93 / 117
打倒!元実家!
91 ディライト家の没落5
しおりを挟む
「そ、そうじゃ!王に!王に口添えをしていただこう!」
ディライト翁はただ混乱するばかりの息子を奮い立たせる。
「ディライト家は古くからの家!王も無碍には出来まいて!」
なんとか馬車を用立て、城へ向かう。すれ違う貴族達の内緒話はうるさかったが、それどころではない。
久しぶりに足を運んだ王城は輝きを増していた。
己の保身に躍起なディライト家の二人はあまり見ていなかったが、キラキラと光を反射する物が多いのだ。
その光に目もくれず、指定された執務室へ向かう。手紙で約束は取り付けてあったので、王は公式ではない場であるが、面会はしてくれた。
隣に宰相も立っていたが。
「息災か、ディライトよ」
「王よ!我が家をお救いくだされ!」
息子であるディライト公爵が返す前に、引退済みのディライト翁が縋り付くような声を上げた。
王は宰相と一度顔を見合わせてたが
「立ち話も何ですから、お座り下さい」
宰相にソファを勧められて、腰を下ろした。2人の前にお茶が出され……4枚の羽を広げた美しい神鳥が、サラサラと不思議な手触りで施されているティーカップと、ソーサー。そしてスプーンまでもガラス製の逸品であった。
「これは……素晴らしいですな……」
見たこともない技法に、あり得ないほど細かい作業。羽根の一枚一枚がわかるくらい彫りが細かい。
「わしのお気に入りの器じゃ。相当毟り取られたがな」
ははは!と王は笑う。いくらですか?とは聞けなかった。
「して、火急の用とは?わしにもどうする事も出来ぬ事もあるが、聞くだけは聞こう」
「それなのですが!!」
2人は切々と、ディライトの窮状を訴えた。
「ふむ」
王はその一言のみ。代わりに宰相が口を開いた。
「それで何をお望みなのですか?」
冷たい物言いに、たじろぎながらも何とかしてほしい!そう口にする。
「何とかとは?ディライト領から人が出て行ったのは、周りに暮らしやすい、目新しい物が出来たからでしょう?ディライト領にも作れば良いのでは?」
「それが出来たら苦労しません!リリー商会は我が領には作らんというのです!」
「商会は他にもあるでしょう?」
「どこも受けぬと言うのです!」
「はて?提示金額が足りぬのでは?」
「相場以上です!!」
「相場以上でもなんでも、もっと金を積めば、儲かると判れば商人は動くものです。儲からぬ何かがあるのでは?商人との交渉に失敗したのを王家に何とかしろとは……流石にどうしようもありませぬな」
ぐっとディライト翁は言い返せなくなってしまう。出来ないと言われて、怒鳴り追い返した。そんな事を繰り返したから、どんな商人も寄り付かなくなっていた。
「ディライトよ、アマリリーとは和解したか?以前にお主は言っておったな?あの時は悪かった、アマリリーに赦しを乞いたいと」
王は静かに尋ねる。確かにディライト翁は言っていたし、現ディライト公爵ジュディウスも同意した。
……その言葉をエイムド王子はあの時、信じたのだったが。
「和解は……致しました。しかしアマリリーは出てゆきました。ルシリア殿の世話になると」
「そうか。和解してこれか……」
ため息はつかずに窓の外に視線を移した。空は青く雲が一つ二つ浮かんでいる。
「お主らが商人との交渉に失敗した責任を私に何とかしろと言うのは、どうもおかしい話ではないか?」
ディライト家の2人はすごすごと帰るしかなかった。帰り際、王宮のサロンを見上げると、とても大きくて豪華なシャンデリアが取り付けられている途中だった。
キラキラと光を反射するガラス達は透明度が高く本当に美しい。
「気をつけろ!その飾り一個だけでもいくらすると思ってんだー?1000ギルだぞー」
「具体的ッスねー!」
「その方が分かりやすいだろ?」
指示をする男と目があってジュディウスは飛びかかった。
「きさま!貴様さえいなければ!!!」
「うおっと?」
ひょいっと軽く避けると、ジュディウスは設置前のシャンデリアに突っ込む。
ガラスの破砕音が辺りに響き、衛兵が駆けつける。
「な、何事ですか!」
「貴様が!貴様があーーー!」
「はぁ?なんだっつーの?」
必死で飛びかかるジュディウスに、耳をほじりながら、片手をポケットに入れたままでだるそうに避けまくる獣人。
「ぎ、ギアナ殿!これは一体?!」
戸惑う衛兵にギアナはだるそうに答える。
「知らないよ、この人が勝手にコレに突っ込んでこーんなにして、それで俺に飛びかかって来るんだもん。何とかしてよ」
貴様さえいなければ!と喚くジュディウスは衛兵に押さえつけられる。汗ひとつもかいていないギアナは、割れたシャンデリアの飾り達をみてがっかりしている。
「あーあ。今週中に完成しないぞ、これ。俺のせいじゃないからな」
「な!なんだとっ!!!」
押さえつけられながら、ジュディウスは叫ぶが、駆けつけた宰相の顔は真っ青だ。
「これは……一体!?ギアナ殿!」
「だいぶ壊されちまった。見た目は良くても傷があると輝きが落ちる。研磨済みの物ばかりだったからな……あと20日は延長だろうな」
「週末の夜会は……」
「小さくなるが、おかしくない程度に急拵えしよう。別途手数料は貰うけどな」
宰相はとりあえず胸を撫で下ろし、現状把握に努める。聞かずとも明白なのだが。
「宰相さん、俺は行って良いな?こっちも徹夜でやらんと間に合わない案件だ」
「お願いします」
シャンデリアを組んでいた職人達を全員集め、壊れた物も一つ残らず回収して、ギアナは工房に急ぐ。
「誰か先に行ってガラス職人とリトを呼んでくれ!お前らしばらく家に帰れないけど、ボーナスやるから踏ん張ってくれよー!」
「わかりやしたー!」
次々と指示を出しながら振り返らずにギアナは行ってしまう。
「ジュディウス・ディライト。流石にかばい立ては出来ませんよ」
「しかし!しかし!あいつが!あいつのせいで我々は!」
宰相の目は冷たかった。
「彼が、ギアナ殿が何をしたのです?証拠はおありか?そして私怨で一方的に襲いかかり、城の美術品を壊す。許される事ではありませんぞ!」
2人はしばらく城に留め置かれることとなった。
ディライト翁はただ混乱するばかりの息子を奮い立たせる。
「ディライト家は古くからの家!王も無碍には出来まいて!」
なんとか馬車を用立て、城へ向かう。すれ違う貴族達の内緒話はうるさかったが、それどころではない。
久しぶりに足を運んだ王城は輝きを増していた。
己の保身に躍起なディライト家の二人はあまり見ていなかったが、キラキラと光を反射する物が多いのだ。
その光に目もくれず、指定された執務室へ向かう。手紙で約束は取り付けてあったので、王は公式ではない場であるが、面会はしてくれた。
隣に宰相も立っていたが。
「息災か、ディライトよ」
「王よ!我が家をお救いくだされ!」
息子であるディライト公爵が返す前に、引退済みのディライト翁が縋り付くような声を上げた。
王は宰相と一度顔を見合わせてたが
「立ち話も何ですから、お座り下さい」
宰相にソファを勧められて、腰を下ろした。2人の前にお茶が出され……4枚の羽を広げた美しい神鳥が、サラサラと不思議な手触りで施されているティーカップと、ソーサー。そしてスプーンまでもガラス製の逸品であった。
「これは……素晴らしいですな……」
見たこともない技法に、あり得ないほど細かい作業。羽根の一枚一枚がわかるくらい彫りが細かい。
「わしのお気に入りの器じゃ。相当毟り取られたがな」
ははは!と王は笑う。いくらですか?とは聞けなかった。
「して、火急の用とは?わしにもどうする事も出来ぬ事もあるが、聞くだけは聞こう」
「それなのですが!!」
2人は切々と、ディライトの窮状を訴えた。
「ふむ」
王はその一言のみ。代わりに宰相が口を開いた。
「それで何をお望みなのですか?」
冷たい物言いに、たじろぎながらも何とかしてほしい!そう口にする。
「何とかとは?ディライト領から人が出て行ったのは、周りに暮らしやすい、目新しい物が出来たからでしょう?ディライト領にも作れば良いのでは?」
「それが出来たら苦労しません!リリー商会は我が領には作らんというのです!」
「商会は他にもあるでしょう?」
「どこも受けぬと言うのです!」
「はて?提示金額が足りぬのでは?」
「相場以上です!!」
「相場以上でもなんでも、もっと金を積めば、儲かると判れば商人は動くものです。儲からぬ何かがあるのでは?商人との交渉に失敗したのを王家に何とかしろとは……流石にどうしようもありませぬな」
ぐっとディライト翁は言い返せなくなってしまう。出来ないと言われて、怒鳴り追い返した。そんな事を繰り返したから、どんな商人も寄り付かなくなっていた。
「ディライトよ、アマリリーとは和解したか?以前にお主は言っておったな?あの時は悪かった、アマリリーに赦しを乞いたいと」
王は静かに尋ねる。確かにディライト翁は言っていたし、現ディライト公爵ジュディウスも同意した。
……その言葉をエイムド王子はあの時、信じたのだったが。
「和解は……致しました。しかしアマリリーは出てゆきました。ルシリア殿の世話になると」
「そうか。和解してこれか……」
ため息はつかずに窓の外に視線を移した。空は青く雲が一つ二つ浮かんでいる。
「お主らが商人との交渉に失敗した責任を私に何とかしろと言うのは、どうもおかしい話ではないか?」
ディライト家の2人はすごすごと帰るしかなかった。帰り際、王宮のサロンを見上げると、とても大きくて豪華なシャンデリアが取り付けられている途中だった。
キラキラと光を反射するガラス達は透明度が高く本当に美しい。
「気をつけろ!その飾り一個だけでもいくらすると思ってんだー?1000ギルだぞー」
「具体的ッスねー!」
「その方が分かりやすいだろ?」
指示をする男と目があってジュディウスは飛びかかった。
「きさま!貴様さえいなければ!!!」
「うおっと?」
ひょいっと軽く避けると、ジュディウスは設置前のシャンデリアに突っ込む。
ガラスの破砕音が辺りに響き、衛兵が駆けつける。
「な、何事ですか!」
「貴様が!貴様があーーー!」
「はぁ?なんだっつーの?」
必死で飛びかかるジュディウスに、耳をほじりながら、片手をポケットに入れたままでだるそうに避けまくる獣人。
「ぎ、ギアナ殿!これは一体?!」
戸惑う衛兵にギアナはだるそうに答える。
「知らないよ、この人が勝手にコレに突っ込んでこーんなにして、それで俺に飛びかかって来るんだもん。何とかしてよ」
貴様さえいなければ!と喚くジュディウスは衛兵に押さえつけられる。汗ひとつもかいていないギアナは、割れたシャンデリアの飾り達をみてがっかりしている。
「あーあ。今週中に完成しないぞ、これ。俺のせいじゃないからな」
「な!なんだとっ!!!」
押さえつけられながら、ジュディウスは叫ぶが、駆けつけた宰相の顔は真っ青だ。
「これは……一体!?ギアナ殿!」
「だいぶ壊されちまった。見た目は良くても傷があると輝きが落ちる。研磨済みの物ばかりだったからな……あと20日は延長だろうな」
「週末の夜会は……」
「小さくなるが、おかしくない程度に急拵えしよう。別途手数料は貰うけどな」
宰相はとりあえず胸を撫で下ろし、現状把握に努める。聞かずとも明白なのだが。
「宰相さん、俺は行って良いな?こっちも徹夜でやらんと間に合わない案件だ」
「お願いします」
シャンデリアを組んでいた職人達を全員集め、壊れた物も一つ残らず回収して、ギアナは工房に急ぐ。
「誰か先に行ってガラス職人とリトを呼んでくれ!お前らしばらく家に帰れないけど、ボーナスやるから踏ん張ってくれよー!」
「わかりやしたー!」
次々と指示を出しながら振り返らずにギアナは行ってしまう。
「ジュディウス・ディライト。流石にかばい立ては出来ませんよ」
「しかし!しかし!あいつが!あいつのせいで我々は!」
宰相の目は冷たかった。
「彼が、ギアナ殿が何をしたのです?証拠はおありか?そして私怨で一方的に襲いかかり、城の美術品を壊す。許される事ではありませんぞ!」
2人はしばらく城に留め置かれることとなった。
22
お気に入りに追加
1,257
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【R18】【Bl】死にかけ獣人が腹黒ドS王子様のペットになって溺愛される話
ペーパーナイフ
BL
主人公のクロは黒猫の獣人だった。逃げ出し、道で死にかけていたところ、運良く男に拾われるがそいつはヤンデレ絶倫王子で…。
「君をねじ伏せて恐怖に歪んだ顔が見たい」
「大嫌いなやつに気持ちよくされる気分はどう?」
こいつは俺が出会った中で一番美しく、そしてやばいやつだった。
可愛そうな獣人がヤンデレ王子に溺愛、監禁されて逃げ出そうにも嫉妬執着される話です。
注意
妊娠リバなし 流血残酷な表現あり エロ濃いめ
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。
竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。
天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。
チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
兄上の五番目の花嫁に選ばれたので尻を差し出します
月歌(ツキウタ)
BL
今日は魔王である兄上が、花嫁たちを選ぶ日。魔樹の華鏡に次々と美しい女性が映し出される。選ばれたのは五人。だけど、そのなかに僕の姿があるのだけれど・・何事?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!
スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。
どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。
だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。
こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す!
※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。
※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。
※R18は最後にあります。
※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。
※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。
https://www.pixiv.net/artworks/54224680
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる