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第3章 異世界召喚

第94話 大魔王軍・アシュターテ

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 彫り物のされた大きな鉄の扉を開けると、中は体育館のように広く、天井付近は水晶の様な物で外の灯りが取り入れられているため、とても明るい。
 黒い石が積み上げられた壁と、大きな柱が立ち並ぶ広間の奥に、大きな鳥が1羽、その隣では何者かが椅子に座っている。

人間モドキヒューマノイドが、よくここまで来れたモノだな」

 何者かが立ち上がり、ゆっくりと近づいて来る。
 近づくにつれてその姿がよく見えてくるが、身長は2メートルほど、人型だが目が異様にくぼみ、鼻と口は猫の様な動物に近い。
 狩人の様な服装をしているが、腕が長く、足は獣の様なむき出しの爪が見える。

「あ~ん? おめぇーがココのボスかぁ?」

「ボス? そうだな、ここの指揮官だ」

「それならば話は早い! 我々はこの要塞を攻略に来た勇者なのだ! おとなしく従うならば良し、さもなければ力づくで従わせる事になるぞ!」

「ほぉ? お前達が? このオレを? 出来るのか? そんな事が」

「やってみればわかる。お前ごとき、俺達勇者の敵ではない」

 かなりの余裕を見せているが、実は怖くて仕方がなく、強がっていなければ立っている事すら出来ないのだ。
 その実力差が分かる程度には実力が付き、今の実力では1人では手も足も出ない事を理解している。

「ほぉ? 勇者か? お前達が? 勇者ごときが歯向かうのか? 身の程知らずが」

 指を鳴らすと、奥にいた鳥がドスドスと音を立てて走って来る。
 その鳥は……まるで恐竜の様な大きさだった。
 ティラノサウルスに毛を生やし、手が無いかわりに羽を付けたような生き物だ。

「な、なにこれ!? 鳥? 恐竜?」

「これ……有隣鳥ゆうりんちょう……毛の下には鱗があって、硬くて斬れない」

「ほほぉ? 勇者の中にコレを知っている者が居たか。魔族では王鳥おうちょうと呼んでいるがな」

 有隣鳥は勇者に向けて威嚇をするように雄たけびを上げ、足を地面に擦りつけている。
 どうやらすでに戦闘態勢に入っているようだ。

「それでは相手をしてもらおうか? 勇者の諸君」

 戦いは数時間に及んだ。
 魔物は戦闘が始まると人型のトラになり、柱や壁を使って立体的に攻撃を仕掛け、有隣鳥の攻撃は直線的だが、翼を使って素早く進路を変更させる。

 魔法こそ使わないが、片方に気を取られればもう片方が襲い掛かる。
 しかも1撃1撃が致命傷になるものだ。

 とどめを刺したのは、ドレッドヘアのウィークエンドとアイカだった。
 ウィークエンドは大剣を有隣鳥の口の中にぶっ刺し、アイカはトラ魔族の胸に剣を突き立てていた。

「くそったれが……これでどうだ!」

「流石に終わってよね」

 有隣鳥は声も出せずに地面に倒れ、トラ魔族は剣を抜こうとしていたが、膝をつき、ゆっくりと倒れ込んだ。

「バ……バカ、な。我が、勇者などに……モドキですら、ない、人間……に」

 魔族はそれだけ言うと、動かなくなった。

「うひぃ~、疲れたってぇ~もんじゃぁねぇ~ぜ! あーん!?」

「盾がボロボロになってしまった。私も、もう1歩も動けない」

「もう、無理……眠りたい」

 一斉に地面に座り込み、そのまま倒れ込む。
 そんな5人の様子を見ながら、修斗はスタータスを確認する。
 どうやら得意分野は3000前後まで上がったようで、これならばサキュバスのラライラ・ライラとも勝負が出来る強さだ。

「よくやったなお前達。この分ならまだまだ強くなれそうだな」

 腰から下げていた巾着袋を取り出し、トラ魔族と有隣鳥を吸い込ませる。

「シュウト君、魔族の死体を持って行くの?」

「ああ、今までは大人しくしていたが、これからはガンガン行こうと思ってな。帰ったら忙しくなるぞ」

 砦を出て、要塞内を歩いて帰りがてら、死んだ騎士達も巾着袋の中へと仕舞っていく。
 要塞を出て外で休んでいた数名の騎士を回収し、町へむかい歩き出す。

 


 町に着いて、まず向かったのは騎士団の詰め所だ。
 連れ帰った騎士達と共に、その亡骸を返却する為だろう。
 巾着袋から死体を取り出し、順番に訓練場に並べていくが、その数の多さと、死体の酷いありさまを見て泣き崩れる者が多数現れた。

 一通り返却が終わると、すぐに冒険者ギルドへと向かう。
 依頼達成の報告と、依頼内容に齟齬そごがあった事の追求だ。

「そ、そんな事が!? 申し訳ありません、こちらの調査不足でした」

「それについては後からキッチリ説明をしてもらう。あと手土産があるんだが、広い場所は有るか?」

「場所ですか? 訓練場でもよろしいでしょうか」

 訓練場に案内され、十分な広さがある事を確認すると、巾着袋からトラ魔族と有隣鳥を出した。

「こ!? これは大魔王軍のアシュターテ! それにこっちは王鳥おうちょうではありませんか!」

「騎士団が壊滅状態だったからな、俺達が倒した」

「え? え? だってアシュターテは大魔王軍の中でもかなり上位の魔族で……え? え? 王鳥だって1羽いたら町は壊滅、数羽いたら全軍で当たる魔物で……」

「倒した」

「「え、ええーーーー!!!」」

 訓練中の冒険者も一緒になって声を上げている。
 やはりかなりの強敵で、勇者たちだけで倒したと言う事は、あまりに異例過ぎて受け入れられないのだろう。
 この話が広まれば、この国イルメリータントだけでなく、他国にも広く伝わるだろう。
 そうなれば勇者の能力は各国にとって脅威となる。

 その時イルメリータントは、他国はどう動くのだろうか。
 その動きによって、修斗は次の行動を決めるつもりのようだ。
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