上 下
83 / 117
打倒!元実家!

81 家族になる

しおりを挟む
 温泉宿に着くと待ち構えていたジュールがびたーん!と飛びついてきた。

「リト兄様!!」

「わあ!ジュール!しばらく見ないうちに大きくなったねぇ!」

「えへへ!ありがとうございます!」

「お兄ちゃま、この子がジュール?わたし、リンよ。よろしくね!」

「!リト兄様にそっくりなんだね!よろしくね!」

「うん!」

 まるで本当の兄弟が一人増えたみたいに、ジュールはうちの兄弟に溶け込んだ。ザザとシュルが二人の世話をしてくれる。

「ジュール、リトに会わせろリトに会わせろ!ってうるさかった割に、子供達と行っちまったぞ?」

 俺の隣にはそこにいるのが、さも当たり前と言うようにギアナ様が立っている。

「良いじゃないですか。きっと友達がいなかったんでしょう。ここには子供が少なそうですし」

「……そうだな」

 先に歩き出した俺にはギアナ様の呟きは聞こえなかった。

「ジュールがリトにくっ付いて来るかと思ったが、嬉しい誤算だな……」

「何か言いましたー?」

「いや?何も」

 俺たちは休暇を目一杯堪能した。去年はみんなで固まってあのボロ家で過ごした。その前はもっとボロかった家で寒さに身を寄せ合いながら過ごしたっけ。
 交代前のリトの記憶が蘇る。

 今年はこうしてきれいなお宿で、好きな時にひっくり返り、ご飯を食べれて、温泉に入ってのんびりするなんて、考えつきもしなかった。


「リト」

「ひゃい!」

 お母様と兄弟とジュールは同じ部屋で寝ている。……俺とギアナ様が二人部屋だ……。た、多分そんな事ないと思うけど!思うんだけど!
 ……なんだか緊張する訳でして……。そして名前なんて呼ばれたらドキッとする訳です……。

 いつものように優しく抱き込まれた。ギアナ様はいつでもあったかい。夏の暑い最中でも、不快にならない不思議なあったさかだ。

「リト、嬉しいよ、リト」

「え?」

 不自然な俺の反応に、ギアナ様は薄く笑っている。

「きちんと俺を伴侶として意識してくれてるんだろう?嬉しいよ、俺の可愛いリト」

「?!」

 あわ!あわわわ!!お、俺は今、どれくらい赤くなっているんでしょうか!!全身?!全身真っ赤っかでしょうか!!?
 口からだけがパクパク動いている。何を喋ったら良いか全然わからない!!

「本当は今すぐ押し倒して、リトの全てを食べてしまいたい。頭の上から足の先まで全て舐め回して、味わい尽くしたい。でも、今はしない。いいかな?」

「え、と。……」

「学園を卒業したら、結婚しよう。神殿で式をあげても良いし、仲間だけで祝っても良い。そして家族とくらそう。絶対に泣かせないから」

 俺は、思わず口から出ていた。ずっと心に引っかかっていた事を。

「でも!あの……俺……男です。こ、子供とか……産めません……」

 ずっとずっと思っていた。ギアナ様は大好きだ!ずっと一緒にいたい。でも、俺たちが結婚したら、ギアナ様の子供は永遠に生まれなくなってしまう。
……誰か別の人と?……そんなの嫌だ!

「リト。俺は子供は要らない。俺はお前の兄弟にすら嫉妬してしまうんだ。もし、お前に子供が出来たら、俺より赤ん坊の方にお前の関心は行くだろう?俺はそれが許せそうにない」

「ギアナ様……」

 そ、それはどうかな!?

「だから、俺に恐ろしい罪を犯させたくないなら……リト、子供を産もうなんて考えないでおくれ」

「ふ、ふふふ……ギアナさま、多分、頑張っても、おれ、赤ちゃんなんて……産めませんよ……」

 その言葉が、本心か作り事かなんてどうでも良かった。そこまで言ってくれるその心がとても、とても、あったかい。

「リト、リト。泣かないで。俺は早速お前を泣かせないと言う誓いを破ってしまうじゃないか」

「えへ……えへへ……ご、ごめん、なさ……う、ううっ、だってぇ……」

 俺はぎゅっとギアナ様に抱きついた。ずっと、ずっとこの人と一緒にいたい。力強く抱き返してくれる、この人と。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

生まれてすぐ劣等種と追放された俺が他国の王子の番として溺愛されて幸せになるまで

竜鳴躍
BL
レノは劣等種のヒト族。冒険者だ。唯一人の肉親である母親は、『戦女神(ワルキューレ)』の称号を持つ大剣使いの冒険者だったが、レノが12の春にドラゴン討伐に向かって帰ってこなかった。 レノには母ほどの剣才はなかったが、その代わり俊敏さと魔法の才能があった。魔法剣士としてその日暮らし、自由気ままに人生を謳歌していた時、黒いローブの男に拘束される。愛を囁きながら調教する男はいったい何者なのか。そして、その男は、レノの本当の出自を知っていたのだ。 【令和4年3月13日改題しました】

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...