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それからの俺たち

109 そう言うふうには見えない

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 季節は廻り、時は過ぎ。リンとジュールが学園を卒業した。

 二人は10歳くらいからずっと一流の歌い手で、歌劇場のスターだった。学園に通うときは活動が減って惜しむ声がたくさん上がったが、本人たちも学園で過ごすことを望んだし、家族全員そのほうがいいと勧めた。

「歌い手もいいけれど、ジュールとリンはまだ子供だということを忘れてはいけません。10代のうちにしかできない経験を積んでほしいんです」

 それにはリンもジュールも同意する。

「歌うのも好きだけど、家族といるのが好き!」

「お客さんの前で歌うより、みんなと歌う方が好き」

 こんな純粋な気持ちは忘れないで欲しいと思う。


 卒業した二人は、学園にできた歌唱クラスの講師をたまにしながら、歌劇場で歌うことになっている。国の行事に呼ばれたり、なかなか多忙だ。

「そしてやっぱり経営は無理でしたね!」

 アハハ!とザザが高笑いをしている。二人の仕事の割り振りはすべてディライト家で管理していて、ザザ・ディライト公爵がキビキビと指揮をしていた。ザザももう24歳で結婚もした。もう子供もいてとっても可愛い!

「そりゃジュールとリンは無理でしょうねぇ!」

 予定通りシュルがシェルブール侯爵家を継ぎ、名乗っている。シュル・シェルブールなのでちょっと言いにくいが、シェルブールのおじい様とおばあ様もまだまだ健在だった。

「まあ、あの子達は、そういう子ですからねえ」

 お母様も年齢を感じさせない美しさを保っていて、今は名実ともにリリー商会はお母様が取り仕切っている。上品に笑いながらえぐい注文を出してくると、ジーレンさんやフォルターさん、レックスさんが悲鳴を上げている。

「もう!みんなったら何言ってんのよ!」

 カレンが腰に手を当てて怒っているが、大して怒ってもいないのだろう。カレンは穀倉国のリザの王太子に嫁いでしまった。

「パンが美味しいのよ~~!」

 なんて、のんきに言っているけれど、留学で来た王太子と恋に落ちたのはびっくりした。リザも豊かな国だし、王様もいい人で安心できる。

「ふふ、久しぶりに兄弟が集まったな」

 俺は笑うギアナ様を見て、静かにほほ笑む。

「そうですね」

 ベッドに横たわるギアナ様の顔色は悪い。二日前、突然血を吐いて倒れたんだ。慌てて兄弟は飛んできた。

「無理して働き過ぎたんですよ、休めってことです」

 ザザは言い、シュルは頷く。

「ホントよね!ギアナ兄様は働きすぎだわ!リト兄様もだけどさ!上手に休んでこその商人なのよ!」

 カレンに怒られた。

「そうよ~兄様。早くよくなってね?私とジュールの結婚式は来年するんだから。神殿の改築してね!」

 リンは休めって言われてるのに仕事の話を振ってくる。こらっ!

「それはお母様の方でしておきますから。ギアナは休憩よ!リトと旅行でも行くといいんじゃないかしら?」

 お母様の頭の中には新しく作った保養地がいくつか浮かんでいるんだろう。

「旅行かー良いですね。たまには行きましょう、ね?ギアナ様」

「そうだな、久しぶりにバチュールに顔を出すのもいいかもしれないな」

 良いですね、俺はそう頷く。一瞬、しん、と静まり

「バチュールか、僕も海にたまに行こうかな、リンいいよね?」

「え?あ、うん。向こうのお父様とお母様にもお会いしたいけど、リト兄様達とは別で行こうね!邪魔しちゃ悪いわ!」

「当たり前だろ!」

 そんな軽口を叩く。だって、みんな聞いちゃったんだ。



「あと1か月持ちません」

 お医者様はそういった。

「体に無理をかけすぎたのでしょう。どこもここもボロボロだ。よく今まで動いていたと不思議に思います」

 そう、言った。何もそんなそぶりは一つも見せなかったのに、ギアナ様の命はあと1か月しか持たないって。

 そう、言われた。

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