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第40話 EランクからCランクまで4時間

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「分かった。じゃあそれを10回分まとめて受けよう」

 もう一度受付嬢とリチャードの目が丸くなる。
 いくら腕っぷしは立つといっても、薬草採集は話が別である。
 道中は安全だが、薬草を探すのと敵を倒すのでは訳が違う。

「あのシュウトさん? 今からですと1回が限界だと思うのですが?」

「薬草採集は常時募集依頼なんだろう? なら指定された薬草を10個、10回なら10倍の100個集めたらいいんじゃないのか?」

「いえですから、それは無理ではないかと……」

「はっはっはっは! シュウト君は面白い事を言うね。是非やってみてくれ、そして最短記録を更新してくれたまえ!」

「最短記録? なんのだ」

「Sランクになる最短記録さ。現在の所15年と7ヶ月が最短なんだ。キミならばその記録を打ち破れるかもしれないね」

 15年以上かかると聞き、修斗はなぜそんなにかかるのか理解できないでいた。
 Sランクへはもう一つの課題があるのだが、それはあえて伝えていない様だ。

「記録には興味は無いが、Sランクになればギルドは俺のいう事聞くんだろう? それなら記録は更新されるだろうさ」

 そう言って修斗は部屋を出て行った。

「あのリチャード様、言わなくても良かったのですか? Sランクへは実質上がる事が出来ないんだって事」

「なに、そうなったら私を頼ってくるかもしれないからね。恩を売る事が出来れば国の為にもなるだろう」



 修斗は受付へいき、薬草採取の依頼を受けていた。
 受付に話を聞くと、仮に20個取ってきたら2回分とカウントされるそうだ。
 だから安心して100個の薬草を取る事が出来る。

「受付は何時でも大丈夫なのか?」

「はい! シュウトさんをいつまでも待っていますから!」

 どうやらこの受付嬢、先ほどの者とは違って修斗に一目ぼれしたようだ。
 さっきの受付嬢も目がハートになっていたが、どうやら必死に仕事を優先させていたようだ。

 それから1時間ほどが過ぎたころ、修斗はギルドに戻ってきた。

「お帰りなさいませシュウト様! お怪我はありませんが? お腹は空いていませんか? あ! お水をどうぞ!」

 まるで母親の様に世話を焼く受付嬢。
 しかも呼び方まで変わっている。

「ええい五月蠅い。依頼が終わったから受付をしろ」

「はい! それでは個室へどうぞ! グヘ!?」

 いきなり受付嬢は首根っこを掴まれ、カウンターに座らされた。
 
「個室の必要はないでしょ? さっさと受け付けなさい」

「は、はぁ~い」

 どうやら先輩に止められたようだ。
 個室に連れて行ってどうするつもりだったのだろう。

「それでは薬草を見せてください」

 言われて薬草をリュックから取り出した。
 ひとつふたつと数えて行き、段々と受付嬢の顔色が変わっていく。
 カウンターに山と積み上げられた薬草を見て、受付嬢は顔が高揚しているようだ。

「ん? 101こあったか。まあいい、これで10回分になるな?」

「流石ですシュウト様! 流石は私のフィアンセです!」

 そう言ってカウンターを飛び越えて修斗に抱き付こうとしたが、またもや先輩に首根っこを掴まれた。
 この受付嬢、どうやら思い込みが強いタイプの様だ。

「失礼、本当にこの数をお一人で集めたのでしょうか?」

 役に立たない受付嬢に変わり、先輩受付嬢が受付を替わった。

「俺一人だ。仮に複数名いたとして、依頼内容通りに集めたんだ、問題があるのか?」

「いえ、問題はありません。それではこちらが報酬と、ギルドタグをお返しします。Dランク昇格、おめでとうございます」

 小さな革製のトレイにコインとタグが乗せられている。
 それを受け取り、掲示板に向かう事なく新たな依頼を口頭で伝えた。

「次は討伐依頼だったな。害獣やモンスターなら何でもいいのか?」

「Dランクなら害獣は野犬やイノシシ、ワシが対象です。モンスターなら知能の低いゴブリンです」

「そうか、じゃあ……これでいいか?」

 ギルドの外に出たかと思うと、大きな袋を担いで戻ってきた。
 袋をカウンターに乗せ、袋の口を受付嬢に向けて開いて見せる。

「これは!? しょ、少々お待ちください」

 そう言って他の受付嬢も呼び、袋の中身の確認を始める。

「えー……確かに20回分の依頼達成に必要な数が揃っていました。なのでこちらが報酬と、ギルドタグをお返しします。し、Cランク昇格、おめでとうございます」

 流石に先輩受付嬢が戸惑っている。
 しかし目の前には確かに依頼達成に必要な物が揃っており、それを否定する事は出来ない。
 1日にして2ランクアップ……前代未聞の事態であっても、だ。

「Cランクの常時募集依頼は何がある?」

「え? ああCランクになると常時募集依頼は無いんです。個別の依頼を受けて頂くしかありません」

 常時募集依頼というのは新人の救済的な仕事であり、教育的な意味合いもある。
 Cランクからは新人とは呼べないため、常時募集はされていない。

「そうか、それなら……これだけ頼む」

 掲示板から30枚の紙を取り、受付嬢に渡した。
 どれもが討伐依頼ではあるが、モンスター討伐や盗賊の討伐だらけだ。

「えっと、お、お受けします。ちなみに失敗した際のペナルティについてはご存知ですね?」

「罰金及びランクアップのリセットだったか?」

「はい、ご存じならば構いません。しかし30個をまとめて失敗となると、冒険者資格の取り消しもあり得ます。その点、ご留意ください」
 
「わかった」

 3時間後、ギルドの中の空間に、突如として別の風景が見えるようになった。

「そうか、こうやれば出来るのか。これは中々便利だな。こっちだ、歩けるものは自分で歩け。おい受付嬢、手が空いているなら手伝え」

 どうやらどこかの屋敷の中のようだが、ソコは薄暗く日が差していない。
 その場所には沢山の女性がボロボロの服装でたむろしていた。
 その空間から修斗が出てきたのだ。

「しゅ、シュウトさん? なにを……え? 何ですかコレは???」

「盗賊のアジトと空間を繋いだんだ。他の討伐も終わらせたんだが流石に荷物が多くなってな、俺一人では持ち運べない量だったから魔法を作った。初めてやったが上手くいったようだ」

 どうやら盗賊のアジトでは沢山の女性が囚われており、慰み者にされていたようだ。更には価値のあるものが複数あったため、1人で運ぶことは困難と判断、運ぶ手段を考えた結果、新し魔法を作り、盗賊のアジトとギルドの空間をつないだのだ。

 空間魔法を改良して使ったのだが、一般に知られている空間魔法は遠くを見る事が出来る、といった魔法なので、空間そのものを繋いでしまう魔法はたった今開発されたのだ。

 説明されても理解できず、さりとて目の前に弱った女性が沢山いるのを見過ごす事も出来ず、受付嬢は恐る恐る空間をまたいで女性をギルド内に運び入れるのだった。

「そこで遊んでる奴、暇なら手伝え」

 ギルド内に居る冒険者にも声をかけた。
 別に遊んでいる訳ではなく、非常時の為に待機している冒険者なのだが、理解不能な事態を目にして判断力が低下、修斗のいう事を無条件に聞いて動き出す。

 女性を運び出し、価値のあるものも全て運び出した。
 しかし受付嬢の頼みで空間を閉じる事はせず、今は盗賊の遺体を運んでいる所だ。

「なぁ、こいつ等全員腹に穴が開いてるんだけど、一体どうやって倒したんだ?」

「殴り殺した」

「いや、金属鎧に穴をあけた方法を聞きたいんだが」

「だから、殴った。ほら、こうだ」

 盗賊を運んでいる冒険者が修斗に倒した方法を尋ねたが、イマイチ理解できなかった様なので実演した。
 今度は遺体の胸を殴り、簡単に金属鎧を貫通して穴をあけた。

 あまり力を入れた風にみえず、更に素手でやったことが冒険者の頭を悩ませた。
 
「そんな事よりもまだ開けたままなのか? 盗賊団のかしらは運び出したんじゃないのか?」

 依頼にあった討伐対象の盗賊団のリーダーはすでに運び込まれ、ザコとは違う場所に置かれている。
 そういえば、リーダーと数名が並んでおかれている。重要人物だろうか。

「すみません、もう少しお願いします。もう少しで全員運び終わりますから」

 なかなか終わらない運び出しに修斗は暇を持て余し、捕らえられていた女性と話をしていた。
 長い者は数年、短いものは数日間捕らえられていたようだ。
 だが興味を引く女性は居ないらしく、適当に話をして終わるだけだった。

「これで終わりました。ご協力、感謝します」

 先輩受付嬢が修斗に挨拶し、盗賊のアジトと繋がった空間を閉じた。
 それを不思議そうに眺めているが、どうやらそれ以上に大変なことがあったようだ。

「そうですシュウトさん! これこれ、この人です!」

 盗賊のリーダーと一緒に並べられていた男、そのうちの1人を指差すと大声を上げて説明を始めた。

「この男はAランクの賞金首なんです! それにこっちの男、この男はBランク賞金首で、こっちの男は……」

 と興奮しながら順番に説明を始める。
 どうやら修斗は依頼の盗賊以外にも、賞金のかかった盗賊も倒したようだ。

「それに……失礼ながら、ベルベット夫人ではありませんか?」

 捕らえられていた中年の女性の一人に声をかけた。
 確かその女性は数年前に捕らえられたという女性だ。

「はい……その通りです」

「やっぱり! 大変失礼しました! 今すぐ着替えとお風呂の準備をします!」

 何やら受付嬢達が慌ただしくなってきた。
 ベルベット夫人……何者だろうか。

「いえ、私よりも他の方をお願いします」

「し、しかし……」

「お願いします」

「わかりました」

 何やら先輩受付嬢が折れた様だ。
 捕らえられていた女性たちが別の場所に移動し、最後にベルベット夫人が先輩受付嬢に連れられて移動する。

「おい、あの中年の女は何者だ?」

「中年? ああベルベット夫人の事ですか。ああ見えても20代のはずですが、伯爵夫人です。数年前に盗賊に襲われて、そのまま行方不明になっていたんです」

 なるほど、貴族相手ならば受付嬢の態度が変わるのも頷ける。
 しかし貴族に興味のない修斗は、直ぐに話を切り替えた。

「これでCランクの依頼は30個達成した。Bランクに上がれるな?」

「はい! それはもう問題なく! それでは受付を終わらせますね」

 1日で2ランクどころか3ランクアップしてしまった。
 それだけでも異例なことなのだが、修斗は止まらなかった。

「Aランクへ上がるための試験内容を教えろ」
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