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39. 雷雨の打ち明け話

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 ――結局、前と同じになってしまったのね。

 折から降る雨を窓越しに見ながら、私は雨空を見上げた。

 使者から聞いた戦地の状況は、前の人生とまるで同じ。
 実家に帰って死の運命から逃れられたと思い込んでいたけれど、
それは間違いだったのかもしれない。

 ――それに。

 時折思い出したかのように 稲妻いなずまが光る。
 遠く離れた戦地でも、このような荒天なのだろうか。

「……アリウス殿が、ご心配ですか?」

 なんとも言えない気持ちで 各々おのおのの日常に戻った後も、ルキウスは
 些細ささいな用事を見つけてはさり気なく そばに居て、私を
気遣ってくれる。

 オルトお兄様に命じられてのことかもしれないが、それでも一人で思い悩む
よりはずっと心強い。 

「そうね。気にならないといえば、嘘になるわ。でも、それ以上に――」

 そこから先は、言えなかった。

 ルキウスに打ち明けてしまって大丈夫だろうか――そんな 懸念けねんが口を ふさぐ。

「言わなくても良いですよ。ただ私はいつでもタリア様の傍におりますし、
いかなる時も味方です。――もちろんオルト様も。そのことだけは、お忘れ
なきよう」

 ルキウスはこういう時、いつも言い訳のように、理由にお兄様を付け加える。

 それでも気持ちは伝わる。

「ええ。ありがとう」
 
 
 外からは雨音に かみなりの音が混ざってる。
 雷が近いのかもしれない。

 ――カーテンを閉めないと。

 窓に近づいたとき、周囲に強烈な光が点滅したかと思うと、ひときわ大きな
雷の音が鳴り響いた。

 「ひやあああ」

 驚いた私は部屋の奥に逃げようとして、真後ろにいたルキウスにぶつかって
しまった。

 「え、あ、ごめんなさい」

 すぐに身体をどかそうとすると、またしても 轟音ごうおんが鳴り響く。

 「わああああ」

 恐怖のあまり、私は無意識に身体を硬直させる。

 「大丈夫ですよ。相変わらず、雷が苦手なのですね」

 そう言って、ルキウスは私の身体を抱きしめてくれた。
 私は黙ってコクコクと首を縦に振る。

 ――そういえば、ルキウスと初めて会った時も雷だった。
 
 どこか懐かしい身体の感触が、遠い日のことを思い出させる。
 
 あの頃――幼い頃誘拐された私は、同じく誘拐された子供たちと共に
賊の仕事を手伝わされていた。
 
 誘拐された子どもたちの中でも一番年下だった私は、慣れない環境に
適応できず泣いてばかりいた。

 ただでさえ誘拐されて神経が過敏になっていた他の子どもたちは、
そんな私とは距離を置いていたので、私は孤立していた。

 けれどルキウスだけは、いつも私を慰めてくれた。
  
 同じくどこからか誘拐されてきた身の上なのに、ルキウスはいつも
落ち着き、皆を励ましていたのだ。

 ――雷が鳴って怯えて泣いていたときも、こうやってルキウスに慰めて
もらっていたわね。

 今もこうして抱きしめられていると、不思議と安心する。

 誘拐されている間も、次第に私はルキウスに慰めてもらうと泣き止む
ようになっていった。
 彼には人を落ち着かせる力があった。

 そんな風に私がすっかり懐いてしまったこともあって、アリウスたち
騎士団に救出されてからも行き場がないというルキウスをお父様も、
お兄様も気に入ってファストラル家で雇うことにしたのだ。

 思えば、ルキウスは私を否定したことが一度もなかった。

 幼い私が「お化けが怖くて眠れない」と泣いていたときにも、彼はそれを
否定することはなかった。

『お化けは、泣かない子が苦手なんだよ。泣かないでいたら出てこない。
それに僕も皆も傍にいるんだ。お化けが出たら、やっつけてあげる』

 あの時は、そう言ってくれたっけ。
 そんなルキウスなら、きっと――。

 思い出に酔っていたのかもしれない。
 それでも私は賭けに出ることにした。

 ――思い切って、ルキウスに打ち明けよう。
 アリウスに離婚を宣告されたあの日からの全てを――。
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