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第2章 王太子の楽しみ
8. 相談事
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「次の茶会でちゃんと誤解を解きなさいよ」
足を組んで偉そうにふんぞり返ったイレーヌが、高級な酒のつもりなのか、
ジュースを注いだワイングラスを片手に諫言をしてくる。
俺から事情を聞いて一しきり爆笑した挙句、この態度だ。
素直に相談できるのがこいつしかいないのは、我ながら不甲斐ない。
それでもこんな態度ではあるが、イレーヌは同じ王族で口は堅いし、
二次元限定とはいえ恋愛パターンにも熟知しているのだ。
若干の無作法には目を瞑り、緊急避難的に相談相手に
なってもらうことにした。
「だが俺は彼女とは違って話術が巧みではない。相手を楽しませるのは
俺以外の者たちの役目だったし、その必要もなかったからな」
「誤解を解くのに話術なんて関係ないでしょ?」
「大いに関係ある! 相手は才能の塊だぞ! つまらない誤解の解き方
なんてしてみろ。やっぱりこいつと居てもつまらないと落胆するはずだ。
だが俺は生憎、面白い話題も提供できないし、リアクション芸も出来ない。
これも高貴な生まれゆえの悩みかもしれぬがな……」
後で嫌がる近衛騎士団長に調査させたところ、実際、彼女が入った
バーは都市伝説バーで、そこでも彼女はマスターと大いに盛り上がった
そうだ。
次に入った花屋でも怪談話で店主と盛り上がったと言うし、彼女の
コミュニケーション能力には舌を巻くばかりだ。
地位があり、聡明で顔が良いだけの俺とは違う。
「小手先のテクニックはいらないの。正直に自分の気持ちを伝えなさい」
「だからそれが難しいと何度も……!」
「つまらないプライドを捨てろってこと! でないとメリッサさんに見捨て
られて、別の相手に取られてしまうかもよ?」
「はあ? 王太子を婚約者にもつレディーにアプローチするような輩が、
この国に居るわけがないだろう!」
「別の国だったら?」
「え……?」
「別の国の人なら関係ないでしょ? あなたは知らないでしょうけれど、
メリッサさん、先週末にイーリス島まで小旅行をしていたのよ。その時にね……」
急に悪戯っぽい表情になったかと思うと、イレーヌが顔を近づけて小声で
聞き捨てならないセリフを吐いた。
晴天の霹靂とはこのことだ。
俺はメリッサ嬢との距離をなんとかしようと焦ってはいたが、そちらの方面
には全く注意を払っていなかったからだ。
考えてもみろ。
王太子かつ眉目秀麗で聡明と名高い俺に張り合おうという者など、常識的に
考えて存在しないはずだ。それなのに……!
「お、おい、待て! イレーヌ、お前、何か知っているのか?」
「まあ、私は良い売り子が手に入ったから得しちゃったけれどね」
「どういう意味だ?」
「こっちの話よ。それより、いい? 素直に自分の気持ちを言って誤解を解く
のよ」
だから、それが難しいというのに。
お小言は要らない。
肝心のイーリス島での出来事について話せ。
「つまらないプライドは百害あって一利なし。肝に銘じなさい」
ビシッと俺にそう言い含めると、イレーヌは「今日は推しキャラのロマンド様
の誕生日なので」と言い残して帰っていった。
ロマンドなんて、ほぼ俺を二次元にしたキャラではないか。
それなのに態度が違いすぎやしないか。
以前そう口にした時には、本気でぶん殴られそうになったので、今日はやめて
おく。
俺は過去から学ぶ男なのだ。
しかし素直に自分の気持ちを打ち明ける――難題だ。
社交辞令に囲まれて育った俺にはハードルが高すぎる。
しかも相手は話術が巧みときているのだ。
――さらに気になるのは、イーリス島でメリッサ嬢の身に何があったのか。
これでは相談したのに、余計に悩む結果になってしまったではないか!
山積する課題に、俺は一人頭を抱えた。
足を組んで偉そうにふんぞり返ったイレーヌが、高級な酒のつもりなのか、
ジュースを注いだワイングラスを片手に諫言をしてくる。
俺から事情を聞いて一しきり爆笑した挙句、この態度だ。
素直に相談できるのがこいつしかいないのは、我ながら不甲斐ない。
それでもこんな態度ではあるが、イレーヌは同じ王族で口は堅いし、
二次元限定とはいえ恋愛パターンにも熟知しているのだ。
若干の無作法には目を瞑り、緊急避難的に相談相手に
なってもらうことにした。
「だが俺は彼女とは違って話術が巧みではない。相手を楽しませるのは
俺以外の者たちの役目だったし、その必要もなかったからな」
「誤解を解くのに話術なんて関係ないでしょ?」
「大いに関係ある! 相手は才能の塊だぞ! つまらない誤解の解き方
なんてしてみろ。やっぱりこいつと居てもつまらないと落胆するはずだ。
だが俺は生憎、面白い話題も提供できないし、リアクション芸も出来ない。
これも高貴な生まれゆえの悩みかもしれぬがな……」
後で嫌がる近衛騎士団長に調査させたところ、実際、彼女が入った
バーは都市伝説バーで、そこでも彼女はマスターと大いに盛り上がった
そうだ。
次に入った花屋でも怪談話で店主と盛り上がったと言うし、彼女の
コミュニケーション能力には舌を巻くばかりだ。
地位があり、聡明で顔が良いだけの俺とは違う。
「小手先のテクニックはいらないの。正直に自分の気持ちを伝えなさい」
「だからそれが難しいと何度も……!」
「つまらないプライドを捨てろってこと! でないとメリッサさんに見捨て
られて、別の相手に取られてしまうかもよ?」
「はあ? 王太子を婚約者にもつレディーにアプローチするような輩が、
この国に居るわけがないだろう!」
「別の国だったら?」
「え……?」
「別の国の人なら関係ないでしょ? あなたは知らないでしょうけれど、
メリッサさん、先週末にイーリス島まで小旅行をしていたのよ。その時にね……」
急に悪戯っぽい表情になったかと思うと、イレーヌが顔を近づけて小声で
聞き捨てならないセリフを吐いた。
晴天の霹靂とはこのことだ。
俺はメリッサ嬢との距離をなんとかしようと焦ってはいたが、そちらの方面
には全く注意を払っていなかったからだ。
考えてもみろ。
王太子かつ眉目秀麗で聡明と名高い俺に張り合おうという者など、常識的に
考えて存在しないはずだ。それなのに……!
「お、おい、待て! イレーヌ、お前、何か知っているのか?」
「まあ、私は良い売り子が手に入ったから得しちゃったけれどね」
「どういう意味だ?」
「こっちの話よ。それより、いい? 素直に自分の気持ちを言って誤解を解く
のよ」
だから、それが難しいというのに。
お小言は要らない。
肝心のイーリス島での出来事について話せ。
「つまらないプライドは百害あって一利なし。肝に銘じなさい」
ビシッと俺にそう言い含めると、イレーヌは「今日は推しキャラのロマンド様
の誕生日なので」と言い残して帰っていった。
ロマンドなんて、ほぼ俺を二次元にしたキャラではないか。
それなのに態度が違いすぎやしないか。
以前そう口にした時には、本気でぶん殴られそうになったので、今日はやめて
おく。
俺は過去から学ぶ男なのだ。
しかし素直に自分の気持ちを打ち明ける――難題だ。
社交辞令に囲まれて育った俺にはハードルが高すぎる。
しかも相手は話術が巧みときているのだ。
――さらに気になるのは、イーリス島でメリッサ嬢の身に何があったのか。
これでは相談したのに、余計に悩む結果になってしまったではないか!
山積する課題に、俺は一人頭を抱えた。
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