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第2章 王太子の楽しみ
7.帰り道
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店へ入ってから1時間は経過しただろうか。
彼女が店を出たのは、外がすっかり真っ暗になった時刻だった。
その間、近衛騎士団長から「不審者にしか見えないから城へ帰れ」だの
失礼な小言を散々言われたが、意思の強い俺は 毅然として 撥ねつけたりと
忙しい時間を過ごしていた。
この暗い夜道で何かあっては一大事。
すぐに俺は、彼女の後を追う。
「そろそろ帰ろう」
勇気を出して、もう一度彼女に話しかける。
幸いもう暗い。
いかに気分を害してようと、ともに帰ろうと提案するのはおかしくは
ないはずだ。
「もう遅い。屋敷まで送っていくから帰ろう」
「今日はまだもう1つ行きたい場所があるから、結構ですわ!」
「それなら今度こそ一緒に行く。俺はこの国の王太子だ。婚約者を一人で
こんな寂しい場所で放ってはおく訳にはいかない」
なんとか説得せねば。
茶会を途中離脱された挙句、暗い時間にひとりで婚約者を帰すなんて、
俺の紳士的な評判に大いに傷がつく。
真剣に俺は説得を開始した。
「分かりました。今日はもう帰りますわ」
才気 溢れる俺の 渾身の説得に心を打たれたのか、
メリッサ嬢は今度はあっさりと折れて帰ることに同意してくれた。
だがここにきて急に素直な反応を返されると、今度は逆に不安になる。
内心不満を秘めているのではないか。
すっかり疑心暗鬼になった俺は、先手を打つことにした。
「良いのか? 行きたい場所があると言っていたではないか?」
「ええ。また後日に行きます」
良かった。
素直に俺の説得を受け入れてくれていたようだ。
「そうか……」
「……その代わり」
「その代わり?」
「その代わり」とはなんだ?
交換条件か?
思わず俺は緊張する。
「ショートコント、ゴブリンと未確認生物!」
「!?」
……。
…………。
………………。
俺は固まった。
粗削りながらシュールさと型にはまらない斬新なオチ。
テンポが良く、飽きさせない構成。
もはやネタというより、芸だ。
彼女はどれだけの才能の引き出しを持っているというのか。
それに引き換え、俺は彼女を楽しませるような才能は何一つない。
世間一般から称賛されている俺のあらゆる美点も、ここでは
無価値に等しい。
ほら見ろ。
俺のリアクションがつまらなすぎて、すっかり彼女を落ち込ませて
しまったではないか。
しかしリアクション、リアクションか……。
リアクション芸など、今まで生きてきて考えたこともない。
リアクションが要求されるのは、周囲の役目だったからだ。
結局、最高のリアクションについて悩んだまま彼女を屋敷まで送り、
次の茶会の日程だけ調整して別れることになってしまった。
彼女が店を出たのは、外がすっかり真っ暗になった時刻だった。
その間、近衛騎士団長から「不審者にしか見えないから城へ帰れ」だの
失礼な小言を散々言われたが、意思の強い俺は 毅然として 撥ねつけたりと
忙しい時間を過ごしていた。
この暗い夜道で何かあっては一大事。
すぐに俺は、彼女の後を追う。
「そろそろ帰ろう」
勇気を出して、もう一度彼女に話しかける。
幸いもう暗い。
いかに気分を害してようと、ともに帰ろうと提案するのはおかしくは
ないはずだ。
「もう遅い。屋敷まで送っていくから帰ろう」
「今日はまだもう1つ行きたい場所があるから、結構ですわ!」
「それなら今度こそ一緒に行く。俺はこの国の王太子だ。婚約者を一人で
こんな寂しい場所で放ってはおく訳にはいかない」
なんとか説得せねば。
茶会を途中離脱された挙句、暗い時間にひとりで婚約者を帰すなんて、
俺の紳士的な評判に大いに傷がつく。
真剣に俺は説得を開始した。
「分かりました。今日はもう帰りますわ」
才気 溢れる俺の 渾身の説得に心を打たれたのか、
メリッサ嬢は今度はあっさりと折れて帰ることに同意してくれた。
だがここにきて急に素直な反応を返されると、今度は逆に不安になる。
内心不満を秘めているのではないか。
すっかり疑心暗鬼になった俺は、先手を打つことにした。
「良いのか? 行きたい場所があると言っていたではないか?」
「ええ。また後日に行きます」
良かった。
素直に俺の説得を受け入れてくれていたようだ。
「そうか……」
「……その代わり」
「その代わり?」
「その代わり」とはなんだ?
交換条件か?
思わず俺は緊張する。
「ショートコント、ゴブリンと未確認生物!」
「!?」
……。
…………。
………………。
俺は固まった。
粗削りながらシュールさと型にはまらない斬新なオチ。
テンポが良く、飽きさせない構成。
もはやネタというより、芸だ。
彼女はどれだけの才能の引き出しを持っているというのか。
それに引き換え、俺は彼女を楽しませるような才能は何一つない。
世間一般から称賛されている俺のあらゆる美点も、ここでは
無価値に等しい。
ほら見ろ。
俺のリアクションがつまらなすぎて、すっかり彼女を落ち込ませて
しまったではないか。
しかしリアクション、リアクションか……。
リアクション芸など、今まで生きてきて考えたこともない。
リアクションが要求されるのは、周囲の役目だったからだ。
結局、最高のリアクションについて悩んだまま彼女を屋敷まで送り、
次の茶会の日程だけ調整して別れることになってしまった。
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