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第4話 リーダーの初仕事

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 チンピラのアジトで一夜を過ごした修斗は、殺した男に成り代わってチンピラのボスになる事にした。
 まずは身だしなみを整え髪切る。
 風呂なども全て女・パメラがやったが、髪を切った修斗は幼いながらも美少年だった。風呂に入っている時にパメラが我慢できなくなり、1度だけ相手をした様だ。

「お前はヤル事しか考えていないゴミ女か? 他に役に立たないのなら殺すぞ」

「シュウトに殺されるならいいよ」

「そうか、なら捨てる。お前の事をキレイに忘れて、街ですれ違っても目すら合わせない」

「わ、忘れるのは止めて! 大丈夫だよ、アタイは盗賊としての技術は一通りあるし、欲しいものがあったら何でもってくるよ」

 殺すと言われた時は目をつむって首を差し出したが、捨てると言われたら慌てふためいている。普通は逆だろうとも思うが、殺される事よりも捨てられ、忘れられることの方が嫌なのだろう。

 食事を取ろうと部屋に戻るが、まだ昨日殺した男の死体が残っていた。
 まだ血が乾いておらず、潰された頭の周辺は赤い池が出来ている。

「パメラ、アレを捨ててこい」

「そうだね、おいお前たち! 捨ててきな!」

 手下に指示するパメラだが、修斗が口を挟んだ。

「手下じゃない、俺はお前に捨てて来いと言ったんだ。そうだな、そのままだと大きくて邪魔だろうから、のこった足を斬り落としてから捨ててこい」

 そう言って男が使っていた折れた剣を投げ渡す。
 この男は、元々はパメラの男だ。その男の死体を、死んでいるとはいえ、体を刻んで捨てて来いと命令したのには理由があった。
 どれだけ自分の命令を聞くのか試したかったのだ。
 
 今のパメラは修斗の言いなりだ。それでも完全には信用しておらず、切っ掛けがあれば裏切るかもしれない。
 
「そうだね、ごめんよシュウト。でもさ……」

 修斗が目を細め、パメラの次の言葉をまつ。

「でもさ、この剣は折れてるし切れ味が悪いから、斧を持ってきてもいい? カンタンに切り落とせると思うし。胴体も半分にしたら、もっと小さくなるからさ」

「……いいだろう」

 パメラは隣に部屋に入り、斧を手にして戻ってきた。
 木こりが使うような斧ではなく、戦闘に使いそうな斧だ。
 その斧を、何のためらいもなく足に振り下ろし、両足を更に半分に切り、胴体も半分に切り分けた。

 それをズダ袋数個に入れ、担いで捨てに行こうとする。

「おい、お前たちも手伝ってやれ」

「へ、へい!」

 ズダ袋数個だが、パメラでは2~3回に分けないと捨てられない。
 ここまでするのなら問題は無いだろうと判断し、手下も使う事にした。

 血の池も掃除をさせてキレイになり、ゆっくりと食事を取っている。
 チンピラ屋敷だが、間違いなく一般庶民よりはいい生活を送っているだろう。パンは柔らかく、温かいスープは具も沢山入っている。

「思ったより美味いな。お前たちはどうやって金を手に入れてるんだ?」

「アタイらはクスリを売るのがメインだよ。他には街の店から場所代みかじめ料を取ってるし、盗みもやるよ」

「貴族や王族とは繋がりは無いのか?」

「流石にないねぇ……ボスなら繋がりがあるかもしれないけど」

「ボスだと? 捨ててきた男じゃなく、他にもいるのか?」

「そうだよ。あの男はボスの部下だし、アタイらはさらに部下になるね」

 少し考える修斗。ボスがいるのなら、そのボスを潰せば更に行動範囲が広がるだろうし、そいつを狙わない手は無い。
 
「よし、メシを食い終わったらボスの所に行くぞ。そのボスの上にも誰かいるのか?」

「ボスの上はアタイには分からないよ。でもボスはやめておいた方がいいよ? だってボスは元騎士なんだ、あの男とは勝負にならない位に強いんだよ」

 随分と否定的な意見が出てきた。
 いまパメラが拗ねて、ボスの居場所を吐かなくなるのは困る。そう考えた修斗は言い方を変えた。

「そうか。ならボスに挨拶にいくぞ。このグループの新しいリーダーになったって報告をしないとな」

「そうだね、その方がいいよ。シュウトがボスに痛めつけられるのを、見たく無いからさ」
 
 単純な奴だな。そう思いながらも便利な女だと再認識した。

 食事を終えて着替えるが、子供サイズが無いため、パメラがどこかからか調達してきた物を着る事になった。
 スラムでは場違いなほど上等な服で、貴族とは言わないが、良いとこのお坊ちゃんにしか見えない。

 しかし修斗はセンスが皆無なため、それが良いのか悪いのかが分からず、渡された服のままで出かけるのだった。




 スラムを抜けて街中を通る。街は活気があり、道の左右は露店であふれかえり、行きかう人も非常に多い。
 そのため、迷子になるから! とパメラと修斗は手を繋いだ。
 年の離れた姉弟していか、場合によっては親子に見えるかもしれない。

 街を抜けて少し落ち着いた場所に出る。そこは住宅街のようだが、立ち並ぶ家々は一様に大きく、鉄格子の様な門が付いている。

「ここは随分と静かだが、家がでかいな」

「そうだよ。ここは商人や準男爵、貴族じゃないけど、それなりに成功したヤツが住んでるんだ」

 ふと、まだ手を繋いでいたのに気が付いて、修斗は手を離す。
 あ、とパメラは残念そうな顔をするが、気を取り直して後を付いて行く。

「ここだよ、ボスの家は」

 ひと際大きな家の前で止まると、豪華、というよりは悪趣味、と言った方がいい作りの家だった。
 あちこちに金製品が飾られ、悪魔の様な彫像が並び、中には番犬が数匹放し飼いにされている。

 ため息とともに門に手をかけると、パメラに止められる。

「シュウト、アタイらはここじゃない、あっちから入るんだよ」

 後を付いて行くと、裏口、というのだろうか、正門のほぼ真裏に小さな扉があり、パメラは腰を曲げてくぐり抜けた。
 修斗はそのまま通れたが、なるほど、悪事を働く奴らはここから出入りするのだろうと理解した。

 中には数名の悪人顔が道を塞いでいたが、パメラが一言二言、言葉を交わすと、通れと言わんばかりに道をあけた。

 手入れのされていない、人一人分以外は草が生え放題の道を通り、屋敷の裏口から中に入ると、外とはうって変わり、キレイに磨き上げられた廊下だった。
 窓が無いため外の光は入らないが、蝋燭ろうそくが左右交互に置かれているため、思った以上に明るい。

「ボスの名前はギュー。元騎士団で、第3騎士団の隊長をしていたんだ。だから腕っぷしが強いうえに、色んな所と繋がりを持ってる。だから誰も歯向かえないんだよ」

「ほぅ、では仲良くした方が美味しい思いが出来そうだな」

「そうそう。ボスとは上手くやった方が良い事があるよ」

 どうやらパメラはギューを恐れてはいないが、歯向かう気は一切ない様だ。
 騎士団の隊長をしていたのだから、それなりにカリスマ性があるのだろう。

「ここだよ」

 窓のない通路を進み、階段を登って3階まで来ると、重そうな鉄の扉がある。
 その両脇には、これまた人相の悪い、体のデカイ奴がイスに座っていた。

「こんにちは。ボスに紹介したい人物がいるんだ」

 パメラが2人に声を掛けるとイスから立ち上がり、鉄の扉を体重をかけて開け始める。中には男が1人豪華な椅子に座り、ひじ掛けに頬杖をついている。
 この男がギューだろうか。

 頭のテッペンはハゲているが、横と後ろ髪は長く、口ひげが大きな三日月のように上に向けて吊り上がっている。
 とても体格が良く、騎士団だったというのも納得がいく。

「よく来たなパメラ。やっと俺の女になる気になったのか?」

「残念ながら違いますよボス。今日はアタイらの新しいリーダーを紹介しに来たんだ」

「リーダーだと? あの男はどうした」

「新しいリーダーに殺されちまいました」

「ふむ。あいつはそれなりに強かったはずだが、まさかそこの子供が倒したわけではあるまい?」

「この人だよ。ただの子供だと思ったら大間違いですよ?」

 パメラが修斗の背中を軽くたたく。挨拶をしろという合図だろう。

「初めまして、修斗と言います。若輩者ですが、どうぞよしなに」

 子供とは思えない挨拶に、ギューは少々面食らっている。
 ……いや、面食らっているのはそれだけでは無い様だ。

「ほほ~、中々の美少年ではないか。どうだ、チンケなチンピラのリーダーではなく、私のモノにならないか? パメラ共々可愛がってやるぞ」

 そう言いながら席を立ち、修斗の前で屈むと、両手で修斗の顔を撫でまわし、まるでキスをしそうな距離まで顔を近づける。
 そして、片手を修斗の股間へと移動させる。

「おお、これはこれは、見た目とは裏腹に凶悪な物を持っておるな」

 修斗の股間を数回握ると……ギューは口から血を吐いて後ろに吹き飛んだ。

「くせぇ口を近付けんじゃねーよオッサン。それと、俺のを勝手に触った罪、償わせてやるよ」
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