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15.アグレス炎上

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 煙が数本見える。
 街に火の手が上がったのか?少しして街が見えてきた。
 壁は破壊されていないが、門が破られて街の中にモンスターが入り込んでいるようだ。
 しかも門の外にはまだまだ沢山のモンスターがウヨウヨしている。

「なんなんだいこの数は!」

 まずは外のホコリをはらわないとキリがないねぇ。

 アタシは大声で叫んだ。

「門の外にいる冒険者ども!灰になりたくなかったら今すぐ頭を抱えて伏せろ!!!」

 ドラゴンにブレスを吐かせると外にいるゴミは一掃出来た。
 よし、流石に街の中にドラゴンは入れないから外に待機させて、残党が居たら倒させよう。

 飛龍で街の中に入り、同時にメアを呼び寄せギルドへ向かう。
 この二頭なら狭い街中でも戦える。
 街中は酷いもんだ、家が沢山燃えている。ギルドに着いた。

「アル!アル!どこだい!」

 すでに扉は無くなり中は荒らされている。人影は……ない。

「アルー!」

「あ、あんたは……まえに助けてくれた……魔法使いか」

 瓦礫の中から声がしたが……少し離れた所の瓦礫が動いているねぇ。
 取りあえず死にぞこないがいた様だ。
 中には見た事のあるハゲ頭があった。ん~?光具合に覚えがあるね。まあいい。

「おいアルはどこだ」

「冒険者は……街中で戦っている。ゲホ。アルシエルは戦えない、から、避難している……はずだ」

「避難所はどこなんだい?」

「街の中心近く……に何か所かある。どこかに、いる、はずだ」

 中心部か。仕方がないね、飛龍を先に中心に行かせてゴミを減らしてもらおう。

「これ恵んでやるよ。飲んどきな」

 ポーションの入った細長い小瓶の栓を開けて口の中に放り込んでやった。
 飛龍を先に中心へ飛ばせてアタシはメアでゴミクズをきながら進むが、中心に近づくほどゴミの数が減っていく。
 どうやらヘタレ共は仕事をしている様だねぇ。
 飛龍もゴミ掃除より空からの警戒が主になっている。

「お姉様!おねえさまー!」

 この声は……アル!

「お姉様いらっしゃいますかー!」

「アル!ここだよ!アタシはここに居るよ!」

 飛龍が着地した。あそこか?
 角を数回曲がり飛龍が見えた。足元には……アル!

「アル!」

「お姉様!」

 メアから降りるとアルが胸に飛び込んでくる。
 アタシも力強く抱きしめたやった。

「アル……よかった」

「お姉様、おねぇさま~。怖かった、私っわたし」

 安心して泣きじゃくってるよこの子は。
 頭を撫でてやり、近くの階段に座らせる。

「アル、一体何があったんだい?」

 そう言いながらアルの体を確認する。
 足や腕に切り傷があるが顔はススで汚れているだけだった。
 ヒールを掛けながら話を聞く。

「朝になって、門番から警戒の鐘が鳴ったんです。冒険者や戦える人を招集して周辺を調べたら、千匹近いのモンスターが目前まで迫っていました。門を閉めて防衛に徹したんですが……破られてしまって……」

「モンスター共はどこから来たか分かるかい?」

「いえ。山や森の中は定期的に調査していますし、他からも出現情報は出ていませんでした。今までこんな事は無かったのに」

「飛龍、メア、お前たちはモンスターを掃除しておいで」

 一鳴きして二頭は走って行った。

「アル、この近くで一番広い場所はどこだい?」

「ここからですとマツモンジ男爵の邸宅です」

 アルに案内されると小さな街にはふさわしくない、広い敷地と城かと思うほどの建物があった。

「街の規模に合わない大きさだねぇ」

「はい……あまり評判の良くない貴族です……」

 そりゃそうだろうねぇ、この騒ぎだってーのに鉄の門を閉じて衛兵を多数配置して、自分を守る事しか考えちゃいない。

「おい、クソムシをだせ」

「何者も通すなと言われている。立ち去れ」

「そうかい。じゃあ立ち去りな」

 衛兵の足元にでかい火花を散らせて門から遠ざける。
 門には鍵がかかっているねぇ。アンロック。
 数か所に鍵がかかっていたようで何回か金属音がした。重い金属の両扉を押して開ける。

「ここに住民を非難させよう。アル、避難所を順番に回るよ」

「はいお姉様。一番近いのはこちらです」

 三つ目の避難所から誘導してきたら門が閉められていた。
 アンロックで開けて入ろうとするが開かない。おかしいね、鍵は開けたはずだが、まさか。
 門の中にテレポートすると、門の前には大きな石が置かれていた。はぁん、くっだらない。

「エネルギー・ボルト」

 石を粉々に砕いて門を開けて中に避難させる。うん、この広さなら問題ないだろう。

「ゲート」

 ドラゴンを一頭ゲートから呼び出した。
 無駄に広いからドラゴンも平気で入れるねぇ。気に入った、今度からここで遊ばせよう。

「門番をたのむよ。アル、次だ」

 避難所は全部で十か所あったが全員敷地内へ入れた。
 最強の門番も居る事だし、空を飛ぶ敵がいても問題ない。ここが一番安全になったね。

「アル、アタシは憂さ晴らしをしてくる。この子が居れば問題ないね?」

「お姉様……お気をつけて」

 どうやら少し心細かったようだねぇ。
 でも我慢しておくれ、イライラしているんだ。

 街を歩きながらミジンコを探す。
 ニャーとかガウガウとか声を出す珍しいミジンコだねぇ、しかも随分と無駄にデカい。
 見つけ次第問答無用で魔法をぶち込んでやる。

 燃やして切り刻んで凍らせて爆発させて潰して窒息させて毒入れて感電させて埋めて発狂させて。

 気が晴れないねぇ。

 アルを怖い目にあわせて怪我をさせた張本人はどこにいるのかねぇ。どうせこの場には居ないんだろうし、どこかで高みの見物かねぇ。逃げ切れると思うなよ。

 メアと飛龍が私の所に戻ってきた。
 おや?どうしたんだろう……ん?そういえば随分と静かになっているね。

 どうやらゴミ掃除はあらかた終わったようで、アタシの周辺にはモンスターは居なくなっていた。
 メアにまたがり門へと向かうと生き残った門番や冒険者が瓦礫の片づけをしている。

 どうやら完全に終わった様だねぇ。
 ならアル達を自由にして大丈夫だろう。一応飛龍には空で警戒してもらおう。

 広場に戻ると衛兵が居なくなっていた。
 おいおい、まさか街を捨てて逃げたのか?て事はウンコ男爵も居ないのか?

 まあ居ても役に立たないだろうから……ん?これから人手が必要になるんだったねぇゴミでも街の片づけ要員として使えただろう。まあそれはアタシが考える事じゃないね。

「アル、終わったようだ。もう大丈夫だね」

「お疲れ様ですお姉様!」

 避難民と話をしていたアルが駆け寄ってきた。

「街を救っていただいてありがとうございます。本当になんとお礼を言ったらいいか」

「気にしなくていいよ。アルが無事ならそれでいい」

 アルの顔に付いたススを袖で拭いてきれいにした。

「お姉様……服が汚れてしまいまっ……」

 おしゃべりな口を人差し指でふさぐ。

「また暫く出かけるよ。貴族は役に立たないから、自分たちでしっかり街を守るんだよ」

「はいお姉様……行ってらっしゃいませ」

 ドラゴン達をゲートで戻してメアで街から出て行った。

 一体なにが起こっているんだろうねぇ。アタシがこの世界に来た事が影響しているのか、元々そういう傾向にあった世界にアタシが呼ばれたのか。

 どっちにしても面倒なことになりそうだよ。 

 街が見えなくなる場所まで来て森の中に入った。
 森の中を街道から全く見えない場所まで来て、バッグからルーン文字が書かれた小さな石をから取り出す。小石に魔力を込めて位置情報を記憶させる。

 小石はリコールブックに埋め込むことで次からはこの場所にゲートを出したり、個人用の移動魔法・リコールで一瞬で移動が出来るようになる。

 ゲートは誰かが出せば行き来は自由だが発動に時間がかかるうえ魔力の消費が大きい。
 リコールは一人用だが発動が早く魔力消費も少ない。

 さて、ユグドラに変更してエリクセンに戻るとしようかね。

― ― ―

 リコールでエリクセン近くの森の中に到着した。
 ここも街が見えない距離で街道からも離れている。

 アグレスもそうだったけど、馬で走って十分くらいの場所だ。

 空を見るとすでに夕焼けでオレンジ色に染まっている。
 遭難冒険者を探して街で戦って……思ったほど時間が過ぎていなかったな。
 冒険者は見つかりませんでした、という感じでギルドに行こう。

「ただいま戻りました。アニタさん、残念ですが冒険者は……」

「おかえりなさいユグドラさん。帰ってきて早々で申し訳ありませんが、アグレスの街へ向かってください」

 ああ、まだ街が襲われている情報のままだったんだね。とはいえ俺が街はもう大丈夫です、という訳にもいかないし……うーん。

「えーっと、遭難した冒険者はもういいんですか?」

「冒険者の救出は無事完了しました。その冒険者から、アグレスの街にモンスターの大群が向かっていると情報が入りました」

 何やってんだとっとと行けよ!というアニタさんの無言のプレッシャーが重い。

「あの、昼飯抜きで動き回っていたので、食事を取ってからでもいいですか?」

「イチャつかず、迅速に栄養補給して向かってください」

「……ひゃい」
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