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打倒!元実家!

87 ディライト家の没落3

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 ホリデーが終わり、もうそろそろ学園祭が始まる頃、それは酷くなっていた。

「パンは売り切れです」
「すいませーん、うちも売り切れです」
「ごめんねー野菜も全部なくって。」

 ディライト家の使用人は途方に暮れた。お金はあっても、物を売ってもらえないのだ。
 そしてひそひそと流れる噂。

「ねぇ、良いの?あの家に仕えてて……悪いけど、リリー商会に睨まれてるらしいじゃん」
「やっちゃったんだって?とっても大事な人に大怪我させて、殺しかけたって」
「お前たちみたいな下っ端なら、リリー商会は酷い事しないさ。しっかり仕事出来るなら、別の屋敷を紹介して貰えると思う」
「リリー商会は人材育成?ってのにも力を入れてるらしくて、孤児とかそんなのも使える人間にしてくれるんだ。そんな奴らよりもっと良い職場にいけるぜ?」
「ケーキ職人にもなれるんだってよ」

 1人、また1人とディライト家の使用人は姿を消す。


「お帰り下さい。おかしな言いがかりはやめて頂きたい」

 ジュディウス自らリリー商会に抗議をしに来ても、実務を担当していると言う白い虎の獣人に阻まれ、アマリリーに会う事は出来なかった。

「我がリリー商会が貴方様に何かをしましたか?証拠は?何もなしにいきなり飛び込んで大声をあげられても困ります。いくら貴族様とは言え、衛兵を呼ばせて頂きますよ?」

「貴様ーー!」

 脅しも何もかもこの獣人には効かない。その上

「公爵様とお聞きして、お話は伺いましたがただの暴徒であるなら、このギアナ、いつでも迎え撃ちます故。虎の獣人を甘く見ないでいただきたい」

 そして剣呑に瞳と牙を光らせる。

「個人的な恨みもございますからね……?私の伴侶を傷つけた事は生涯忘れませんよ?」

「な、な、な……」

 グルルル……低く唸る声を聞いて、ジュディウスは後ずさって逃げ出すしかなかった。


 使用人はどんどん逃げ出し、食料も買えず……ディライト家は王都の屋敷を出て、領地に帰るしか無くなった。

 売りに出された元ディライト家の豪奢なタウンハウスはすぐさまリリー商会に買い叩かれ……取り潰され更地にされてしまった。

「まだまだ恨みは晴れていないようだ……」

 過激とも言えるリリー商会のやり様に、人々はぶるりと身を震わせた。
 リリーが、というより白虎の獣人はそれはそれは怒っていると。

「ギアナ様、そこまでしなくても」

 豪華な屋敷が解体されてゆく様子を見ていたリトはそう言ったが

「まだまだこんなもんじゃ無いぞ?俺を怒らせると怖いんだからな?」

 にこにこと上機嫌で笑われて、言っていることとやっていることの差に笑ってしまう。

「ふふ!本当ですかー?」

 と、和やかに返す。やり過ぎだと思うけれども、自分を思ってやっているのかと思うとやっぱり嬉しいのだ。馴染みの商人のジーレンや、フォルター、レックスが見たら

「ドン引きー!」

 と、言うやつだ。とことんまで追い詰める手口になのか、リトにだけベロベロに甘い所なのか。その両方なのか?



「ミレイ……ジュディウス様と別れて戻ってきなさい……」

 侯爵家夫人のミレイ・ディライトが父親から手紙を受け取ったのは領地の汚れた屋敷で途方に暮れていた時だった。

「ディライト家は恐ろしい者を敵に回したんだ……お前が別れて戻るなら我が家には損害はないだろう。別れず戻るなら我が家も共倒れだ。良く考えるんだ、ミレイ」

 ミレイの実家も標的にされるかもしれない……。それでも、声をかけてやらなければならないほど、ディライト家は見る影も無くなっていた。

 



 
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