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第8話 パメラの力

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 街に潜伏している指名手配犯を捕まえるために、まずは手配書を見に行った。
 手配書は衛兵の詰め所か、冒険者・傭兵ギルドの中に張り出されている。
 場所的に近い冒険者ギルドへ向かうようだ。

「ここが冒険者ギルドか?」

「そうだよ。普段ならアタイは指名手配される側だけど、ギューのダンナが上手くやってくれて、指名手配から外れたからね」

 修斗の行動に制限がかからないようにと、ギューが手を回したのだ。
 変態の割に、気が利く男だった。

 建物は木製だが、要所要所で金属が使われ、恐らく強度はかなり高いと思われる。
 木製の扉も、よく見るととても分厚く、バツ型に金属で補強されている。
 冒険者ギルドに入ると、今の時間は人が少ないのか、冒険者らしい者は数える程度しかいない。

 中も木が多用されており、カウンターやテーブル、ほとんどの物が木製だ。
 修斗の感想として『王都と言っても冒険者ギルドはしょぼいな』だった。
 
 修斗は引きこもり時代、ファンタジー系のMMORPGを良くやっていたが、イマイチこの世界の冒険者ギルドには興味がない様だ。
 
 パメラが指さした先に、貼り紙が沢山貼られている掲示板がある。
 そこへ向かうと、手配書がたくさん並べられていた。
 2人は冒険者ギルドで色々な意味で注目を集めている。
 礼服とドレスを着ているため、あまりにも場違いだ。それに美少年と美人が、しかも年の離れた2人が一緒にいる。
 たまに貴族は来るが、それは依頼をする為であって依頼を受けるためではない。
 それが掲示板を、指名手配犯を見ているのだ、注目を集めて当たり前だ。

 しかし気にもしない2人は、良いものが無いかと探していた。
 この街は犯罪者だらけだな、そう考えながらも、修斗の手は1枚の手配書に向かう……が、高くて届かない。
 パメラが取って渡すと、その手配書には『商人の馬車を50回以上襲い、皆殺しにしている』賞金500G。と書かれている。

 500G(5千万円)の賞金首が一番高い様だが、この手配書が出されたのが数年前。つまり、長い間捕まえられず被害ばかりが増え、逃げられ続けているのだ。

「これにしよう」

「で、でもシュウト、コレは直ぐには難しいんじゃない? 何年も見つかって無いんじゃ、いくらアタイでも難しいよ?」

「なんだ? 盗賊に必要な物は一通り持ってるんじゃないのか?」

「有るにはあるけど……あれ?」

 ふと、パメラがギルドのカウンターに目をやった。カウンターの向こう側で仕事をしている太った男性ギルド職員……その人から目が離せない様だ。

「ほぉ、お前はああいうのが好みか? じゃあさっさと告白でもしてきたらどうだ?」

「ち、違うよシュウト! そうじゃなくってさ、そうじゃなくって……」

 いつもは言いたい事は言うパメラだが、何故か歯切れが悪い。
 ちょっと待ってて、そう言って男性職員に声をかけた。

「ねえアンタ、モーガイじゃないのか?」

 ギルド中の目がパメラに向けられる。
 モーガイ、それこそが修斗が持っている手配書にかかれた、賞金首の名前だ。
 しかしあまりにも違いすぎる。
 体格、身長、もちろん顔つきも全く違う。

「私の事ですか? はっはっは、冗談がお上手ですね。流石に私は指名手配されていませんよ」

 太った男はわらっている。もちろん他の連中も笑っている。
 それほどに手配書の人相とは違いすぎるのだ。

「右腕の袖をめくって肩を見せてくれよ。刺青があるんだろ?」

 手配書によると、強盗団一味は、肩に強盗団のマークの刺青があるらしい。
 しかし、もちろん男性職員は拒否する。

「いい加減にしてください! 私を侮辱するにも程がありますよ!」

「あ、あの、この人は何年も前からギルドで働いていて、とっても優しい人なんです。モーガイなんかじゃありませんよ?」

 受付の女性も説得を試みる。突然入ってきて手配書を見て、ギルド職員が指名手配犯だなんていうのだ、出て行って欲しいのが正直な所だろう。

「う~ん、確かに変装は上手いんだけどさ、雑なんだよな~、目鼻口の作りがさ」

 ピクリと目元が動き、また笑いだす男性職員。

「ふふふ、作りと言われても、これが親からもらった顔ですので、雑と言われましても」

「じゃあさ、これでどう?」

 パメラは素早くナイフを取り出し、男性職員の顔目がけて投げつけた!
 ナイフのあまりの速さに男性職員は反応できず、頬がナイフで切り裂かれてしまう。

「キャー!」

 受付の女性が悲鳴を上げるが、周囲はざわつきこそすれ、パメラを咎める声は無い。理由? それは……。

「……どうしてわかった。俺の変装は、親兄弟でも見破れないのに」

 頬が大きく切り裂かれているにも関わらず、血が一滴も流れていないのだ。
 もう無駄だと踏んだのだろう、顔に付いている変装を外し始めると、指名手配書に書かれている顔が現れた。

「どうして分かったんだろうねぇアタイは。確かに変装スキルや罠を見破るスキルはあるけど、こんな簡単に見破れるとは思わなかったよ」

 修斗の精液の成果だろう。ステータスが上がったのと同様に、スキルのレベルも上がったのだ。

「チッ! バレちまったらしょうがねぇ! そのカワイイ顔を切り刻んでやるぜ!!」

 男性職員の腕に仕込まれた4本の投げナイフを、パメラの顔めがけて投げつけた!
 ナイフは正確にパメラの顔に向かい、そして……パメラの左手に4本の投げナイフが持たれていた。

「あ、あん? なにしやがった! チッ! ならこっちだ!」

 背中に隠されていた小型の弓を構え、矢を撃ち出す。
 矢の先端には火薬が付いており、命中と同時に爆発する仕組みだ。

 矢は……男性職員に命中していた。

「がはぁ!!」

 大きな腹に命中したが、腹も作りものだったようで、血が出ていない。
 しかし衝撃が大きかったようで、腹を押さえて悶えている。

「な、なんだ!?!? どうして撃った矢が俺に当たっている!?!?」

 その疑問は、修斗以外のギルドにいる人間すべての疑問だった。
 何の事は無い、投げられたナイフはパメラからすると止まって見えたから指でつまんて持ち替え、矢が飛んできたから受け止めて投げ返した……だけだ。

 そして冒険者達が出した答えがこれだ。

「あの美人な姉さん、めっちゃ強くねーか?」
「投げられたナイフを受け止めて、矢を投げ返したのか? 神かよ」
「美人で強いって、おい、パーティーに誘おうぜ!」
「どこの勇者だ? 俺を弟子にしてくれよ」

 ナンパ……もとい、勧誘合戦が始まった。
 それぞれが魅力的な条件を出すが、パメラにはどれもつまらない条件でしかなかったようだ。

「ごめんよ、アタイはシュウトの物だからさ、誘いは受けれないんだ」

 シュウト、そう呼んでパメラが見たのは男の子。
 はた目には10歳の男の子で、とてもパメラとは釣り合わな……全員が納得したようだ。

「あんな美少年なら仕方がねぇな」
「くそっ! 折角の好みの女性だったのに!」
「あ~あ、羨ましい」

 ギルドにいる冒険者すべてが残念がっている。が、シュウトの魅力値が高いため、全員が納得せざるを得なかったようだ。
 本当は捨てるつもりだったパメラが人気者で、さらに修斗のモノ発言をした事により、修斗は妙な優越感に浸っている。

 そうこうしているうちに、もだえていた男性ギルド職員改め、モーガイは捕らえられ、両腕を後ろで縛られていた。

「く、くそぅ、何年も騙せてたのに、どんだけ勘が良いんだよあの女!」

 勘ではなく確信していたが、その理由はパメラ自身も分からず、説明なんてできない。だがようやく自分の変化が気になったらしく、ステータスを確認した。
 しかし何も言わず、表情すら変えずに閉じてしまう。
 桁が1つ増えていたのだ、何かの間違いだと思ったに違いない。
 
「ありがとうございます! まさかギルド内の潜り込んでいたなんて……本当に助かりました!」

 ギルドの受付嬢数名と、その後ろで他の職員も頭を下げている。
 このままギルド職員として信頼され、重要な仕事に就いたとしたら、その情報を悪人に流される危険があったのだ。
 それは冒険者の命に直結し、ギルドの信頼を失う事にもなる。

 その所為か、賞金は色を付けた様だ。

「これだけあれば魔法の書を買えるな」

「600Gあれば他の魔法の書も買えるね」
 
 冒険者ギルドを出る2人の顔は、とてもホクホクだった。
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