房内部では

「料理長……あっ」

「なんだ!くそっ!食材はまだ届かないのか!!」

 昨日まで副料理長の更に下で働いていた男が指揮を取っている。彼はネリーニの家から派遣された料理人で

「明日の料理はお前の腕にかかっている」

「はいっ!」

 公爵からの声かけにやる気をみなぎらせていた。元からの副料理長が数人残っていたが、彼らを押し退けての料理長の抜擢であったから、厨房には不満も満ちている。
 しかし、残った料理人達は「プロ」であり、誇りを持って仕事をしていたので建国祭の職務だけは全うしようとしていた。

「食材がなければ調理を始められないじゃないか!お前、見てこい!!」

「……分かりました」

 下準備という物を軽くみすぎている新しい料理長。居丈高に「命令」を下す男に殆どの残った料理人は嫌な顔をした。

「料理は1人ではできない。和、だよ」

 そうにこやかに笑った前料理長の優しい笑顔がしみじみと思い出させる。その料理長が烈火の如く怒り狂い

「アイリーン様を追い出した?!あのクソ野郎が!皆にはすまないが、今すぐに辞めさせて貰う!」

 エプロンを叩きつけて出て行ってしまった。彼を慕って何人もの料理人が消えた。慌ててやってきた公爵という人が今の料理長を指名して戻って行ったがそんな状況で厨房が上手く回るはずもない……。






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