【完結】愛する親友とゲーム転生をしたのに捨てられ賢者の俺は元魔王に愛されすぎてつらい

ゲームの世界へ転生召喚？

1 魔王キュリオ

「愁……お前まで俺を騙すんだな……！」

「ッ痛い……桐生……ッ」

　俺は今、片手で親友に吊り下げられている。肩が外れそうだ。親友の桐生は恨みのこもった暗い目ですべてを見ている。ああ、今にも今にも……覚醒しそうだ、桐生……。

「もう……もういい！何もかも！俺が……俺が壊してやるッ‼‼」

　ドーン！と天地をつんざくような稲光が走り、勇者桐生は魔王キュリオに変化する。

　ああ！もとより茶色が濃くなっていた髪が真っ黒に変わる。変質した魔力を吸ってざわざわと伸び始めた。
俺と大して変わらない茶色っぽい目は金色になり、瞳孔が狭まり爬虫類を思わせる異質な瞳に変わった。

　俺は吊り下げられたまま、痛みなど忘れて見惚れていた。


　ああ～～～～～～桐生！いや！魔王キュリオ様！マジイケメン！！！かっこいい！抱いて！だいてええええええ！桐生ももちろん大好きだったし、出来るもんなら抱いてほしい！でもそんなことは言えない！避けられたら俺はメンタルからの死亡確定だ！だからそっと胸の中でだけ温めておいたこの熱い想いが！漏れそうだああああ！

　背中に翼が、頭から山羊を思わせる巻き角が生え、とてもとても絵に描いたような魔王に桐生は変化した。あああああたまらない！そんなマジちびりしそうなナイス変身を間近でみて、俺は失神寸前だ。あーもう神様ありがとう！この世界に連れていてくれてありがとうありがとう！

　俺は大いなる感謝を一欠けらも顔面に出さずに、心の記録媒体にまばたきもせずにじーっとＲＥＣした。永遠に残したい。
　いや残す！絶対にだ！！！俺はこの瞬間を永遠に忘れないだろう！ずばーん！

「キ……キリオ……！なんてことを……！」

　浮いている桐生の足下に聖女姫・アリシアルタがいる。お前が悪いんだろ……何が「なんてことを！」だ！バーカバーカ！

「シュウを！大賢者シュウを離してください！まだ結界が完成していないのですよ！？」

　ホント！なんで今結界の話をだすかなー！コイツ！そして俺かよ！そこは桐生を気に掛けるところでしょう！だからこうなっちゃうんだよ！桐生は！

「やはりこうなったか！キリオ！！！俺は前からこうなるんじゃないかと思ってたんだよッ！」

　戦士のデレクだ。何が前からだ！馬鹿筋肉が！ただ単に勇者の桐生の方がモテるから目の敵にしてただけじゃねーか！　　　　お前が臭いからモテないんだよ！！風呂に入らないし、毛深いから町の女性たちに嫌われてるんだろ！それなのに桐生を逆恨みして！ばっかじゃねーの！実力もないくせに！

「やってくれたわね……キリオ！シュウを離しなさいよッ」

　女魔法使いのディアーナ。俺と桐生が仲をいつも邪魔してくる乳デカ。男はこの体でいちころよ！と思っているのが透けて見えて気持ち悪い。多分俺のことが好きなんだろうけど、俺は……桐生の方が好きだ。昔から好きだ。避けても避けてもやんわり断っても「ふふ！照れちゃって！」っていう話聞いてない系の女だ。
　本当に勘弁してもらいたい。

「愁」

　下の有象無象の話など、丸っと無視して桐生……いや、魔王キュリオは俺を見る。

「……」

　かっこよすぎる……どうしよう近すぎて心臓が誤作動を起こしそうだ！ううっ苦しい！でもキュリオたんの腕の中で死ねるならそれはそれでいい人生だ。

　という、欲望駄々洩れな思考を桐生に悟られないように慎重に魔力を張り巡らせているもんだから、あんまり返事できないんだよね。バレたら死ぬ！ばれたら俺のメンタルが即死する！

「お前は俺と来てもらう……！嫌とは言わせない」

　キュン！キュンキュン‼ご褒美！こんな薄汚れた俺にキュリオたんからのご褒美ががががががが！俺は！おれはあああああ

「……わかった……」

　危ない！嬉しすぎて思考が噴射するところだった。キュリオたんの「読心」能力は凄いからな。これのせいで桐生はキュリオたんになっちゃったんだけどね！はーーどこまでもお供しますよ！地獄だろうが魔領だろうが！キュリオたんがいればそこが天国！ラブラブマジハッピーネ！

「やめて！キリオ！シュウを返しなさい！」

「姫っ！」

　騎士たちが俺たちに向かって弓を射かける。さっきまで勇者勇者と持ち上げていた桐生にあいつらは……。桐生の迸る魔力で矢はほとんど方向を変え当たりなどしないが、桐生の闇はどんどん深くなる。

「あいつら……俺たちがどれだけ頑張って魔王を……くそっくそっ！」

　桐生……ごめん、こうなることを知ってたんだ。でも俺は……俺は……。

「うっ！」

「愁！」

　バチが当たった俺に一本の矢が突き刺さった。いてぇ……。

「愁！愁！！くそ！お前らッ！！」

　俺の意識はすーっと遠ざかっていく。あー痛いなーー。俺はここに来た当時の事を思い出していた。