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第7章 改変された世界

第341話 人技夢想《じんぎむそう》

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「シュウトさん、部屋にこもって2日目ですね」

「何やら切っ掛けを掴まれたようなので、成果が出るまで出てこないかもしれませんね!」

 キャロライン王女バーバラ聖女が甲板で海を眺めている。
 修斗との旅なので、もっとイチャイチャできると思っていたが、実際は全くイチャつけていない。
 少々不満はあるが、それでも修斗のお世話を出来るのが嬉しいようだ。

「あ! 何かいますね!」

「え? 何かって、何?」

 海の遥か遠くに、何やら白波しらなみが船を目指して進んでくる。
 遠くにいたにもかかわらず、白波はあっという間に船の間近まで接近し、今まさに接触しようとしている。

「乗客の皆さんは船室に戻ってください! 戦闘員は甲板にて迎撃態勢を取れ!」

 船員の大きな声が聞えて来る。
 どうやら魔物のようだ。
 甲板には武器を持った船乗りや冒険者らしき者が出そろい、魔物を迎え撃とうとしている。

「私達も中に入りましょうか」

「そうですね! 危なくなったら手を貸しましょう!」

 2人は自室ではなく食堂に向かい、大きな窓から戦闘の様子を観察している。
 船乗りたちも冒険者も慣れているようで、魔法使いや飛び道具を持っている者がほとんどだ。

「ハッハッハッハ! 僕の剣の錆にしてやるぞ!」

 などと剣を構えている馬鹿者も居るが、接近戦になった際の最後の砦にはなるだろう。
 長く大きな白波から何かが見えて来た。
 硬い鱗のようにも見えるが、鋭い背びれにも見える盛り上がりだ。

 白波が船の横っ腹に向けて突き進む。
 船乗りと冒険者達は魔法や矢を撃ち始めると、いくつかが命中し、衝突前に鱗の背中は水中に潜って隠れた。
 船の反対側に回るが、すでにその姿は見えない程深くまで潜ったようだ。

「全方位警戒! 現れたらすぐに攻撃を開始しろ!」

 戦闘のリーダーらしき人物の声が船上に響き渡る。
 戦闘員たちは海面を凝視し、魔物の襲撃に備えるのだが、相手が少し上手だった。
 船の真下から急上昇してきたのだ。

 船に大きな衝撃が走り、上下左右に何度も振られ倒れそうになる。
 船員も数名海に投げ出されてしまったようだ。

「クソッ! 船底を確認しろ! あいつはどこだ!!」

 船はゆっくりと沈みだし、海中の何かはそれをあざ笑うように海面に姿を現した。
 
「シーサーペントか! 25~30メートルもある大物……乗客の退避準備をしておけ!」

 ウミヘビと言われたら可愛く聞こえるが、今目の前に居るのは海の龍と言った方が良い大きさだ。
 青緑のヌメリのある硬い鱗に覆われて、体当たりするだけでも船は破壊されてしまう。

 シーサーペントは船の周りを距離を取って泳ぎ、一度潜ったかと思うと海面から顔を出し、真正面から突っ込んでくる。

「攻撃の手を休めるな! 合図をしたら何かにつかまれ」

 戦闘員たちが船首に立ち攻撃を開始する。
 しかしあまり効果が無いのかシーサーペントの勢いは止まらない。

「クッ! 何かに掴まれー!」

 合図とともに全員が姿勢を低くし、ロープや帆柱マストに掴まる。
 ……しかしいつまで経っても衝撃が来ない。

「潜った?」
「逃げた?」

 そんな声が聞こえてくるが、立ち上がった戦闘員たちは目を疑った。
 船が宙に浮いていたのだ。

「「「な、なんだこりゃーー!!」」」

 さっきとは違う意味で何かにしがみ付き、落ちないようにする戦闘員たち。

「キャロラインさん! 何かしましたか!?」

「いいえ。あなたでもないのね?」

「はい! となると、こんな事が出来るのはあの方しかいませんね!」

「飛翔魔法の応用かしら。でもこんな大きな船まで浮かせるなんて、流石はシュウトさんね」

 修斗は部屋に籠り、やっと完成させた理論を試しただけだった。
 神界天技しんかいてんぎの発動には生活魔法から流れ出る天技力てんぎりょくが必要、しかしそれが極わずかしか無かったため、神界天技しんかいてんぎの残りカスと思われたMPマジックポイントを利用したのだ。

MP残りカスをかき集めて凝縮し、何とか疑似的な天技力てんぎりょくになったか。それにしても疲れるな、こんな小舟を持ち上げるだけでこんなに疲れるのか」

 疲れると言っているが、その顔は特に……いや額から汗が一筋流れ落ちた。
 今の修斗が汗を流すなど、国を滅ぼしても起きない事だ。

「ん? 何かがくっ付いているな。なんだ? ヘビか? あの2人に回収させよう」

 船に体当たりしようとしたシーサーペントが船底にくっついているようで、船と一緒に持ち上げられたようだ。
 
「そういえばあいつらはどこだ?」

 船を持ち上げたまま、修斗は部屋を出て探しに行く。
 
「シュウトさん!」

「シュウト様!」

 丁度部屋に戻ってこようとした2人と廊下で出会い、今の状況を説明させた。

「そうか。なら今のうちに修理をさせろ。沈まなければいいだろう。ヘビは金になるだと? なるのなら生きたまま向こうの陸地に運ぼう」

 それを船員に伝えるのだが、実はかなり高度が上がっているらしく、修理をしようにも怖くてできないのだ。
 なので海面から数メートルの高さまで降り、応急修理を開始した。

 その間も修斗は疑似ぎじ神界天技しんかいてんぎの練習の為、大陸に向けて船を進めていた。

神界天技しんかいてんぎでは無いからな、名前を付けよう。そうだな……人技夢想じんぎむそうとでも名付けるか」
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