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3 黒の勇者

16 賞味期限は突然に

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 それは突然終わりを迎えた。

「浮気ですかっ?!この……この……!裏切り者ッ!出て行ってくださいっ!もう2度と顔も見たくないッ!」

「アーサー?!アーサー!!どうして!ねえ!聞いてください!アーサー!」

「うるさいっ!出て行けッ!」

パティスリー・ブランシェールの裏口から、押し出される。鼻先でバタンっと無情に扉は締められ、中から鍵をかける音が冷たく聞こえた。

「アーサー!ねえ!アーサー!お願い!ここを開けて!開けてよ!アーサー!」

 空はそれまで快晴だった。しかし雨雲があっという間に沸き起こり、太陽は姿を見る見る失う。青空は見る間に厚い黒雲に覆われ、不穏な音がしてくる。

「アーサー!私は?私は……開けて、アーサー……!」

 カッ!と空に稲光が走り、叩きつけるような雨が辺り一面を白く染めた。

「アーサー!あーさー……うわあああん!!!」

 扉の前で泣いている声は雨音にかき消されていたが、泣いている。
 ますます激しさを増す雨粒に轟く雷鳴が拍車をかける。

 黒雲は減る事なく増え続け、痛いほどの土砂降りに、川の水は茶色く増水し始めた。
 家々の屋根に穴を穿つが如く振る雨の中を傘どころか靴も履かずに、青年は歩いていた。
 いくら叩いても開かないドアから離れて、街の中央を空に顔を向けて歩いている。

「うわああああん!!」

 泣いていた。涙は雨粒と同化せずにコロコロと転がり落ちた。慟哭は雷に全て包まれて、誰の耳にも届かない。

 しかし、黒い長い髪を雨に濡らして、真っ赤な瞳を更に赤くして彼は泣いていた。

 一際激しく、稲光が走り近くの森に落ちる。雨より激しく炎が吹き上がり、森に火がついた。
 急激に水分を含みすぎたせいで崖が崩れる。川は更に水嵩が増し許容量を越えようとしている。

「うわああああーーん!アーサー!アーサー!」

 大地はもう雨を吸えぬと表面に溢れさせ、歩く青年の膝まで水は来ている。

「どうしてーー!どうしてなのーーー!」

 雨はより一層激しさを増していた。

 


 
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