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第2章 王太子の楽しみ
1.出会い
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自分で言うのもなんだが、俺は恵まれている。
生まれながらに王太子の地位が約束され、幼い頃から褒められていた
容姿も崩れることなく年を重ね、書物も読めばすんなりと理解できた。
常に好意で迎えられ、困難というものに遭った試しがない。
言ってみれば勝ちが決まっているゲームをただ淡々とプレイする
――そんな人生だ。
しかしだからとって環境に甘んじることなく、俺は常に精進を重ねて
いた。ここが数多のボンクラ跡継ぎとは異なる。
一見華やかに見える王宮が権謀術数渦巻く恐ろしい場所であることを
知るのに、賢い俺にはそれほど時間はかからなかったからだ。
そのため自衛のためにも、俺は常に自分を高めることに集中してきた。
外見に学業、王族に相応しいマナーに隙を見せない立ち居振る舞い、
国内状況や人間関係の把握――やることは山のようにある。
しかも全部に目に見える結果を出さなければならない。
遊んでいる時間はない。
そんな多忙極める俺に、母上が見合いを勧めてきた。
見合いの話など、もう何度目か覚えていないほど持ち掛けられ、
その全てを俺は断ってきた。
といっても気遣いも出来る俺だ。
断り方もスマートになるよう心掛けている。
実際に会うと相手の令嬢を傷つけてしまうから、会う前に「彼女自身には
いかんともし難い理由」をつけて断っているのだ。
王族たるもの、女性に恥をかかせる訳にはいかないからな。
もちろんいずれはそれなりの身分の女性と結婚して、この国を治めること
になるのは確定事項。
それも執務と外交交渉、貴族や議院との駆け引きと並行して成し遂げ
なければならない。
そこまでいって初めてミッション・コンプリート。
正解が既定路線として敷かれている身分なのだ。
伴侶となる女性にも同等のプレッシャーがかかるはず。
それが分かっているからこそ、結婚を急ぐつもりはない。
だからこの見合いも、いつものように断るつもりだった。
――だが、その見合いの話を持ち掛けた人物は、そんな俺の気遣いを逆に
利用してきた。
返事をする期限の前に、見合い相手を俺の前に連れてきてしまったのだ。
その見合い相手が侯爵家のメリッサ嬢だった。
***
『え……お、王太子殿下……?』
指定されたガゼボで初めて出会った彼女は、その日会うのが私だとは
知らなかったようで、驚きに目を丸くしていた。
その様子で、彼女も自分の母親に乗せられただけなのだと察し、思わず
同情してしまう。
「後は、若い二人で! 私は席を外すわね! ほほほ!」
場を整えるとメリッサ嬢の母親は颯爽とその場を去ってしまい、
二人きりになり、ますます居心地が悪くなる。
だから見合いは会う前に断っているというのに。
『クラリオンで良い。学園では皆にもそう呼んでもらっている』
『は、はあ。承知いたしました、王太子殿下』
『クラリオンだ』
『承知しました。……クラリオン様』
『うむ』
母親の侯爵夫人は、権謀術数の渦巻く宮殿の中でも卓越した才を持つ御人
のようで警戒していたが、娘の令嬢はその資質は受け継いでいない素直な
性質のようだ。
――もちろん、この素振りも計算である可能性も否定できないが。
だからそれを試す意味も込めて、俺は正直な気持ちを打ち明けた。
生まれながらに王太子の地位が約束され、幼い頃から褒められていた
容姿も崩れることなく年を重ね、書物も読めばすんなりと理解できた。
常に好意で迎えられ、困難というものに遭った試しがない。
言ってみれば勝ちが決まっているゲームをただ淡々とプレイする
――そんな人生だ。
しかしだからとって環境に甘んじることなく、俺は常に精進を重ねて
いた。ここが数多のボンクラ跡継ぎとは異なる。
一見華やかに見える王宮が権謀術数渦巻く恐ろしい場所であることを
知るのに、賢い俺にはそれほど時間はかからなかったからだ。
そのため自衛のためにも、俺は常に自分を高めることに集中してきた。
外見に学業、王族に相応しいマナーに隙を見せない立ち居振る舞い、
国内状況や人間関係の把握――やることは山のようにある。
しかも全部に目に見える結果を出さなければならない。
遊んでいる時間はない。
そんな多忙極める俺に、母上が見合いを勧めてきた。
見合いの話など、もう何度目か覚えていないほど持ち掛けられ、
その全てを俺は断ってきた。
といっても気遣いも出来る俺だ。
断り方もスマートになるよう心掛けている。
実際に会うと相手の令嬢を傷つけてしまうから、会う前に「彼女自身には
いかんともし難い理由」をつけて断っているのだ。
王族たるもの、女性に恥をかかせる訳にはいかないからな。
もちろんいずれはそれなりの身分の女性と結婚して、この国を治めること
になるのは確定事項。
それも執務と外交交渉、貴族や議院との駆け引きと並行して成し遂げ
なければならない。
そこまでいって初めてミッション・コンプリート。
正解が既定路線として敷かれている身分なのだ。
伴侶となる女性にも同等のプレッシャーがかかるはず。
それが分かっているからこそ、結婚を急ぐつもりはない。
だからこの見合いも、いつものように断るつもりだった。
――だが、その見合いの話を持ち掛けた人物は、そんな俺の気遣いを逆に
利用してきた。
返事をする期限の前に、見合い相手を俺の前に連れてきてしまったのだ。
その見合い相手が侯爵家のメリッサ嬢だった。
***
『え……お、王太子殿下……?』
指定されたガゼボで初めて出会った彼女は、その日会うのが私だとは
知らなかったようで、驚きに目を丸くしていた。
その様子で、彼女も自分の母親に乗せられただけなのだと察し、思わず
同情してしまう。
「後は、若い二人で! 私は席を外すわね! ほほほ!」
場を整えるとメリッサ嬢の母親は颯爽とその場を去ってしまい、
二人きりになり、ますます居心地が悪くなる。
だから見合いは会う前に断っているというのに。
『クラリオンで良い。学園では皆にもそう呼んでもらっている』
『は、はあ。承知いたしました、王太子殿下』
『クラリオンだ』
『承知しました。……クラリオン様』
『うむ』
母親の侯爵夫人は、権謀術数の渦巻く宮殿の中でも卓越した才を持つ御人
のようで警戒していたが、娘の令嬢はその資質は受け継いでいない素直な
性質のようだ。
――もちろん、この素振りも計算である可能性も否定できないが。
だからそれを試す意味も込めて、俺は正直な気持ちを打ち明けた。
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