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第21話 パメラ vs バーバラ元聖女

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「武術大会だと?」

「そう! ねぇねぇシュウト~、参加しようよ~。アタイ達の強さを世間に見せてやろうよ!」

 パメラが珍しく頼み事をしている。
 隣の国に来て、面白そうなものが無いか街を歩き回っていたら、武術大会のチラシが目に入った。
 それを見てパメラが反応し、おねだりをしているのだ。
 修斗にとって無意味なイベントだが、パメラ・バーバラ・キャロラインにとっては珍しいイベントであり、修斗に仕える者としての実力を確認したい。
 そう考えているようだが……。

「私は武器が痛むので嫌です」

「行方不明の姫だとバレたら騒ぎになるので……」

 と、2人は否定的だ。
 仮に武術大会に出たとしても、今の3人ならパメラが優勝し、準優勝はバーバラ・キャロラインだろう。
 結果は分かり切っている。
 しかし。

「面白そうだな。お前達3人は参加しろ」

「やったぁ!」

「かしこまりました! 必ず優勝をもぎ取って参ります!」

「シュウトさんの御命令とあらば、全力で挑みます」

 修斗は乗り気だったのだ。
 修斗自身も優勝はパメラであろう事は予想しているが、いわゆる弱い者いじめをしてみたいのだ。
 圧倒的強者に蹂躙じゅうりんされ、手も足も出ずに這いつくばる事しか出来ない弱者。
 そんな様子を見て楽しみたいのだ。

 巨大なコロシアムに入り、選手登録をする。
 そして選手控室に入る前に、事前に買っておいたマスクを装着した。
 バーバラとキャロラインは仮面舞踏会で貴族が付けるような、細かな宝石が散りばめられ、目元だけを隠すものだ。
 バーバラは左半分が黒で右側が銀、キャロラインは左が黒で右が金。

 パメラはマスクを付ける必要は無いが、ここは修斗の趣味でマスクを選んだ。
 ピエロマスクだ。
 鼻が丸くて赤く、目元と口元がニヤケた、顔全体を隠すマスク。

「ねえシュウト? どうしたアタイだけピエロなの……?」

「お前が優勝したらマスクを取れ。会場を出るまでに、何人に言い寄られたか数えておくんだぞ」

「え? うんわかった」

 もう一つの楽しみも思いついたようだ。
 選手控室に入った4人には、好奇な目が向けられる。
 なんだあのマスク、という目と、スタイルの良い女だが、顔を隠しているから残念なのか? という目が入り混じっている。
 中にはマスクを着けたままでいいから相手をして欲しい、という者もいるようだ。

 なんの相手かは知らないが。

 修斗が1人で控室から出ると、一般の観客席に入る。
 最前列にいくと酒盛りをしているチンピラが居たから、して穏便に席を譲ってもらう。
 予選が始まると、案の定3人は勝っていった。
 あくまでも、周りから見たら何もしていないように見えるだけで、実際には魔法や体術を使っている。

 その強さからダークホースとして扱われた様で、決勝トーナメントでは3人ともシード扱いになっていた。シード選手は他にも5人いるようだ。
 トーナメント表は2つあり、どうやら会場を半分に分けて、同時に2試合を行う様だ。それぞれの勝者が決勝戦で戦うのだろう。
 シードは受付順なので、3人は片方に固まっていた。
 決勝に行けるのは1人だけだ。
 
 トーナメントが始まると、3人は順調に勝ち進み、準々決勝でパメラとバーバラが戦う事になった。
 バーバラには【万物を拒否する盾】があるが、それは使用禁止にしてある。
 しかしバーバラは接近戦も魔法も得意で、全ての間合いでの戦闘が可能だ。
 それに比べてパメラは接近戦特化であり、魔法は使えるが補助程度しか使えない。
 本当は魔法をしっかり覚えればかなり強いのだが、性に合わないからと真面目に覚える気はなかったようだ。

「ふっふっふ、ついにやって来ましたよこの時が! どちらが上か、雌雄を決しようではありませんか!」

 剣先をパメラに向け、高らかに宣言しているが……そのパメラは理解していない。

「え、なんのだい?」

「今こそシュウト様1番の座を、この手にする時です!」

「相変わらずバーバラは変わってるねぇ。シュウトの前じゃ誰もが同じだよ」

 パメラ本人は何番目でも良いから修斗の側に居たい。それだけなのだが、周囲はそう思っておらず、パメラが1番のお気に入りだと見られている。
 
 試合が開始された。

 バーバラが魔法を雨あられのように撃ちまくり、会場はあっという間に爆煙で見えなくなってしまう。
 しかしそれでも魔法はやまず、空からは魔法の剣が降り注ぎ、隣の会場にまで煙が入り込んだため、そちらは一時中断されてしまう。

 が、その煙は一瞬で一か所に収束され、会場は元通りに見えるようになった。

「ダメじゃないか。煙で観戦できなくなったら、シュウトがつまらないんだからさ」

 風の魔法を使ったのだろう。
 パメラの手の上では煙が球状に渦まき、更に小さくなり小石サイズとなった。
 それをバーバラへ向けて指で弾くと、バーバラは剣で上空に打ち上げ、魔力の無くなった球から煙が吹き出し、小さな雲のようになっていく。

「効かないとは思っていましたが、無傷とは思いませんでした」

「え? あんな見掛け倒しの魔法なんて、それこそ煙幕にしか使えないだろ?」

 剣が空から降ってくる魔法、あれは上級魔法【審判の選択マチノイス】なのだが、パメラには効果が無い様だ。

「じゃあ次はアタイが行くよ!」

 姿勢を低くして駆けだすと、魔法で開いた間合いは一瞬でゼロになる。
 パメラが2本のナイフを構えて交互に斬撃を繰り出すが、流石は元聖女、長い剣を使って巧みにさばいている。
 接近戦では鎧を着こんでいるバーバラが優勢にも見えるが、2人の能力と武器の性能が合わさると、鎧は意味をなさなくなる。
 
 どれだけ自分に有利な間合いを維持できるか、それにかかってくるのだが……早くも決着がついてしまった。

 パメラは片方のナイフを逆手に持ち、バーバラの剣戟けんげきを滑らせるように受けるともう片方のナイフをバーバラの顔に投げつける。とっさに顔をずらしたが、目の前にはパメラの顔が現れ、剣を持つ腕を掴まれて地面に叩きつけられてしまう。

 とっさに盾を捨てて受け身を取るが、腕と首にパメラの足が絡みつき関節を決められ、更に首を絞めつけられた。

「ま、まいった!」

 これ以上いくとどこかを失う。そう感じたバーバラは降参を選択した。

「おっと、やり過ぎちまったかい? でもアンタとの戦いは体がヒリつくね」

 パメラが手を離して立ち上がるが、何が起きたのか理解できていない審判は呆然としていて、決着が付いた事に気づいていない。

「審判、私の負けだ」

「え、ええ!? え、えっと、勝者・パメラ選手!」

 バーバラに言われて、慌てて宣言をする審判。
 会場も静まり返っているが、手をあげるパメラを見て勝負がついたと理解し、一気に歓声が沸き起こる。

 今の試合、完全に理解できたものは他に3名いる。
 修斗とキャロライン、そしてもう一人……。

 隣では試合が再開され、遅れて準々決勝が始まったようだ。
 そしてパメラとバーバラが控室に戻ると、次の試合キャロラインの試合が始まる。
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