上 下
71 / 373
第2章 ザナドゥ王国

第71話 魔族の副官

しおりを挟む
 魔の森にある山岳地帯に到着すると、聞いていた通り大型の魔物が跋扈ばっこしていた。
 修斗にはどの程度の強さなのか理解できないが、一緒にいるパメラ、キャロル内政・人事担当、ハイエルフの長老、ルルナラの反応を見る限り、かなりの警戒をしている。

 パメラは自分の心配ではなく、キャロル達の心配をしているようだが。

「ん? あそこの崖を何かが登っているな。あれもかなりデカイが、強いのか?」
 
 修斗が指差した先には、巨大なゴリラの様な後姿が見えた。
 手足を器用に使い、崖をよじ登っている。

「ああ! あれはアイアンバックです! 背中の白い毛が鉄のように硬く、奇襲攻撃が通用しない厄介な魔物です!」

 ルルナラが悲鳴のような声をあげて怯えている。
 素のルルナラからは想像もできない怯え方だが、それほどに恐ろしい相手なのだろうか。
 
「しかしなぜ、崖を登っているんだ? 上には何か食い物でもあるのか?」

「あ、忘れてました。あの崖の上には里があるのでした」

「ほぅ? 随分と落ち着いているな。自分の里が襲われそうなのに、アイアンバックを見つけた時とは反応が違うが?」

「だって私はすでにシュウト様の所有物ですもの。里は捨てた身でございます」

 なぜか頬を赤らめて照れている。
 しかしパメラが何かを発見した事で、状況は一変する。

「ん? なんだいあのデカイ鳥は」

 アイアンバックの側を、コウモリの様な羽をもつダークエルフらしき者が飛んでいる。
 アイアンバックの周囲を旋回し、ゆっくりと近づくとその場で滞空をしているが……なにやら会話をしているようだ。

「ダークエルフは魔物と話が出来るのか?」

「違いますシュウト様! あれは魔族ですわ! しかも魔王の副官だった者でございます!」

 そう、勇者の手により魔王が倒されたが、副官は生き残っていたのだ。
 副官は魔王の弔い合戦をするべく、魔の森の魔物を集めて人間界にせめこむつもりだ。
 魔族もこの地に集結しようとしているが、生き残りが揃う前に、魔物を仲間に引き入れようとしているのだ。

「魔王? ああ、あ~何だったかという勇者に倒された、激ヨワ魔王か」

「ゲキヨワ……あのシュウト様? 魔王ですよ魔王。名前からして強そうではございませんか? それを激ヨワなどと。勇者だからこそ倒せたのではございませんか?」

「ガルタ・レーベンだろ? それならアタイよりも弱いのが分かってるから、その勇者に負けたんなら激ヨワさね」

 パメラの言葉の意味が理解できず、ルルナラはキャロル内政・人事担当を見る。

「えーとデスね、パメラサンは以前、ブジュツ大会でユーシャサンに勝ってるデス。パメラサンはその時よりもツヨクなってるデスし、まおーサンにも勝てるのではナイカト」

 修斗どころか、パメラもとんでもない強さであると説明したのだが、やはり勇者ブランドの力は偉大なのだろう、まだ疑っている。
 そして長老を見るのだが……。

「ルルナラよ、以前にも話したが、我らが神・古代エンシェント・ドラゴンを遣わしてくれたのはシュウト様なのだ。勇者や魔王ごときに後れを取ると思うのか?」

 ここまで説明されて、ようやくその強さを理解したルルナラ。
 そして何を思ったのか、修斗の腕に抱き付き、豊かな胸を押し付けた。

「私、シュウト様の子がしゅうございます」

 だそうだ。ルルナラの自分の欲望に忠実な点は、修斗に近いものがある。
 とは言え、まだ修斗は子供が欲しいわけではないし、それを良しとしない勢力も存在する。

「ルルナラぁ~? いい加減にしないと、アタイの拳がお前の腹に命中しちまうよ?」

「ワタシはころんだ勢いで、ナイフをサシテしまいそうデス」

 女2人に睨まれて、流石のルルナラもやり過ぎたと思って腕を放す。
 ルルナラが離れたのを確認し、修斗は魔族を呼ぶ事にした。

「魔族か、どんな奴か見てみたいな。巨大な火炎弾マファーバ

 今回はレーザーの様な撃ち方はせず、だたの巨大な火球を魔族とアイアンバック目がけて発射する。
 魔族は飛んでいたためかわしたが、アイアンバックは崖を登っていたため、避ける事が出来ず命中・炎上し、燃えながら落下していった。

 落ちて行くアイアンバックを一目見て、魔族は修斗達の存在に気が付いたようだ。
 10キロメートルほど離れていたが、魔族は空を飛び、数回瞬間移動をして修斗達の側まであっという間に移動する。

「オマエたち? 誰に手を出したか分かっていやがるのか? ん~?」

 修斗達の前に着地をした魔族は、紫色の肌、ピンクの長い癖のある髪、そして一糸まとわぬ姿なのだが、胸と下腹部周辺だけ毛が生えており、下着のように隠している。
 そう、魔族は女だったのだ。背中からコウモリの様な羽が、尻からは細長い尻尾が生えている。

 どちらかというと美人タイプだ。

「崖の上には俺の里がある。諦めて帰れ」

「ハ! 人間風情が何を言ってやがるかね。オマエ達は邪魔だから、さっさと殺してやr」

 ゴッ!



 魔族の女が目覚めた時、両手両足を体の前で縛られ、太い木の枝に吊られて揺れていた。
 丸太の様な枝を修斗が担ぎ、それに魔族の手足を括りつけてあるのだ。

「お! オイ! 何した!? 俺様に何をした! てかどうなってやがるコレ!」

 やっと目を覚ましたが、すでに手も足も出ない状況になっている。
 完全に無視され暴れるが、風が下から吹きつけた。
 下を見ると……崖を登っていた。しかもコウモリの様な羽は折りたたまれ、鳥の丸焼きをするようにロープで体に縛られている。

「ヒィィ! お、おい!? 何やってやがるんだ! 降ろせ、おろせぇ~!」

 丸太を担いでいる手を離す。
 当たり前のように落下していく女魔族。

「降ろす奴があるかぁ~~……」

 地面近くで木が数本折れる音がする。
 どうやら無事着地したようだ。

 一行は崖を登り切り、山岳ダークエルフの里へと到着した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

成長チートと全能神

ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。 戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!! ____________________________ 質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...