【完結】その少年は硝子の魔術士

打倒！元実家！

88 音楽会で一儲け

　学園が始まって、リト達は朝に出かけて、夕方帰ってくる生活に戻った。

「……寂しい」

「ギアナお兄様は寂しがり屋さんですねぇ」

　リンに慰められ、ジュールに

「お歌歌う？」

　心配されている。

「バチュールの虎からウィシュバーグの猛虎になったのに、こんな腑抜けで良いのかねぇ？」

　レックスが机に突っ伏しているギアナを冷たい目で見下ろすが、猛虎の尻尾はしおしおと垂れたままだ。

「数字は順調。これ以上急激に締めると殺しちまう。流石に命まではなぁ。一応血の繋がりはあるんだし」

　あー……声は地を這うように低い。

「俺は処分してしまいたいんだが、リリー母上とリトがちょっとでも悲しむと思うと手をくだせないぜ」

「お優しいですね？」

「当たり前だ、俺は優しい旦那様だぞ？」

「……進んでないのはリトさんとの関係だけ……っと」

「レックス！！！その首落としてやるーーー！ッ！！」

「ぎゃーーー！」

　元気だった。

「ギアナ兄様！落ち着いて？リンとジュールがお歌を歌ってあげる！」

「あ？……儲かる！」

「？」

　リリー商会は動くものは何でも儲かるらしい。



「今日はルシリア家の小さな音楽会に来ていただき誠にありがとうごじゃいましゅ！」

　リンが小さな淑女ドレスでぺこりと挨拶をする。噛むのは基本だ。

「僕たち、一生懸命うたいますので、皆様にちょっとでも幸せになっていただけたら、嬉しいです」

　ジュールは流石に舞台慣れしていて堂々としている。
　
「「では、歌います」」

　子供特有の高い声で、可愛らしく曲が始まった。お招きしたお客様は全員60代以上。暇と金を持て余した貴族の爺様と婆様だった。
　そこにやわらかーいケーキとお茶を出すだけの簡単な茶会をギアナはルシリア翁に提案する。

　主役はリンとジュール。ザザとシュルは爺様と婆様のお世話をしている、小さな執事だ。

　ちょっと自分勝手なリンの歌に上手くジュールが合わせている。

「まあまあ！なんて可愛い歌い手さんなのかしら！」

　婆様の頬が緩む。

「男の子の方は歌劇場の歌い手さんだったのよね」

「ええ、マダム。彼に習って妹も歌うのが好きになったようなんです。まだまだ未熟ですが、見守っていただけると嬉しいです」

　すっかり貴族の教養が身についたザザとシュルは器用にこなして行く。

「すると、アレが聴けるのかね？」

「ミスター、少しだけだそうですが、披露するそうですよ」

「ほう！魔歌を歌ってくれるか！」


「では最後に、2人で歌いますね」

　声を合わせて空気を振るわせる。手を繋いで、魔力をちょっとまとわせて。

　上に、下に。弾むように、転がるように。ささくれた心を癒すように。
　凝った肩を叩くように。張った足を揉むように。痛む膝をさするように……？

「おじいちゃん、おばあちゃんがお客さんだから、みんな元気になってねー！」

「ふふふ！そうだね！」

　子供達の歌う歌は「癒しの歌」で、爺様と婆様の心と体を癒やして、財布の口をものすごい勢いで緩めた。


「よし来た」

　お高い本日お出ししたガラスのティーセットは白鳥の意匠が施されていたが、全部羽が生えて飛んで行ってしまった。

「たまにやろうぜ！」

「音楽会楽しかったぁ！」

「僕たちの執事ぶりも様になってたでしょ？」

「僕はもっと歌いたいなー！」

「リンもー！」

「いやぁ、年寄りには堪らんなぁ！またお願いしますぞ！皆さん！」

　ルシリア家の音楽会に呼ばれるのは、年寄り貴族のステータスの一部になっていった。

「いくら暇だからってリンまで使うのはどうなんですか？」

「ううう、すまん、つい……」

　流石にリトは釘をさしておいたようだった。