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20 逃げたカレン達は

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時間は前後しーーー


 私達は物陰に隠れた。リト兄様が山の方に逃げる。

「ガキ共、ばらけたぞ!」

「指輪の1番でかい奴だ!あいつを追え!後はどうせ遠くに逃げられない!」

 追手5人は全員リト兄様の方に走り去った。

「馬車……辻馬車よ!」

 この街に着いた時、降りた辻馬車乗り場に急ぐ。2人を連れて、乗ってきた馬車が元の街にどもる帰りの便に乗れば良い!

 カレンはキョロキョロと辺りを見回す。いく先の表示はどこ?!追手は?!?!

 カレンの気持ちは焦るばかり、風景は溶けて流れ、吐き気がする。

「おねえ!あの人、馬車で一緒だった!」

「おねえ!あの人荷物が無くなってる!」

 見た事は……ある!りんごパンを一気食いして喉に詰まらせた行商人だ。彼は街に物を売り歩き、売り切ると戻る生活をしていると言った。
 つまり、荷物がない行商人は帰るのだ!

「お、おじさん!おじさんはどの馬車にのるんですか?!」

 カレンは勇気を振り絞って話しかけた。

「りんごパン兄弟?少なくないか?」

 行商人も覚えてくれていた。


 無事に馬車に乗る事が出来た。馬車の隅に固まって体を寄せ合う。

これからどうしたら?
これからどうなる?
リト兄様はどうなった?
お母様とリンは?
この馬車は本当に着くの?
お爺ちゃまの家は本当にあるの?
そこまで私達はつけるの?

怖い 泣いちゃ駄目
怖い 泣いちゃ駄目

弟達は私が守らなきゃ!上の子が下の子を守るのが家なのよ。だからリト兄様は私達を逃す為に、あの男達を引きつけて山のほうに走って行ったの。

リト!リト兄様!無事でいて!

 それでも嫌な想像はどんどん湧いて来る。5人も大人がいた。みんな剣を持っていた。怖い怖い怖いよ

「母さん……父さん……!」

 カレンは小さく呟いた。



 子供達は皆、黙って小さくなって座っていた。来た時とは別人だなと行商人は思う。それが一番賢い。何せ家族が半分になっていて、保護者が消えている。
 今は良い。馬車の中だ。次の街についたら……多分狙われる。
 何せこの子供達は見た目が凄く良い。これだけきれいな子供達だ。奴隷にしても貴族に売ってもかなりの金になるだろう。

 面倒くさい。

だが、この子供達から貰ったパンは美味かったなぁ……。

「なあなあ、あのパンまだある?お前のかーちゃんが焼いた奴」

 めんどくせぇが俺は首を突っ込んだ。だってあのパンは美味かったんだ。柔らかくてふわふわしていて良い匂い。
 あの美人なかーちゃんが子供達に食べさせる為に心を込めて焼いたんだろう。
 そんな優しくてあったかいパン。

「あ、あります……」

 小さな肩掛け鞄から、ふわっと大きなパンが出てきた。それそれ。

「俺がそれ好きなの知ってるだろ?

「!!!」

 お嬢ちゃんは目をまん丸にしてから、くしゃっと泣きそうな顔をした。

「か、母さんは……おじさんに、渡したら、全部すぐ食べちゃう、からって……」

 言葉を選びながら、俺の顔を見ながら、口を開いた。信じて良いのか、どうなのか伺っているようにも見える。なかなか賢い子供だ。
 俺はお嬢ちゃんはの頭をワシワシと撫でた。

「姉さんに似てきたなぁ?ハナン?」

「?!か、カレンよ、おじさん!ちゃんと名前覚えてよね」

 わりぃわりぃ。俺はパンにむしゃっとかぶりつく。うめー!

「お前らには硬い干し肉をあげよう」

 ほら、と手に持たせる。3人とも受け取ってもぐもぐとかじり続ける。干し肉食ってれば、何も喋らなくても当たり前だからな。

 喋るとボロが出ちまう。

 俺たちは無言のまま次の街まで進む。しゃーねーから、俺が贔屓にしている安宿も紹介してやろう。ついでに明日もりんごパンをせしめる為にまた同じ馬車に乗ってやろう。

 気がつくとりんごパンは俺の胃袋に消えていた。やっぱりもっとくいてぇなあ!






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