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第1章 メリッサの決意

5.目的地

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 王都の繁華街の一角にあるバーの扉をくぐる時、視界の端にクラリオン様の
お姿が見えました。
 私が振り向くと、お気づきになったのかサッと道具屋の陰にお隠れになって
しまいます。

 ――良かったわ。クラリオン様にアピール出来なければ、何も意味がありま
せんもの。
 
 安心した私は、心おきなくバーでのひと時を楽しむことにしました。


 ふうっ。

 初めて来たお店ですが、マスターが話しやすくて雰囲気も素敵。

 店内にあるオブジェも他のお客さんも店のテイストに合っていて、楽しい時間
を満喫することが出来ました!

 さすが以前イレーヌさんがお勧めしてくださったお店なだけあります……!


 
 そろそろ次の目的地に参りましょうか。

 カランとドアベルを鳴らして外に出ると、暑い中クラリオン様が遠くから
見守ってくださっております。

 いつの間にか近衛騎士団の方々まで出動し、クラリオン様の周囲が厳戒
態勢が敷かれているので、思い切り目立ってしまっています。

 でも本人的には、こっそり見張っているおつもりなので、ここは気づいて
いない振りをして差し上げるのが優しさというもの。

 私はあえて何も気づいていない素振りで歩き出します。
 
 
 ――それにしても。

 やはり効果があったようですね。
 これほど上手くいくとは想定外です。

 やはりイレーヌ先生の教えの 賜物たまものですわね!
 この調子でガンガン行きましょう!


 次に参考にしたのは「騎士団長は花売り娘を 溺愛できあいする」。
 こちらももちろんイレーヌさんからお借りした参考書です。

 ストーリーは騎士団長レオナルドが、戦地で亡くなった戦友を しのんで墓地
に墓参りに行った際に、偶然立ち寄った花屋の娘と恋に落ちるというもの。

 騎士団長レオナルドはその立場ゆえに、弱みを他人に見せられず戦友の死
をずっと思い悩んでいたところを、偶然訪れた花屋の娘ソーマが解きほぐして
しまうところから物語は始まります。

 ソーマはあくまで平凡で 朴訥ぼくとつなキャラクターなのですが、戦場や王宮政治を
切り抜けてきたレオナルドには新鮮に映ります――戦友の死に対する罪悪感から
これまで訪れることのなかった花屋という舞台装置。

 そして温かいけれどあくまでお客様と店員の関係を崩さないソーマに、
レオナルドは新鮮さを感じたのですわ!


 次に向かう先は――もちろん、花屋です。
   
 せっかくなので、前から気になっていた花屋にしましょうか。
 
 そのお店はお墓に近い場所にあって、作品の舞台となるレオナルドとソーマ
が出会う花屋と環境が似ておりますのよ。
 やはり参考にするからには、環境はより近いものを選びたいですものね。

 いそいそと私がお店に向かうと、後ろからバレバレの尾行をしていた
クラリオン様が、とうとう話しかけてきました。
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