6 / 64
6 宰相ローランドの「契約」
しおりを挟む
「……直接陛下にお聞きしましょう」
「それが宜しいかと」
アイリーンとレンブラントがシュマイゼルに風のように連れされれることに遅れて1時間ほど、宰相であるローランドの耳にその悲報は飛び込んできた。明日からの建国祭の支度に少し城を離れた隙に起こったとんでもない事件である。
むしろこの宰相がいない時を見計らって、エルファードとネリーニが仕掛けたのかもしれない。
「陛下、ご確認したいことがございます」
「宰相か、お前はアイリーンと懇意にしておったが残念だったな。あの女はもう王妃でもなんでもない!この国から追放してやったぞ!」
意気揚々、鼻高々。何故、正妃に離婚を突き付ける事をこのように慶事の如く言うのか。宰相ローランドはまず意味が分からなかったが、彼は確かめねばならない。
「それはまことでございますか?エルファード陛下」
「勿論だ、あのうるさい女がいなくなってこれからは私自らが国の指揮を取ろう!」
この言葉を聞いて城に仕える者たちはゾッと背筋が寒くなったが、更に宰相ローランドは凶事に輪をかけた。
「ならば私も宰相の地位を辞させていただきます。それでは」
その言葉にエルファードも慌てるしかない。この宰相ローランドをやめさせる気はエルファードには少しもない。むしろ王妃と並んで切れ者の名高いローランドがいなくなっては国の政治は回らないのである。
「な、なにを言っている!お前はやめることはないではないか!」
慌てて引き留めるも、ローランドの顔は冷たく厳しい。エルファードの言葉はローランドに届く前にむなしく散っている気さえする。
「いえ、私の契約はもとよりアイリーン嬢が王妃でいるならば、その補佐として宰相を務めさせていただく、という事です。これは前陛下とお約束した事。契約書もここに。アイリーン嬢が王妃でなければ私も宰相をするつもりはございません」
きっぱり、はっきり。ローランドは言い切った。
「な、な、な……そんなの、私は、知らない……!」
「いいえ、前陛下が亡くなられ、引き継ぎを成された時にこの書類も提出させていただきました。ご覧ください、エルファード陛下の署名も入っております」
確かにその書類にはローランドが宰相を引き受ける条件としてアイリーンが王の正妃であることが記されているし、更に前国王とエルファードの署名もしっかりなされていた。
「では、これにて御前失礼いたします。これより部屋を片付け一両日中には出て行きます」
慇懃に礼をするローランドに慌ててエルファードは声をかける。
「ま、待て!ローランド!お前はこれからも宰相として私を助けてくれ、これは命令だ!」
「お断り致します」
「なっ!!」
「元々私は宰相職などつきたくはなかった。しかし、我が姪アイリーンがあまりに哀れで手を差し伸べただけです。アイリーンがいない今、何の魅力もこの職にはございません」
「な、な、な……!」
壊れたおもちゃのように同じ音を繰り返すエルファードを振り返ることなく、ローランドはスタスタと歩き去る。まさかの出来事に隣にいたネリーニも、ダルク公爵も唖然とするしかなかった。彼らはこの契約書の事を全く知らなかったのだ。
「だ、誰か、誰か!宰相を、ローランドを止めろ!!」
エルファードが声を荒げると、騎士団長が現れ、膝まづいた。
「それが宜しいかと」
アイリーンとレンブラントがシュマイゼルに風のように連れされれることに遅れて1時間ほど、宰相であるローランドの耳にその悲報は飛び込んできた。明日からの建国祭の支度に少し城を離れた隙に起こったとんでもない事件である。
むしろこの宰相がいない時を見計らって、エルファードとネリーニが仕掛けたのかもしれない。
「陛下、ご確認したいことがございます」
「宰相か、お前はアイリーンと懇意にしておったが残念だったな。あの女はもう王妃でもなんでもない!この国から追放してやったぞ!」
意気揚々、鼻高々。何故、正妃に離婚を突き付ける事をこのように慶事の如く言うのか。宰相ローランドはまず意味が分からなかったが、彼は確かめねばならない。
「それはまことでございますか?エルファード陛下」
「勿論だ、あのうるさい女がいなくなってこれからは私自らが国の指揮を取ろう!」
この言葉を聞いて城に仕える者たちはゾッと背筋が寒くなったが、更に宰相ローランドは凶事に輪をかけた。
「ならば私も宰相の地位を辞させていただきます。それでは」
その言葉にエルファードも慌てるしかない。この宰相ローランドをやめさせる気はエルファードには少しもない。むしろ王妃と並んで切れ者の名高いローランドがいなくなっては国の政治は回らないのである。
「な、なにを言っている!お前はやめることはないではないか!」
慌てて引き留めるも、ローランドの顔は冷たく厳しい。エルファードの言葉はローランドに届く前にむなしく散っている気さえする。
「いえ、私の契約はもとよりアイリーン嬢が王妃でいるならば、その補佐として宰相を務めさせていただく、という事です。これは前陛下とお約束した事。契約書もここに。アイリーン嬢が王妃でなければ私も宰相をするつもりはございません」
きっぱり、はっきり。ローランドは言い切った。
「な、な、な……そんなの、私は、知らない……!」
「いいえ、前陛下が亡くなられ、引き継ぎを成された時にこの書類も提出させていただきました。ご覧ください、エルファード陛下の署名も入っております」
確かにその書類にはローランドが宰相を引き受ける条件としてアイリーンが王の正妃であることが記されているし、更に前国王とエルファードの署名もしっかりなされていた。
「では、これにて御前失礼いたします。これより部屋を片付け一両日中には出て行きます」
慇懃に礼をするローランドに慌ててエルファードは声をかける。
「ま、待て!ローランド!お前はこれからも宰相として私を助けてくれ、これは命令だ!」
「お断り致します」
「なっ!!」
「元々私は宰相職などつきたくはなかった。しかし、我が姪アイリーンがあまりに哀れで手を差し伸べただけです。アイリーンがいない今、何の魅力もこの職にはございません」
「な、な、な……!」
壊れたおもちゃのように同じ音を繰り返すエルファードを振り返ることなく、ローランドはスタスタと歩き去る。まさかの出来事に隣にいたネリーニも、ダルク公爵も唖然とするしかなかった。彼らはこの契約書の事を全く知らなかったのだ。
「だ、誰か、誰か!宰相を、ローランドを止めろ!!」
エルファードが声を荒げると、騎士団長が現れ、膝まづいた。
354
お気に入りに追加
7,185
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる