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第2章 王太子の楽しみ
3.茶会のお約束ごと
しおりを挟む婚約が決まると、俺はすぐさま月に1度のお茶会をすることを提案した。
もちろん彼女の話を聞きたいからだ。
俺の言葉を額面通り信じていたメリッサ嬢は、まさか婚約することに
なるとは夢にも思っていなかったらしく、初めての茶会の日は
「どうして私が……?」とでも言いたげな顔をしていた。
今まで他人からこんな表情を向けられたことのない俺にとっては、その
表情すらも新鮮だ。
だがそれでもメリッサ嬢は、母上から俺の機嫌を損ねず結婚までつつがなく
進めるようにと厳命を受けているらしく反発するような言動はしなかった。
――彼女もやはり優良物件を手放したくないからなのだろうか。
恵まれているがゆえの悩みだ。
疑う気持ちも無くはなかったが、おいおい距離は縮めていけばよい。
『話をしよう』
俺が本題を切り出すと、緊張でカチコチだった彼女の表情がフッと緩み、
少しずつ口調も滑らかになっていく。
前回のサロンでのやり取りを誰かに話したのか、彼女が切り出した話題
は天気の話題だった。
当たり障りのない話題のエース級の存在だが、それでも豊かな教養に
裏付けされているので、嘘のように面白い。
そして行き着いた先は、やはりオカルト。
気象に関する伝説上の生き物の話に落ち着く。
いや、そうはならんだろう――という結末に落ち着くのが、彼女の真骨頂だ。
先が読めなくてハラハラする。
――そうだ。こういった話題が聞きたかったのだ!
胸の探り合いのような会話ではなく、会話をしていること自体の実績を積む
ためでもない。
それでいてどこか教養も得られて夢がある。
彼女との茶会は、やはりとても有意義だ。
そしてこれほど話し上手であるにも関わらず、自分を平凡な貴族の娘だと
思い込んでいるのも興味深い。
ほとんど聞き役だが、俺は常に満足し、この茶会の日を指折り数えるほど
楽しみにしていた。
そんなある日、彼女がありえない質問をしてきた。
『あの、クラリオン様は、お話をする以外に何か他になさりたいことは、
ありますか?』
そんなもの、ある訳がない。
どうしてそんな質問をするのか理解に苦しむ。
……いや、待てよ。
これはもしかして誘っているのか?
「話だけなんてまどろっこしい。もっと先に進みましょう」という意思表示
なのか?
意外と積極的なのだな。
しかし結婚前の令嬢が軽はずみなことをするのは、リスクが高すぎる。
気持ちは嬉しいが、ここは上手に断ろう。
直接的ではなく、遠回しにさらりと。
勇気を出して申し出てくれた彼女を傷つけないために。
俺は紳士なのだ。
『そうだな。本が読みたい』
その日だけのつもりの俺の言葉だったが、律儀なメリッサ嬢はその日以降
延々と守ってくれることになってしまった。
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