上 下
9 / 17
第2章 王太子の楽しみ

1.出会い

しおりを挟む
 自分で言うのもなんだが、俺は恵まれている。

 生まれながらに王太子の地位が約束され、幼い頃から褒められていた
容姿も崩れることなく年を重ね、書物も読めばすんなりと理解できた。

 常に好意で迎えられ、困難というものに遭った試しがない。
 
 言ってみれば勝ちが決まっているゲームをただ淡々とプレイする
――そんな人生だ。

 
 しかしだからとって環境に甘んじることなく、俺は常に精進を重ねて
いた。ここが数多あまたのボンクラ跡継ぎとは異なる。

 一見華やかに見える王宮が権謀術数けんぼうじゅつすう渦巻く恐ろしい場所であることを
知るのに、賢い俺にはそれほど時間はかからなかったからだ。

 そのため自衛のためにも、俺は常に自分を高めることに集中してきた。

 外見に学業、王族に相応しいマナーに隙を見せない立ち居振る舞い、
国内状況や人間関係の把握――やることは山のようにある。

 しかも全部に目に見える結果を出さなければならない。
 遊んでいる時間はない。


 そんな多忙極める俺に、母上が見合いを勧めてきた。

 見合いの話など、もう何度目か覚えていないほど持ち掛けられ、
その全てを俺は断ってきた。

 といっても気遣いも出来る俺だ。
 断り方もスマートになるよう心掛けている。

 実際に会うと相手の令嬢を傷つけてしまうから、会う前に「彼女自身には
いかんともし難い理由」をつけて断っているのだ。

 王族たるもの、女性に恥をかかせる訳にはいかないからな。
 
 もちろんいずれはそれなりの身分の女性と結婚して、この国を治めること
になるのは確定事項。
 それも執務と外交交渉、貴族や議院との駆け引きと並行して成し遂げ
なければならない。 

 そこまでいって初めてミッション・コンプリート。
 正解が既定路線として敷かれている身分なのだ。

 伴侶となる女性にも同等のプレッシャーがかかるはず。
 それが分かっているからこそ、結婚を急ぐつもりはない。

 だからこの見合いも、いつものように断るつもりだった。 
 
 
 ――だが、その見合いの話を持ち掛けた人物は、そんな俺の気遣いを逆に
利用してきた。

 返事をする期限の前に、見合い相手を俺の前に連れてきてしまったのだ。
 その見合い相手が侯爵家のメリッサ嬢だった。

***

『え……お、王太子殿下……?』

 指定されたガゼボで初めて出会った彼女は、その日会うのが私だとは
知らなかったようで、驚きに目を丸くしていた。

 その様子で、彼女も自分の母親に乗せられただけなのだと察し、思わず
同情してしまう。

「後は、若い二人で! 私は席を外すわね! ほほほ!」

 場を整えるとメリッサ嬢の母親は颯爽さっそうとその場を去ってしまい、
二人きりになり、ますます居心地が悪くなる。
 だから見合いは会う前に断っているというのに。


『クラリオンで良い。学園では皆にもそう呼んでもらっている』

『は、はあ。承知いたしました、王太子殿下』

『クラリオンだ』

『承知しました。……クラリオン様』

『うむ』

 母親の侯爵夫人は、権謀術数の渦巻く宮殿の中でも卓越した才を持つ御人
のようで警戒していたが、娘の令嬢はその資質は受け継いでいない素直な
性質のようだ。

 ――もちろん、この素振りも計算である可能性も否定できないが。 

 だからそれを試す意味も込めて、俺は正直な気持ちを打ち明けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

物語は続かない

mios
恋愛
「ローズ・マリーゴールド公爵令嬢!貴様との婚約を破棄する!」 懐かしい名前を聞きました。彼が叫ぶその名を持つ人物は既に別の名前を持っています。 役者が欠けているのに、物語が続くなんてことがあるのでしょうか?

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

今、婚約発表した2人は聞かせたいことがある!

白雪なこ
恋愛
短編「今、婚約破棄宣言した2人に聞きたいことがある!」に出てきた王弟ジーリアス・エンゲレスの婚約発表の話です。 彼から大事な話があるそうなので、聞いてあげてください。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

処理中です...