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第2章

28.ダンジョン攻略には準備が大事です

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 そういえばこの世界に来てから、ダンジョンって初めて聞いたかもしれないな。有るだろうとは思っていたけど、実際にダンジョン探索依頼って見ると、う~ん冒険者っぽい!

「王都からは少し離れているんだけど、馬で二日くらいの場所にね、ダンジョンがあるのよ。そこの探索が遅々として進まないからお願いできないかしら?」

「新しく見つかったダンジョンなんですか?」

「いいえ、ワタシが生まれる前からあるわね」

「そんなに昔からあって終わらないんですか?」

「……今気になる言い方をしたけどまあいいわ。結構深いのよ。昔の戦争時に作られたらしいんだけどね、使われなくなって暫くしたらモンスターが住み着いちゃったの。地下十階以上あるらしい上に地図も紛失したようで、構造も分からないのよ」

 地下施設でも作ってたのかな。にしても地下十階以上あるのか、それは確かに大変そうだ。

 そうなるとマッピングしながら進まないと迷うな。トレジャーハントキャラのディータで進んだ方が良いかもしれない。あいつなら魔法を一通り使えるし、危なくなったら潜伏スキルで隠れればいい。

「探索はどこまで進んでいますか?」

「現在は地下六階まで進んでいるわ」

「地図はできていますか?」

「信頼できるのは三階までね。それより下になると完全じゃないの」

「では地図の作製も?」

「そっちは可能な範囲でかまわないわ。優先するのはダンジョンの情報よ」

 とはいえ無いと俺が困るからな、七階以降は地図を作りながらになるだろう。でもそうなると少し準備に時間がかかるな。

「少し準備に時間が掛かるので、数日待ってもらってかまいませんか?」

「ええ、かまわないわよ」

 しかし最大の懸念材料がある。リアを一人にしてしまうな。
 そんな俺の不安を読んでいたかのようにオネエが提案をしてきた。

「探索の間はアセリアちゃんはギルドで預かるわ。ここならいつでも開いているし、常駐の冒険者もいるから」

 常駐の冒険者ってのがいるのか。初めて知った。
 リアに確認をしよう。

「探索には時間が掛かると思うけど、リア、その間ギルドで待っててくれる?」

「うん。早く帰って来てね」

 コクリと首を縦に振る。

「じゃあそれでお願いします」

「ありがと、それじゃあこっちは部屋の準備をしておくから、行く時には言って頂戴」

「わかりました」



― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



 ギルドを出て宿の部屋へと戻ってきた。

「ごめんねリア、また暫く会えなくなっちゃった」

「ううん、しかたがないよ。でもどのくらいかかるの?」

「正直わからないんだ。長い年月かけても六階までしか進まないダンジョンを攻略するのなら、早ければ十日、遅ければ予想が付かないくらいに……」

「そう、そんなにかかるんだ……」

 流石に長期間も会えなくなるのは苦しい。でもダンジョンは放置しておくと、どんな事が起こるのか想像ができない。モンスターがあふれて街に来るならいいが、高い知性を持つモンスターが住み着いた場合は,長期間の戦争に発展する場合もある。

 今は定期的に調査をしている様だから大丈夫だろう。しかし最深部の状況が分からないのは不安でしかない。

 リアが俺の首にしがみ付き、五分ほどで離れた。

「うん! じゃあしっかり準備をして、出発までに沢山ユーさん成分を補充しておくね!」

 ああんもう! 小さくして連れて行きたい!



「じゃあ準備のために、しずかに交代するね」



― ― ―



「ウェルカムしずかさん!」

「おはようございます、リア」

 リアの目の前でチェンジするのは何度目でしょう。

 ブラスティーと戦った翌日、リアに一通りの説明をするために、目の前でキャラチェンジをしました。異世界から来た事も話しましたので、こうして目の前でチェンジする事も可能となりました。正直最初は怖かったです。

 多重人格どころの話しではなく、性別や背格好すべてが違うので、怖がられるのではないかと不安でした。ですがリアは受け入れてくれました。ルリ子はちょっと怖いらしいのですが、他のキャラ、特にしずかとディータはお気に入りの様です。

 リアいわく、ルリ子は自由奔放な長女、しずかはしっかり者の次女、メイアは物静かな三女、ディータは元気な末っ子、番長は人情味あふれるお兄さん、らしいです。

 リアと正面から両手をパチンと合わせた後、腕を組んで鍛冶屋へと向かいます。
 ルリ子と番長以外は大体腕を組んで歩いていますね。

 最近は私の偽物が出る事も無くなり平和です。
 私の仕事を見た鍛冶職人が真似をして大量発生したようですが、王宮から呼ばれることも無くなったので真似をする必要が無いのでしょう。

「おはようございます親方さん。今日もお借りして良いですか?」

 王都でお世話になっている鍛冶屋さんに到着しました。鍛冶仕事はここがメインです。

「おうおはようさん。今日はアセリアちゃんも一緒かい」

「おはようございます。今日も見学要員としてがんばります!」

 リアもすっかり親方さんと仲良しになりました。
 ちなみに大工、細工、裁縫、錬金術で、それぞれお世話になっているお店の店長さんともリアは仲良しです。

 さて、今日はブラスティーからもらったアダマタイトの調査です。
 これの加工が可能ならば装備品の飛躍的な品質向上が見込めますので気合いが入ります。

 まずは火バサミで固定して金槌で叩いてみます。とても甲高い音がしますがビクともしません。今度は力いっぱい叩きましたが全く変形しません。

「これは想像以上の硬度ですね」

「なんだか凄い音がしたよ?」

「ええ、こんなに力の限り叩いたのは久しぶりです」

「それっていい事なの?」

「モノとしては良いですね。加工できなければダメですが」

「なんだか楽しそうしずかさん」

 楽しい……確かにそうかもしれません。未知の材料を触れるなんてめったにある事ではありませんしね。どうやって何を作ろうかと考えるとドキドキします。

「ふふふ、これは長丁場になりそうですね」



 その後、丸一日かけて金槌の頭を三つ消耗し、アダマタイトを金槌の頭に加工する事に成功しました。これでアダマタイトの加工が楽になるでしょう。

「うん、なんとかなりましたね」

「しずかさんのあんな真剣な顔、初めてみた」

 今日はこれ以上作業はできません。なのでブラスティーの所に行ってアダマタイトを沢山もらってきましょう。明日はディータ用にナイフを一本鍛えますか。

 大きな袋一杯のアダマタイトを背負い、夕食を食べにお店に入りました。

 アダマタイト自体は沢山あるようなのですが、加工できる人が居なかったため宝の持ち腐れだったようです。この世界は精錬技術を上げる事の方が先でしょうね。

 食事をリアと食べ、宿の部屋に戻ってユグドラへと戻ります。



― ― ―



「おかえりなさい!」

「ただいま」

 記憶が残ったままの別人。ロールプレイングをしていると,本当に別人になってしまうのでそう説明している。だからリアと過ごしたしずかの記憶は残っている。

 もちろんしずかで一緒に過ごすのは楽しいが、やはりユグドラとして一緒に居たい。

 しずかでいる時はリアに抱き付きたいと思わなかったが、ユグドラになったとたんに抱きしめたくなる。俺は本当に多重人格なのかもしれない。

「リア成分を補充してっと」

 抱きしめたくなったら抱きしめればいいじゃない。

「ぎゅ~」

「ぎゅ~」

 よし落ち着いた。今日は寝て明日からは本格的に準備をしよう。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



 今日も朝からしずかで準備です。

 アダマタイトの加工はかなりコツを掴めてきたので、ティータに渡すナイフも作れました。これが素晴らしい出来で、岩を簡単に切り裂いてしまうほど硬くて壊れません。ブラスティーの両手剣と鎧を作ったらユグドラの斧と鎧も作りましょう。

 その後は錬金術ギルドでポーションの製作です。

 王都で初めて他の錬金術師と会いましたが、やはりポーションの質は悪く、いわゆる初心者向けポーションしかありませんでした。なので,試行錯誤してなんとか納得のいく回復ポーションが作れた時は、声を上げて喜んでしまいました。

 とりあえず今日は、回復ポーションとマジックポーション、解毒剤や爆弾も少々、ダンジョン探索なので夜目が利く目薬も作りました。松明たいまつでこちらが発見されるのは避けたいですからね。

 後はマッピング用のノートですね。いわゆる大学ノートですが、魔力で地図が浮かび上がるようになっており、拡大縮小が可能で、拡大した時には詳細が見れる優れものです。操作方法はタブレットやスマホに近いでしょうか。

 最近考えたグッズで、迷彩寝袋めいさいねぶくろを作ってみました。背景に溶け込んで見えなくなるので、仮眠時も安心できればいいな?的な。実験的な装備ですね。

 こんなものでしょうか。ディータの装備は大丈夫ですし、持っていく物も作りました。食事はいつもの如ごとく少量持って行って後は現地調達です。

 明日はユグドラでギルドへ向かいましょう。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



「あらおはよう。今日出発するのかしら?」

「ええ、準備も出来ましたのでダンジョンへ向かいます」

 ダンジョンの話しを聞いてから数日後、ディータ用の装備やアイテムの準備が出来たので、ユグドラでギルドに顔を出した。

 あくまでも依頼を受けるのはユグドラだ。ディータはギルドに登録しないつもりだ。

「それじゃあアセリアちゃんはしっかり預かるわね」

「しばらくお世話になります」

「リアの事、よろしくお願いします」

「任せてちょうだい」

 リアは宿から持ってきた荷物だけなので身軽だ。出発前にキスをしとこう

「出来るだけ早く帰ってくるよ」

「慌てずに危険は避けて帰って来てね」

「ああ、いってくる」

「いってらっしゃい」



― ― ―



 王都オンディーナを出て森に入る。
 ストーンに記録してある場所に到着し、すぐにルリ子にキャラチェンジをし、飛龍でダンジョンへ飛んだ。少しでも時間を短縮しよう。

 ダンジョンを探しながらなので流石にに数時間掛かったが、都合が良い事に山の奥深くにあるので人目も無く、早速トレジャーハントキャラ・ディータにチェンジしてダンジョン入り口周辺を探索した。



― ― ―



「ふ~ん、典型的な人工洞窟って感じ。一応扉はあるけど朽ち果ててるし。でも随分入り口が小さいな~、軍事施設かと思ってたけど違うとか?」

 イヤリングを指で触りながら入り口を見てるけど、思ってたのと違うな~。

 肩より長い金髪を左右で少しだけまとめ、アクセサリーを多数つけてカラフルな衣装を着ている。
 おおよそトレジャーハントに相応しくないギャル系のキャラ、それが私。

 フツーは大きな軍事施設なら、入り口を大きくして兵隊さんや物資の搬入がし易いようになってるけど、ここの入り口は普通だな~。
 まあ行けばわかるっしょ!

「おっじゃまっしま~っす!」

 やったね! 初! ダンジョン! 攻略! 開始! だね!
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