ステータスを好きにイジって遊んでたら、嫁たちが国造りを始めました

内海

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第2章 ザナドゥ王国

第68話 丸々と太った降伏の使者

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 降伏の使者が1人も戻ってこない。
 だがゲーベルク軍国家の使者は間違いなくザナドゥ王国に来ていた。
 にもかかわらず、降伏を受け入れる事は無く、ゲーベルク軍国家は相変わらず四方を包囲されたままだ。

「どうなっている……すでに10人以上の使者を送っているのだぞ? なのにどうして誰も帰ってこんのだ……」

 国王は玉座に座ってはいるが、その顔には生気が無く、ガッチリとした体つきは見る影もなく弱々しい。
 国王だけではない、周囲の大臣たちもやせ細り、立っているのがやっとの状態だ。
 首都が包囲されてそろそろ1ヶ月近くがたち、街や城にあった食料はとっくに底をついている。
 しかし包囲されているため、物資が一切入ってこないのだ。

「陛下……ザナドゥ王国は、シュウト国王は、我々を許す気が無いのでしょうか」

「ならばなぜ、攻めてこない。許さないのであれば、さっさと攻め滅ぼせばいいだけだろう」

 気に入らない奴は問答無用で切り捨てる。
 いつもの修斗ならばそうしていただろう。
 しかし今回は趣向が違い、生きたまま地獄を見せるにはどうしたらいいか、そんな事を考えていた。
 そしてその仕上げともいえる人物たちが、城を訪れた。

「陛下! 陛下!!! ザナドゥ王国に行っていた降伏の使者達が戻ってきました!」

 謁見の間に駆け込んできた兵士は、足がもつれたのか体力の限界なのか、扉を開けると転んでしまい、這いつくばって報告をした。

「おお! そうか、やっとか……やっとこの地獄が終わるのだな」

 そして謁見の間に入ってきたのは、自分達が送り出した、降伏の意思を伝えるための使者達。
 その姿は……丸々と太っていた。

「陛下、お久しぶりでございます。報告の返事、さぞや待ち遠しかった事と存じます」

 どこか他人事のように聞こえるが、この男達は間違いなくゲーベルク軍国家の人間だ。

「お、お主どうしたのだその体は。いやそれは良い、それで、降伏は受け入れてもらえたのだな!?」

 身を乗り出して確認しているが、使者達の表情は芳しくない。

「は、ザナドゥ王国で毎晩、飲めや歌えのパーティーが開かれまして……1ヶ月続いたらこの体になりました。降伏ですか……」

 国王や大臣たちの顔が強張る。
 自分たちはこんな思いをしているのに、丸々と太るほど食いまくっていたのか、と。
 しかし何とか気を持ち直す。

「ま、まさか拒否されたのではあるまいな!」

「拒否……もされておりません」

「では何なのだ!」

 すると使者達、何を考えたのか持っていたバッグを床に降ろし、中からワインと調理された骨付き肉を取り出した。
 国王はおろか、大臣も食い物に釘付けになり、生唾を飲む音が謁見の間に響き渡る。
 食糧難であることを知っていて、食料を運んできたのか? などと期待したようだが違う。

 使者達はムシャムシャと自分たちだけで食べ始めたのだ。

 ワインをラッパ飲みし、肉を噛みちぎって汁が飛び散る。
 それをまたワインで流し込み、大きなゲップをした。
 肉を半分をほど食べると床に投げ捨て、ワインを飲んだらワインも地面にたたきつけた。

「このような安物の肉とワインでは、腹が満たされませんな」

 そう言って次は高級ワインと サイコロステーキが入った容器をバッグから取り出し、またも自分たちだけで食べ始める。

「おお、流石にコレはたまりませんな! いいワインといい肉、おっと、スープもあるのだった」

 水筒に入ったスープを飲み、使者達だけで楽しそうに食事をしている。

「お、お主たち何をしておるのだ? なぜ自分たちだけで食事をしておる? しょ、食事はみんなで楽しむものだろう。さあ、テーブルに並べるのだ!」

 国王が空腹を我慢できず、テーブルを用意させて並べるように言うのだが、使者達は並べようとしない。
 周囲の大臣たちにも急かされるのだが、やはり使者達は頑なに拒否する。

「ええい命令だ! 持っている物を全てテーブルに並べろ!」

 遂に国王が業を煮やし、強い口調で命令をしたのだが、すると使者達はバッグをさかさまにし、床に全てを投げ捨ててしまった。
 沢山の食料が床に転がり、我慢できなくなった大臣が這いつくばって食料を食べ始める。

「や、やめんか! 貴族たるものがその様なマネを……!」

 しかし飢えには勝てなかったのだろう、国王以外の全ての人間が床に転がっている食料を口にする。

「陛下、シュウト様が望んでおられるのは言葉です。その言葉を口にすれば、それで全てが収まるのです。意固地にならず、シュウト様の望む言葉を口にしてください」

「言葉だと? 余が謝罪をしたら、この戦争は終わるのか?」

「陛下、これは戦争ではございません。シュウト様は女性を抱きながら観戦していたそうです。ただの……ただの娯楽だったのです」

「娯楽だと!? 余は娯楽の為にこんな思いを、飢え苦しんでいたのか!?」

 コクリと無言でうなずく。
 国王は玉座から崩れるようにずり落ち、両手で顔を押さえて泣き始める。

「こんな事が……こんなバカな話があるか? 必勝の手で攻め込んだのに、全てを失い、今なお苦しんでいるのに……そんな余を見て喜んでいたというのかの国王は」

「いえそれが……すでにゲーベルク軍国家への興味が失せ、今は他の事をやっておられました」

 国王の顔が歪む。
 すでに自分は娯楽の対象でもなく、この苦しみには何の意味もない。
 自分の価値は無だと知った時、全てがどうでも良くなった。

「余が悪かった……許してくれ」

 心の底からの謝罪と屈服の言葉だ。
 だが使者は何も反応しない。

「陛下、その言葉では無いようです。この黒い水晶が反応しない限り、終わりません」

 使者が上着の内ポケットから出した小さな水晶。
 修斗が指定した言葉を認識した時にのみ、反応するようになっている。

「余が悪かった」

 反応は無い。

「すまなかった。降伏する。助けてくれ。全面降伏だ。国を譲り渡す。助けてくれ。お願いだ。国民を助けてくれ。シュウト国王バンザイ。ザナドゥ王国万歳。何でも言う事を聞く」

 思いつく言葉を順番に並べて行くが、どれも反応しない。
 流石の使者も必要な言葉は知らされていないらしく、気まずい空気が漂っている。

「これ以上何を言えばいいのだ……余が言えるのは謝罪しかないというのに……先王でさえ『ごめんなさい』といえば許してもらえたのに……」

 子供が親に謝る様な言葉をつぶやくと、黒い水晶が反応をした。
 それと同時に首都を包囲していた包囲網は解かれ、物資が首都に運び込まれる。
 街の人々は歓喜してザナドゥ王国軍を受け入れ、感謝の言葉が次々に聞こえてきた。

 城内にも物資が運び込まれ、力なく床に座っていた兵たちにも食料が配られていく。

「終わった……のか?」

「おめでとうございます陛下。終戦を迎えられた事、心よりおよろこび申し上げます」

 ここにようやくザナドゥ王国とゲーベルク軍国家の戦争が終わった。
 実際の戦闘期間2日、首都包囲網から1ヶ月が過ぎていた。
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