上 下
62 / 117
家族

62 ちょっと黙ってて!

しおりを挟む
「もう、売り出してんのか……っ!だが、販売経路が甘いッ!」

「あははは……で!ジョリーさん!詳しく!」

 ぐるるるると低く唸るギアナ様を横目に俺は行商人の兄ちゃんこと、ジョリーさんにおかわりのりんごパンとりんごジュースを差し出した。

「おお!りんごセット!美味いっ!売れる!」

「売ろう!」

「ちょっとギアナ様黙ってて!」

 話を聞かせて!

 俺がカレン達と別れたすぐ後に、ジョリーさんはカレン達と出会ったようだ。

「りんごパン兄弟!」

「よっぽどだったんですねぇ」

 馬車で移動した事、人攫いに追われた事。

「王子の騎士さんが助けてくれたんだぜ!そんでほら、見てくれ!」

 ジョリーさんは首から大事に下げている札を出した。

「じゃーん!ウィシュバーグ王国から出してる特別商売許可証だ!これがあるからこっちまで足を伸ばすのも楽々だし、信用度も高いし!いやーあの王子様良いもんくれたぜー」

「おお!それは俺も羨ましいな!」

 俺に叱られて耳と尻尾を垂れていたギアナ様は目を輝かせた。

「だろーだろー!商人なら誰もが欲しがる奴だからなー!しかもウィシュバーグのやつは保護魔法もかかってるから、本人以外使えねえ!」

「分かるぜ!他の国とは信用度が違うんだよな!俺も欲しいな!」

 ジョリーさんの許可証を見ると、ジョリーさんの顔まで載ってる。高度な魔法が組み込まれているんだって。
 専門外だから、さっぱり分からなかった!

「ちょびっと怖い目にあったけど、やっぱり人は助けとくもんだなって思ったよ。礼金ももらって、年取ったかーちゃんもルシリア領に連れて来たし、家もある!はー!これもお前たちのおかげだ!」

 りんごパン3個目に突入しながら、ジョリーさんは笑顔でいっぱいだ。

「ジョリーさん、本当にありがとうございました。あなたがいてくれてカレン達は心強かったと思います」

「おう!これもりんごパンのお導きだな!お前のかーちゃんは最高のりんごパン職人だな!」

 あはは!この人、本当にりんごパン好きだなぁ!
 ……神様、ありがとう。きっとこの人をカレン達に会わせてくれたのは、神様でしょう?良かった、本当に良かった!

 俺達は検問を何事も無く通過し、リザの街へ入っていった。



「は?リト、もう一回言ってみろ!!」

 めちゃくちゃ怖い顔で上からギアナ様に睨まれた。怖い怖いよぉ……!

「だ、だから……そっちの小麦は麺類用だから、向こうのもうちょっと白いパン用のと、あっちのもっと白いケーキ用を買いましょうって……」

「小麦に種類ってあんのか!!!」

 あるって書いてあったよぉーーー!ジョリーさんや粉挽き所の人たちも驚いた顔で見ている。


 俺は商人魂が火どころか燃え盛ってしまったギアナ様に詰め寄られていた。

「後なんだ!なんで皮ごと引くんだ!せっかくきれいな白い小麦が出来んのに!きたねぇだろうよ!」

「そ、それは……全粒粉っていう……」

 あわ、あわわわ……どうしよう!俺、なんかまずい事言った?!



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

激レア能力の所持がバレたら監禁なので、バレないように生きたいと思います

森野いつき
BL
■BL大賞に応募中。よかったら投票お願いします。 突然異世界へ転移した20代社畜の鈴木晶馬(すずき しょうま)は、転移先でダンジョンの攻略を余儀なくされる。 戸惑いながらも、鈴木は無理ゲーダンジョンを運良く攻略し、報酬として能力をいくつか手に入れる。 しかし手に入れた能力のひとつは、世界が求めているとんでもない能力のひとつだった。 ・総愛され気味 ・誰endになるか言及できません。 ・どんでん返し系かも ・甘いえろはない(後半)

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

兄上の五番目の花嫁に選ばれたので尻を差し出します

月歌(ツキウタ)
BL
今日は魔王である兄上が、花嫁たちを選ぶ日。魔樹の華鏡に次々と美しい女性が映し出される。選ばれたのは五人。だけど、そのなかに僕の姿があるのだけれど・・何事? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

処理中です...