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第5章 世界大戦

第209話 クモの糸

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 ヴァージニアの体に沢山の線が入り、それに沿って体から血を吹き出す。
 何らかの防御をしたようで、背後の建物は崩壊したが、ヴァージニア自身は何とか身動きが取れるようだ。

「う……見えなかった」

「がっがっがっが! あれを食らっても生きていたか。ヴァージニアよ、お前は本当に強いな」

 クンビーラがのそのそと近づき、剣をヴァージニアに向ける。
 体中から血を流し、倒れそうなのを必死でこらえているのだが、短剣の構えだけは解かなかった。

「小さな体でその力、惜しいな……俺の部下になるか?」

「誰が……なるか。お前みたいな脳みそまで筋肉な男……気持ち悪い」

「がっがっがっが! フラれてしまったな。なら仕方がない、おしゃべりも人生も終わりにしてやろう」

 剣を大きく振りかぶり、力の限り振り下ろした!
 その剣は頭上で止まり、ヴァージニアには命中していなかった。

「ぬ!? なんだ、なぜ腕が振り下ろせない!?」

「腕だけじゃない……他の部分も動かせない」

「なんだと!? こ、これは一体!?!?」

 腕だけでなく、首も、足も、胴体も動かせない様だ。
 必死に体を動かそうとしているが、多少揺れるだけでそれ以上は動いていない。

「わざわざ追いかけてきて……バカ? 罠を仕掛けた場所に……のこのこ付いてきて」

「罠? 罠を仕掛けてあったのか!」

「そう、暗がりで見えないように……細い細いヒュージスパイダーの糸を」

 粘着性のある糸が張り巡らされ、それに触れたら動けなくなるようにしていたようだ。
 住民はすでに退避しており、警備のルートからも外れているため罠を仕掛けられたのだろう。
 建物間に糸を張り巡らせるのは、直ぐに出来るモノではない。

「ふん! このような物、俺の手にかかれば簡単だ! オン・クビラ・ソワ――」

「やらせない」

 何か呪文のようなものを唱えようとするクンビーラの胸に、短剣を突き立てる。
 短剣は深く突きささり、口から血を吐きだす。

「ゴフッ! オン・クビラ・ソワカ!」

「え? 肺を潰したのに……バケモノ?」

 ヒュージスパイダーの糸が燃え始め、クンビーラを押さえていた物が無くなる。
 ヴァージニアは距離を取り、改めてクンビーラを見るのだが、かなりの糸を張り巡らせていたようで、目の前は炎で包まれてしまった。

「がっがっが、今回はゴホッ! 一旦引くとしよう。それではなヴァージニア」

 炎が収まった時、そこにはクンビーラの姿は無くなっていた。

 一方防壁では、フランチェスカとルルナラが戦闘を繰り広げていた。
 防壁が破壊されているため2人は都市の外で戦っているのだが、激しすぎる魔法戦に他者は近づく事が出来なかった。

「フランチェスカ様? 姿を消していた間に弱くなられたのでは?」

「私はまだまだ成長期だわ。ルルナラこそ年のせいで衰えていないかしら?」

 攻撃と口撃が繰り広げられているが、2人の周囲は穴だらけで煙が出ていた。
 だがその戦いも一旦終わりになる。

「フランチェスカ、一時退却だ」

「クンビーラ? 大口をたたいた割に逃げてきたのかしら?」

「そういうな。予想よりも強かったのだ」

 それだけ言ってクンビーラはジャンプして姿を消してしまった。
 それに伴い、兵たちも後退を始める。

「はぁ。仕方が無いわね。ルルナラ、勝負はお預けね」

「はい。良いころ合いでしょうね」

 互いに構えを解くとゆっくり後退し、距離が離れるとジャンプして各陣営へと戻った。
 今回の戦いでは双方に被害が出たようで、ザナドゥ王国軍にもかなりの負傷者がいるようだ。
 幸い死者はいないが、医者には大変な人数が転送されたはずだ。

「ルルナラ」

「ヴァージニア様、お疲れ様で……キャー! その御体はどうされたのですか!!!」

 門の中に戻ってきたルルナラを出迎えたのだが、逆に心配されてしまうヴァージニア。
 それもそのはず、体中から血が流れているのだから。
 ルルナラに回復魔法を施されるが、どうやら思ったよりも傷は深くない様だ。

「あれ? ほぼ治っていますね。傷は浅かったのですか?」

「ううん……深かった」

「ではご自分で治療を?」

「私……魔法は使えない」

「しかし傷が……」

「きっと……ご主人様の愛のお陰」

 流石のルルナラにも意味が分からないのだが、新しく修斗から渡された首輪チョーカーの効果だ。
 
 名前:静かな証し
 種類:首輪 Bランク
 防御力:9834
 素早さ:9751
 耐久力:4651
 備考:主人におねだりした首輪。
    足音や気配を消しやすくなり、継続的に回復魔法が使用される。(効果:小)

 修斗にしては珍しく、回復魔法という支援効果を付与させてある。
 ヴァージニアは盗賊なため、攻撃よりも素早さと防御を優先したのだろう。
 回復も足が遅くならないためだ。

「それで賊は逃げてしまいましたか?」

「ん……後で話をするね」

 


 都市を攻められた同時刻、アイカの担当する都市にも怪しい人影があった。
 夜襲を仕掛けてきたのは良いが、どうにも敵兵の様子がおかしいのだ。

「どうして? どうして兵士が防壁に激突してくるの?」

 丸太などで門を破壊するでもなく、大きなハシゴで登るわけでもなく、攻城兵器を使う訳でもなく、大量の兵士が向かってきて、そして防壁に衝突して動かなくなるのだ。
 そして死体の数はすでに数万を超え、死体が階段のようになってきているのである。

 それを防壁の上から見ているのだが、異様な風景に誰もが戸惑っていた。
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